9月13~15日、富士スピードウェイで行われたWEC世界耐久選手権第7戦・富士6時間レース。レースはポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ6号車のシーズン2勝目で幕を閉じたその一方、“残念無念”と言うしかないクラッシュで戦列を去ったのが、予選で初のポールポジションを獲得し、決勝でも活躍が期待されたキャデラック・レーシングの2号車だった。ブルーのカラーリングも眩いキャデラックVシリーズ.Rは、最後は前が見えないぐらいの痛々しいダメージを負ってしまった。
さて、このキャデラック陣営を率いているのが、ゼネラルモーターズ(GM)のスポーツカーレース・プログラムマネジャーを務めるローラ・ウォントロップ・クラウザーさんというのは、よく知られた話。数あるマニュファクチャラーの中で、唯一の女性トップである。
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だが、実はキャデラック陣営には、彼女の他にも注目の女性スタッフがいる。それが今季から同チームでストラテジストを務めている32歳のフランス人、エリーズ・モーリーさんだ。
果たして、彼女はなぜモータースポーツの世界に飛び込んだのか?
「子どもの頃、父に連れられて何回かレースを見に行って興味を持ったんだけど、当時は女性がモータースポーツの世界で仕事をできるなんて思ってもみなかった」
「だけど、学生時代からエンジニアリングに興味があって、いろいろなチームを手伝ったりしていた。そういうトライをしていて、この仕事を女性でも『できる』と思ったし、私自身の情熱が実った形になった」
■ヨーロッパのチームでキャリアを積む
ドイツ国境に近いストラスブール出身の彼女にとって、最初の就職先はWRT。ここでブランパン・シリーズ(現在のGTワールドチャレンジ)のパフォーマンスエンジニアを務めた。
その後、プレマやロシアンタイム(現在の名称はUNI Virtuosi Racing)でFIA F2のパフォーマンス・エンジニアを経験。私生活では、業界で出会ったご主人と結婚したのだが、そのご主人がニュージーランドでM2コンペティションというチームを立ち上げ、フォーミュラ・リージョナルを6台走らせ始めた。そこでエリーズもご主人とともに、リージョナルのエンジニア兼マネージャー兼“何でもやる係”として、チーム運営に数年間携わっている。
ちなみに今回のWEC富士ではサポートレースとしてフォーミュラ・リージョナル・ジャパニーズチャンピオンシップが行われていたが、当初はご主人も来日する予定だったという(今季はニュージーランド人のドライバーが出場しており、彼らをエンジニアとしてヘルプするはずだったそう)。
その後、エリーズはヨーロッパで、再びGT3の世界に戻る。今度はニュルブルクリンクで行われているVLNシリーズが舞台。名門マンタイ・レーシングに加入し、ポルシェのパフォーマンス・エンジニア兼ストラテジストを担当していたそうだ。
そして今年の開幕前、キャデラックに加入。とは言っても、拠点を米国に移したわけではない。普段は自宅があるベルギーで仕事をしながら、レースの現場に足を運ぶという形なのだそう。
■やりがいは『決断と振り返り』
初めてのハイパーカー・カテゴリーは責任重大だが、すでにさまざまなカテゴリーで経験を積んできているだけに、その仕事ぶりは堂々たるものだ。
「レース中は、ライバル陣営のラップタイムをはじめとするデータをずっと分析していて、自分たちがどのタイミングでどういったタイヤを選択するのがベストなのかなど、そういうことをリアルタイムで決めていくのが仕事」と彼女は説明する。
「たとえば、突然雨が降り出して迅速な判断が求められるとか、ライバルとは違うコンパウンドのタイヤを投入するとか、そういうのが仕事の中で好きな部分だわ。それで結果が出た時は嬉しい」
「それに、現場では気持ちが高ぶっているけど、レースが終わって落ち着いてから、『どこをどうすればもっといい結果を出せたのか?』『どのタイミングでどうすべきだったのか? 何が間違っていたのか?』といったことをデータ分析して振り返る。その中で『これは正しい選択だった。いいタイミングでピットに呼び戻せた』ということもあって、そこがとても興味深いし、達成感を味わえる」
「今年、もっとも印象的だったレースはやっぱりル・マン。いつかあそこで勝つのが夢よ」
富士のレースは残念な結果に終わってしまったが、来る最終戦バーレーンではどのような活躍を見せてくれるのだろうか。シーズン後半戦に入ってからチームとしてもメキメキ調子を上げてきているだけに、いい形で一年を締めくくってもらいたい。
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