英国のバッテリー生産工場を訪問
こんな機会はめったにない。今回われわれはEV用のリチウムイオン・バッテリーセルを自らの手で作る機会を与えられた。原材料は可燃性であり、普段は中を見ることもできないだろう。それに加え、英国でEVバッテリー研究の最先端を行く研究者に話を聞くこともできるのだ。
英国でバッテリーを素材から生産している拠点は2か所しかない。そしてそのうちの1つはウォーウィック・マニュファクチャリング・グループのプロトタイプ生産工場だ。今日のメンターはデイビッド・グリーンウッドだ。彼はバッテリー内部での電子やリチウムイオンの複雑な動きに精通している。今日はクランクシャフトにバルブ、ベアリングなどのことを忘れ、アノードとカソード、それにセパレーターやLiPF6電解液のことを考えよう。
われわれの任務は、WMGの設備を使って3.5Vの50mmx70mmのクレジットカードほどの大きさのセルを作ることだ。日産リーフやジャガーIペースなどの市販車では、これらの小さなセルを組み合わせてモジュール化し、さらにそれらをつなぎ合わせてバッテリーとするのである。
内部の部品や設計はより大型のセルと同様で、リーフやテスラなどに使われているものと変わらない。テスラの18650ものセルは形こそ違うかもしれないが、そのコンポーネンツは同じなのである。
そのプロセスは大きく4つに分けることができる。まずはアノード、次にカソードを作り、パウチに封入した後にリチウムを含む電解液を加えるのだ。しかしこれを細分化すると11の工程を経る必要がある。今回のセッションは2時間程度を要するが、テスラのギガファクトリーなどでは1秒間に20セルもの生産が可能だ。さてグリーンのグローブをはめ、白衣を着て始めよう。
アノードを作る
1.アノードの材料を計量
ここで使われる電気化学的に重要な材料は、リチウムイオンを蓄えるグラファイトだ。粉末状で用意されており、その1つの粒子はわずか10ミクロンで人の髪の毛の5分の1ほどしかない。グラファイトは水をベースとする溶媒に溶かされ、炭素やラテックスの接合材と混ぜ合わされてどろどろした液体となる。
この炭素によりグラファイトは導電性を持ち、接合材は次のステップで登場する銅のバックプレートと接着する役割を果たす。同様のプロセスはカソード作りでも用いられるが、超高純度のニッケルは取り扱いが難しく、今回は触れることはできなかった。
2.アノードを混合
この重要なステップは、パンとチョコレートを混ぜるのにも使われる機材を用いて行われる。市販用のアノード原料は数百L単位で混合される。粉末、溶媒、接合材が均一に混ざったペーストを作るため、数時間を必要とする。
3.アノードのコーティング
ペースト状になったものを導体に貼り付け、グラファイトからリチウムイオンが出入りできるようにする。銅のシートに紙の半分ほどの薄さで塗り広げるのだ。アノードには銅が、カソードにはアルミニウムが用いられる。これはセル内のコンディションにより、カソードが溶け出すのを防ぐためだ。
レイヤーを組み合わせてセルを構成
4.カレンダリング
この工程はアノードに用いられるグラファイトのコーティングを少しだけ壊すことにより、その密度を高め蓄電能力を工場させるものだ。このプロセスは繊維産業の仕上げに使われていた技術を応用している。
5.ドライルーム
リチウムは空気中で水分に触れると化学反応を起こし、セルのパフォーマンスが低下する。そのため最後のプロセスは相対湿度0.5%のドライルームで行われる。ここで働く従業員は、頻繁に水分補給を行う必要がある。
6.レイヤーの型抜き
グラファイトでコーティングされた銅のリボンがA7サイズにカットされ、レイヤーが作られる。3.5Vおよび6Ahのパフォーマンスを実現するため、われわれのセルには7のアノードと8のカソードで構成される15のレイヤーが用いられた。それぞれが型抜き機で正確にカットされ、セパレーターとインシュレーターの間に配置される。これが不正確だと、ショートや発火につながるのだ。
7.セルの組み立て
アノードの各レイヤーはセパレーターとカソードの各シートに閉じ込められる。面倒な工程だが、機械によって自動的に処理される。われわれのセルは15のレイヤーの間におよそ1mのセパレーターを使っている。
8.集電装置の溶接
超音波溶接によりアノードのレイヤーを確実に接着し、電子がセルから出入りできるようにする。
セルの整形および仕上げ
9.セルのパッキング
アノードのレイヤーがアルミ被覆ポリマーのパウチに封入される。これはコーヒー豆などのパッケージに用いられるものよりもさらに強固だ。このセル内部では15年間にわたり密封状態が保たれるが、コーヒー豆の包装ではせいぜい6か月だろう。パウチの縁はヒートシールされる。
10.電解液の追加
わずか2mlの電解液リチウム・ヘキサフルオロリン酸塩(LiPF6)がセル内に注入される。反応性が高く可燃性を持つリチウムからは水分が徹底的に排除される。われわれのA7セルの重量はおよそ200gだが、そのうちわずか4%がリチウムだ。
11.整形および熟成
これがセルを機能させるために必要な最後の工程だ。専用装置がセルの充電および放電を繰り返し、その様子を観察される。電解液とアノードの最初の反応により、このセルが有効になる。ここでガスが発生するため、以前のプロセスでパウチを大きめにしてあるが、これは後ほど切り取られる。
驚くべきことに、このセルの完成には数日を要する。テスラに使われる小型セルですら3から4日かかるが、より大きなパウチでは28日もかかるのだ。われわれのA7はおそらく2~3日で済むだろう。
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