排気量37LのV12エンジンが勝利の鍵
1931年の英国南部。その夏は、豪雨や洪水、竜巻といった天災に悩まされていた。しかし9月には天気も落ち着き始め、国中が国際的な航空イベントで盛り上がった。シュナイダー・トロフィーと呼ばれた、飛行機レースだ。
【画像】ロールス・ロイス・カリナン・ブラックバッジ どれがお好み? 英国ブランドの上級SUV 全107枚
ジブリ映画の「紅の豚」でも触れられているから、聞き覚えのある方もいらっしゃるだろう。5年間に3回優勝した国が出た時点でレースは終了。永遠にシュナイダー・トロフィーという栄冠を保持できるというルールで、飛行艇が最高速を競った。
英国は1927年と1929年に、2度勝利していた。1930年には開かれず、3度目の勝利を掛けた戦いが1931年に待っていた。
スーパーマリンS.6Bという飛行艇に推力を与える、パワフルな排気量37L(!)のスーパーチャージドV型12気筒エンジン、ロールス・ロイス「R」が持ちこたえられるかどうかが、勝利のカギだった。チューニングは限界ギリギリといえた。
1929年のシュナイダー・トロフィーでは、最高出力1825psを発揮し、時速328.64マイル、528.89km/hの速度記録を残していた。1931年にも勝つため、同じエンジンは3296psへ増強されていた。相当な負担が掛かっていたことは、間違いなかった。
ロールス・ロイス側は以前から、グレートブリテン島の中央、ダービーに構えた工場でレース前に分解整備をする必要があると忠告していた。だが、機体のある南岸のカルショット航空基地からは、約290kmも離れていた。
輸送トラックに改造されたファントムI
9月に入り、既に試験飛行が繰り返されていた。限られた時間の活用が重要なタイミングにあって、エンジンを機体から降ろしている時間は、最短に留める必要があった。
そんな時、誰かがアイデアを出したらしい。世界最速の航空機用エンジンを確実に陸路で運ぶなら、世界で最も優れたクルマを選ぶべきだと。ロールス・ロイス・ファントムIの出番だった。
誰の発案だったのか、明らかにはなっていない。筆者は、トーマス・エドワード・ローレンス氏、別名「アラビアのローレンス」だったのではないかと推測する。
彼は1929年のシュナイダー・トロフィーへ参加しており、1931年のカルショット航空基地にもしばしば姿を見せていた。ファントムIの先代に当たるシルヴァーゴーストの装甲車を砂漠で運転し、「ルビーより価値がある」と高く評価していた。
ローレンスが、英国チームにロールス・ロイスの工場へエンジンを戻すべきだと、提案したのではないだろうか。ファントムIで。あくまでも、筆者の想像に過ぎないが。
とにかく、7.7Lの直列6気筒エンジンを搭載したリムジンへ白羽の矢が立ったことは間違いない。唯一のRエンジンを運搬できるトラックへ、急遽改造されることになった。
当時の白黒写真には、その珍しい姿が残っている。プロペラシャフトの先端から、大きな丸いスーパーチャージャーまでの全長は約2.3m。ファントムIの後ろ半分に架装された荷台を、V型12気筒エンジンが占拠している。
Rエンジンも収まりそうな広い荷室
トラックの前方には、傾斜した屋根のようなものが付いている。恐らく、雨からエンジンを守るためだったのだろう。運搬中、荷台にはカバーが掛けられたと思われるが、ドライバーは自然と対峙しながら走ったようだ。
貴重なエンジンをダービーまで運んだのは夜間。雨の可能性も高い。事故を起こせば、ドライバーはエンジンの下敷きになるし、スーパーマリンS.6Bも飛行できなくなる。
舗装も充分ではない一般道を、可能な限り速く運転する必要があった。ヘッドライトは巨大でも、明るさは心もとない。リスクの低くないドライブだった。
記録では、カルショット航空基地から少し北上したハンプシャーで、スピード違反のトラックを警察が捕まえている。128km/hも出ていたという。
現在なら、ロールス・ロイスの巨大な航空機用V型12気筒エンジンを、どうやって運んだだろう。ローレンスが議論の場に加わっていたら、最新のSUV、カリナン・ブラッグバッジを提案したかもしれない。広い荷室も備わっている。
37Lという大排気量エンジンを、分割して開く優雅なテールゲートから、上質に仕立てられた荷室へ積み込むことに対しては意義が挙がるかもしれない。しかし、最上級のラグジュアリーSUVは、実用性にも優れている。
筆者は、ロンドンの科学博物館に展示されているRエンジンのサイズを図ったことがある。1931年のシュナイダー・トロフィーを優勝した、S1595型スーパーマリンS.6Bに搭載されたユニット、そのものだ。
1931年に走ったであろうルートを辿る
筆者の測定では、プロペラシャフト・スタブと呼ばれるシャフトを含めて、全長は2.3m。残念ながら300mmだけ、シャフト部分がカリナンの荷室からはみ出てしまうが、運転席と助手席の間に出せば大丈夫かもしれない。
フロアや側面に保護材を敷き詰めれば、当時より遥かに快適で高速な、エンジン輸送を実現できる。風雨に悩まされることもない。それでは実際に、1931年に走ったであろうルートを豪奢なカリナンで辿ってみよう。荷室は空だけれど。
駐車場に止まるカリナン・ブラッグバッジは巨大。フォルクスワーゲン・ゴルフが、ポロのように小さく見えてしまう。パワー・テールゲートを開くと、やはり荷室も巨大。
荷室のフロアには、大きな箱が縛り付けてあった。ボタンを押すと、折りたたまれた2脚のピクニックチェアとテーブルが展開された。これは少々邪魔そうだ。37LのV12エンジンを積む場合は、降ろす必要がある。
エンジンの重量は744kgもあるが、カリナンには強化されたエアサスペンションと、赤く塗られたキャリパーが挟む、大きなディスクブレーキが付いている。しかも四輪駆動だから、不足なく受け止めてくれる、かもしれない。
あいにく、博物館はRエンジンを貸し出してはくれなかった。まあ、仮に許可してくれたとしても、試さなかったはず。しかし91年前の夜に、カルショット航空基地からダービーに向けて疾走したであろう道を辿ることは、現実的だ。
この続きは後編にて。
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