平成の終わりが近づいている。なかには、新天皇即位にあたり来年のゴールデンウィークが10連休になるとの先日の報道に、喜んだ人、「歴史的な日なのにオレは仕事なんだろうな…」と考え込んだ人(私です)、あるいは、具体的な日程らしいものがでてきて気持ちが改まった人などもいるのかもしれない。
そんななか、2018年5月に皇室関係のニュースが話題となった。ロールスロイス社製 皇室のパレード用オープンカーが、わずか2回の使用で廃車になっていた、というものだ。
日本人を大事にしないから!? クラウン以外が国内で売れない理由とは?
「税金の無駄使い?」、「いや記事がそういう風に仕向けている」、「90年代の車が直せないわけがない」といった見方が錯綜するなか、宮内庁や皇室関連の報道に精通したフォトジャーナリストの工藤直通氏が、その詳細と真相をレポートしてくれた
※本稿は2018年6月のものです
取材・文・写真:工藤直通/資料出典:宮内庁
初出:『ベストカー』 2018年7月26日号
■即位礼やご成婚の祝賀パレードに使用
とある新聞社のニュース(編集部註:2018年5月1日付「朝日新聞デジタル」誌面)で、天皇皇后両陛下の即位礼や、皇太子同妃両殿下の御成婚の際の祝賀パレードに使用された宮内庁所有の「オープンカータイプの御料車」に関して、「古くなり走行困難、部品が手に入らず車庫に眠ったまま」と報じ、自動車ファンの物議を醸した。
この御料車は、当時の総理府が国事行為として行った平成御大礼(平成2年11月)の「祝賀パレード」に使用するオープンカーとして「国費」で購入したものだが、車種をロールスロイス・コーニッシュ3にした経緯などは謎に包まれたままだ。
当時、パレードは馬車を使用することも検討されたが、警備上の理由から自動車を使用することになった。雨天の場合には、昭和天皇から引き継いだ国産リムジン御料車が使われる予定だった。
儀式後には4000万1810円で宮内庁へ財産所有権が移された。総理府時代から皇室用の「皇10」ナンバーを掲げ、「第10号御料車」を名乗った。
生涯の使用実績は、その使途がかぎられていたためわずか2回で、そのほかでは関連行事として3度公開展示されただけ。過去28年間で計5回しかお目にかかれなかった貴重な御料車だ。登場時は2ドアという特異な存在から「御料車にはふさわしくない」とする声もあったほど。
■総航行距離は4000km超
では、いつから「走行困難」になったのか。
御料車をはじめとする宮内庁の公用車は、皇居内の車庫に併設する直轄の「指定工場」で日常の点検から車検までを万全の体制で行っている。
コーニッシュ3の整備記録には、平成16年に「オイル漏れ点検」、「燃料漏れ点検」、「交換部品点検」や、翌17年5月には「燃料関係ホース交換」といった気になる記載はあるが、その間も皇居内で定期的な試運転が行われているなど、メンテナンスは良好だった。
しかし、その試運転も平成18年12月を最後に行われなくなった。原因は、「燃料ポンプの故障」だったと伝え聞く。
宮内庁は、コーンズを通じてロールスロイス社へ部品の調達を試みるが、「オーダーメイドゆえ、納品がいつになるかわからない」という返事だった。これでは修繕の目途が立たず、高額で納期のわからない調達はできない。
(編集部註:遡ること平成10年、ロールスロイス社がもとの所有者である英国の重工業メーカー ヴィッカースからフォルクスワーゲンへと売却された際、それまでの契約の関係から商標の権利のみがBMWに移動したことも、納期が不明となった一因かもしれない)
当面使用する予定もなく車歴も16年を経過していること等を熟考した結果、一時抹消登録=廃車手続きが取られた。宮内庁としても「苦渋の決断」であったに違いない。
初度登録年月日:平成2年9月25日。納車も登録日と同日、秘密裏に行われ、キャリアカーでコーンズから直接、皇居内の車庫へ搬入された。その時の走行キロは175km。翌日からは2週間にわたり皇居内で足慣らしが行われ、パレード後の走行キロ数は260kmと記録にある。以後、平成19年3月29日の一時抹消登録となるまでの生涯走行キロ数は4135km。これは月に5回程度実施される試運転によるもの。1回あたり5km程度の走行だが、18年間で4000kmにも至ったということ。平均燃費はリッター3kmだった。
現在は、「保存用参考品」として過去に在籍した3台のロールスロイスとともに宮内庁の車庫で保管されている。
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