いよいよ日本に帰ってくる、ラリージャパン。WRC世界ラリー選手権『フォーラムエイト・ラリージャパン2022』が、11月10~13日にシーズン最終戦として愛知県と岐阜県を舞台に開催される。北海道での開催以来、実に12年ぶりのカムバックとなる日本での世界選手権を楽しみ尽くすべく、ここではエントリーリストに名を連ねる有力参戦ドライバーや、今季より導入の最高峰“ラリー1”クラスの最新ハイブリッド車両の成り立ちや個性を紹介する。その第2回は、フォードでの活躍を経てTOYOTA GAZOO Racing WRTに加入し、先代ヤリス時代には2年連続でタイトルを争った【エルフィン・エバンス】にスポットを当てる。
前回のクレイグ・ブリーン同様に、1996年の国内ラリー選手権チャンピオンであり、WRCの元ファクトリー契約ドライバーを父に持つエバンスだが、熱心にキャリアを後押しされたアイルランド出身ドライバーとは異なり、イギリス北部ウェールズ出身の彼が本格的なキャリアを開始したのは2006年、免許を取得した17歳からだった。
【いざ、ラリージャパン2022】注目の参戦ドライバー紹介/Vol.1『クレイグ・ブリーン』
祖父が創業し家業として営んでいたフォード系ディーラーの仕事を手伝いながら、翌年にはMスポーツが主催するワンメイク・シリーズ『フォード・フィエスタ・スポーティング・トロフィー』にステップアップを果たし、年間を通じて活躍。早くもWRC最終戦ラリーGBに初出場する。
そして2010年にBRCイギリス・ラリー選手権のジュニア部門で王者に輝くと、2012年にはWRCアカデミー生として、2輪駆動で争われる当時のJWRC(ジュニアWRC)で実に6戦4勝を挙げ、前年度のブリーンに続くチャンピオンを獲得した。
この活躍が契機となり、2013年にはWRC2に昇格。第7戦イタリア・サルディニアではナッサー・アル-アティヤの代役としてカタールMスポーツWRTから最高峰WRカーでの出場機会が到来し、いきなり総合6位に喰い込む走りを披露した。
また同年のWRC2では地元ラリーGBでもスピードを見せ、クラス初優勝を記録。シリーズ全8戦中3戦でトップ10圏内に入り、オフには2年契約でのトップカテゴリーフル参戦シートを獲得することとなった。
WRカーのデビューイヤーとなった2014年は、表彰台こそなかったものの2回の4位を含め全13戦中9戦でポイントを獲得。しかし翌年は第4戦のアルゼンチンで3位、第11戦フランス・コルシカでの2位と初表彰台を記録するも、後半戦の失速が響き、当時のマルコム・ウィルソン代表から提案された降格勧告を受け入れ、一旦トップカテゴリーのシートから退くことに。
心機一転の2016年は、R5規定の新型『フォード・フィエスタR5』でWRC2とBRCを追い、前者では3勝を挙げランク2位に。そして後者の地元国内選手権では父グウィンダフ・エバンスに続き、親子2代でのシリーズチャンピオンを手にした。
■2020年と21年シーズン、2年連続でオジエとタイトルを争う
これで精神的にもひと回り成長し、WRCトップカテゴリーに"リベンジ"を果たしたエバンスは、2017年はDMACKタイヤを装着した3台目の新型『フォード・フィエスタWRC』のシートを得て、WRCデビュー前から「お手本のような存在だった」というセバスチャン・オジエや、オット・タナクの僚友として戦線復帰する。
得意のアルゼンチンではタイヤ性能もマッチし、マシントラブルが発生する最終SSまで首位を快走。そして地元イギリスではラリーGBを制覇し、待望のWRC初優勝を達成する。
2018年を経て、オジエが離脱した2019年にはフォードのエースに成長し、第4戦コルシカでは最終ステージでフロントタイヤをパンクするまで圧巻のスピードでラリーを支配。しかし選手権賞典外のラリー・エストニアに出場した際、ジャンプの着地で背中を痛め、後半3戦の欠場を余儀なくされるなど、このアクシデントが長年在籍したフォードを離れる遠因にもなった。
そして2020年。TOYOTA GAZOO Racing WRTへの加入がキャリア飛躍の決定的な要素となり、加入2戦目のスウェーデンで移籍後初勝利を挙げると、続く第5戦トルコでもキャリア3勝目をマーク。この初年度は新型コロナウイルス(COVID-19)感染症にも翻弄され、変則的スケジュールを強いられるなか全戦でポイントを獲得する。
迎えた最終戦モンツァでは、トヨタ同時加入でふたたび僚友になったオジエとタイトルを賭けて最終日まで争うと、雪が降り積もるデイ3のSS13でコースオフを喫し終戦。しかし続く2021年も第4戦ポルトガル、第10戦フィンランドで勝利を飾り、4回の2位を含む熾烈なポイント争いを繰り広げ、ふたたび決着の地となった最終戦モンツァでは、またも初日からオジェと激しい優勝争いを展開する。
しかし残り2本となったSS15で2度のエンジンストールを喫し、追撃及ばず。「優勝を目指していたから複雑な心境だ。でも、セブとジュリアン(・イングラシア)がタイトルを獲得したことは祝福したい。ドライブを楽しませてくれたヤリスWRCには惜別の思いで感謝の念を贈りたい」と、エバンスにとっては2年連続で“憧れの王者”に挑んだ最終戦となった。
今季はチーム内の後輩カッレ・ロバンペラの躍進で影が薄くなった感があるも、新規定ラリー1車両の特性を習得し、中盤以降は4度の2位表彰台を獲得。かつてトヨタでも活躍したフランス出身の“ターマック・マイスター”ことディディエ・オリオールを彷彿とさせるアップライトなシートポジションでステアリングを抱え、イギリス出身ドライバーの“ツネ”で思い切りの良い荷重移動から豪快なドリフトに持ち込むエバンス。オンボード映像でおなじみSSアタック中の“あの表情”も、ラリージャパンのコースサイドで目撃できるかもしれない。
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