約8年ぶりにイギリス・ウェールズへ向かったERCヨーロッパ・ラリー選手権は、シーズン終盤の第7戦として『JDSマシーナリー・ラリー・ケレディジョン』を開催。この地方特有の雨絡みとなった8月30日から9月1日にかけて行われたターマック(舗装路)戦では、王者ヘイデン・パッドン(ヒョンデi20 Nラリー2)が貫禄のドライブを披露し、予選ステージ最速から一度もラリーリーダーの座を譲ることなく快勝。チャンピオンシップ連覇に王手を掛けている。
毎戦のようにウイナーが入れ替わり、ここまで6戦で6名の勝者が誕生する激戦の続く2024年ERCだが、2016年以来のウェールズ開催となったイベントでは、今季も選手権首位を行くパッドンが予選ステージ最速発進を決めていく。
地元の英雄コペツキーの連覇記録途絶える。国内選手権でも立ちはだかる24歳の新鋭が初制覇/ERC第6戦
「プッシュしたよ」と、まずはレグ1で先頭スタートする権利を獲得したニュージーランド出身の欧州チャンピオン。「明日はステージでの出走順が重要だとわかっていた。クルマは週末に向け本当に調整されており、調子も感触も良いね」
一方、2019年ERCチャンピオンで今回が新型モデルでのデビュー戦にもなった同国出身クリス・イングラム(トヨタGRヤリス・ラリー2)は、プラクティスでのスピンから巻き返して6番手に。同じく4度のイギリス選手権チャンピオンを獲得するアイルランド出身のキース・クローニン(フォード・フィエスタ・ラリー2)も、先行車のインカットにより掻き出された泥に苦戦しつつ7番手に続いた。
さらにERC常連のルーマニア王者、シモーネ・テンペスティーニは今回からチームMRFタイヤよりエントリーし、こちらも自身初となるフォルクスワーゲン・ポロGTI R5にスイッチしての参戦となり、このステージでは車両の左フロントに軽微なダメージを受けた。
「出口が狭くて、少し接触した。確かに少しタイムを落としたが、ステージは問題なかったよ」とテンペスティーニ。
そのまま現地18時を回ってスタート時刻を迎えたタウンセンター・スーパースペシャルは、SS1、SS2と都合2本のトライともに王者パッドンがベストタイムを記録。MRFタイヤを装着するアンドレア・メベリーニ(シュコダ・ファビアRSラリー2)と、ポーランド選手権2冠の今季ERCタイトル候補ミコ・マルチェク(シュコダ・ファビアRSラリー2)が続くオーダーとなった。
明けた土曜の本格ステージ群では、前夜の好調さを持ち越したチャンピオンが独走状態に入り、パルクフェルメ・インまでに総合2番手につけたイングラムに対し、実に1分18秒7差という大量マージンを築いてみせる。
「昨晩はたくさんの人が来てくれてうれしかった。ウェールズの素晴らしい1日に完璧なスタートが切れたね。予選でロードポジションでアドバンテージを得るために懸命にプッシュし、それを最大限に活用しようとしたんだ」と語ったパッドン。
「このラリーでは、マシンのすべてが以前よりかなりうまく機能していて、僕の仕事がずっと楽になっている。間違いなくかなり良い1日だったが、ここからは(大きなリードを管理しなくてはならず)あまり楽しくないだろうね」
■首位を追うイングラムが雨に足元をすくわれる
その背後では、2番手から6番手までが14.5秒差にひしめく混戦のなか、イギリス選手権登録でレグ1最大ポイントを獲得したイングラムが、往年のカストロールカラーを彷彿させるリバリーのGRヤリスでの実戦初日に安堵の声を漏らす。
「本当に厳しい1日だった。ちょっと試練のようだったよ。明日はリセットしてもう少し頑張るつもりだ」
これでレグ1は、スタンディング上でパッドンを追うマシュー・フランチェスキーニ(シュコダ・ファビアRSラリー2)とマルチェクに続き、クローニンの続くトップ5に。
その一方で、一時はSS7で3番手まで浮上したテンペスティーニは、続くステージで「左コーナーで少し泥があって、すぐに滑り始めて草むらのなかに突入した。何が起こったのかはよくわからないが、何かにぶつかって右リヤサスペンションに問題を抱えた」として後退。
同じく前夜の10番手からSS3で初のERCステージトップタイムを刻んだウェールズ出身のジェームズ・ウィリアムズ(ヒョンデi20 Nラリー2)も「危険だった。あれは僕のホームステージだったし、あのスピードでそこを走れるなんて信じられない気分だ。言葉では言い表せないほどうれしかった」と語ったものの、続くSS4の1.5km地点で無念のクラッシュ。ここでi20 Nラリー2がステージを塞いだため、アクションは10台で中断されることとなった。
迎えた最終レグ2は、雨が降り始めて滑りやすくなる条件でいきなりの犠牲者が出る展開となり、日曜オープニングステージで激しいクラッシュを喫した総合2番手のイングラムがここでラリーを去ることに。
これで最大の追走者が消えたパッドンは、この日のSS8本中7本でベストを記録し、最終パワーステージのボーナス5点も加算するラリー運びで今季7人目のウイナーに輝いた。
「とても良い週末だった」と2年連続のERCタイトル獲得に向け、足場を固めたパッドン。
「すべてが時計仕掛けのようにうまくいったよ。チームのみんなのおかげだ。彼らは1年間、ずっとマシンの調整に懸命取り組んできたし、それが今週末すべてがうまくいった要因だ」と、イタリアBRCレーシングに自身が運営するPRG(パッドン・ラリー・グループ)の混成クルーを称えたチャンピオン。
「マシンだけでなくピレリタイヤもこの状況でうまく機能した。ペースノート、ジョン(・ケナード/コドライバー)、すべてがうまくいけば簡単さ。僕らは長い間この感覚を追い求めてきたが、今週末ようやくその感覚を得ることができたね」
その背後ではパワーステージでの逆転劇も生じ、スタート時点で総合4番手だったメベリーニが2位へジャンプアップ。3位にフランチェスキーニが続き、4位にドロップしたマルチェクがタイトル争いから脱落する結果となった。
これで暫定順位で2位フランチェスキーニに27ポイント差をつけたパッドンだが、10月11~13日にポーランドで開催される最終戦『ラリー・シレジア』では最大35ポイントが獲得可能となり、まさにこの1戦の結果がタイトルを左右する天王山となる。
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