2024年のWEC世界耐久選手権に参戦しているBMW MハイブリッドV8(BMW MチームWRT)とキャデラックVシリーズ.R(キャデラック・レーシング)は、似たブルー系のカラーリングをまとった同じLMDh規定のマシンではあるものの、その区別は難しくない。⼤型のキドニーグリル、エッジの⽴ったLEDライトがそれぞれ、遠⽬からでも“それ“と主張するからだ。
しかし、⼀度『顔』が外されると、⽂字どおり双⼦を⾒分けるように⼀瞬⾒分けがつかなくなる。
Dステーション星野敏、最後のル・マン24時間へ。「完走して最後にしようと思います」
北米のIMSAシリーズ生まれのLMDh規定に基づいて製作されたこの2⾞種は共通のダラーラ製のシャシーを⾻格に持ち、ナックルアームやアッパーアームのレイアウト、縦型のブレーキダクトの配置なども⽠ふたつ。
“外観は別物、中⾝は同じ”という、トップカテゴリーのマシンが今世紀最多のル・マンを実現したWEC/ル・マンの主催者側の巧みな思惑をそれが改めて映し出した。
かつて“ライバル不在”ともいわれたWEC/ル・マンの最上位クラスだが、今季は合計9マニュファクチャラーが参戦し、中でも4つのコンストラクター(オレカ、ダラーラ、マルチマチック、リジェ)からシャシーを選択するLMDh規定マシンは、導入開始からわずか2年で2⾞種から5⾞種に急増。
これほどまでに盛況な今年のル・マンを⽬前に控え、あらためてハイパーカーの系譜を振り返ってみると、2020年1⽉のWECとIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権における『相互受け⼊れ』宣⾔から現在に⾄っていることが分かる。
また、ハイパーカークラス参戦の変遷に⽬を向けると、規則発⾜元年からLMDhに参⼊しながらも、唯⼀IMSAのみに参戦しているアキュラ(ホンダが北⽶で展開するプレミアムブランド)の存在が⽬をひく。すでにLMDhマシンであるARX-06を2023年より⾛らせている点では、ル・マン参戦もあり得るのではないか……と想像が膨らんでしまう。
LMDhマシンは⾃動⾞メーカーのマーケティングと密接な関係にある側⾯がある。マシンのシルエットやグリルの形状、LEDのデザイン──同じダラーラ製シャシーのBMWとキャデラックが象徴するように、シャシーは共通ながらもその外観は全くの別⾞種であるという印象も抱かせ、それぞれのマニュファクチャラーのアイデンティティを反映したデザインを採⽤している。また、エンジンには排気量や気筒数などは統⼀されておらず、轟くキャデラックの5.5リットルV8⾃然吸気エンジンのサウンドはアメリカンスタイルを容易に連想させる。
そうした視点でアキュラの動向を眺めてみると……。ホンダの”本業”にとって北⽶市場は最重要マーケットであり、「だからIMSAに参戦している」という理屈は納得できる。同時に、ヨーロッパをはじめ、その他の地域への「グローバルなプロモーションはF1が効果的」という考えも理解できる。つまり、ホンダにとっては「F1とIMSAをやっていれば充分」というロジックなのだろう。
ただ、ファンの⽴場からすれば、これだけのマニュファクチャラーが競い合っているWEC/ル・マンだからこそ、「ホンダ/アキュラにもこの場で競い合ってもらいたい」というのが(無責任な)本⾳でもある。
さて、LMDhのシャシー選択制はコストパフォーマンスの⾯で⼤きなメリットがあるが、裏を返すと“⾻格を独⾃開発できない”という技術的制約も。ただ、ここで注⽬したいのは、本来、専⽤に設計することはできないはずのLMDhにおいて、ポルシェとランボルギーニはそれぞれマルチマチック、リジェを唯⼀選択したことで事実上、準専⽤開発となっていることだ。中でもポルシェは今季のWEC開幕戦での初優勝を筆頭に好調を維持し、20回⽬のル・マン制覇にも注⽬が集まっている。
このしたたかな戦略がポルシェらしいといった印象があるが、加えてLMDhならではの開発でル・マンに照準を合わせているようだ。
「コーナーへのエントリーではノーズを旋回させようとマシンと格闘し、その後にミッドコーナーでアンダーが出る。おそらくLMH(ル・マン・ハイパーカー)規定車ではその症状は出ていないはず」と語るのは6号⾞ポルシェ963(ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツ)をドライブするアンドレ・ロッテラーだ。
車高変化に関連しているというこのLMDhマシンの挙動の傾向はとくにバンピーなコースで顕著なようで、ル・マンの舞台であるサルト・サーキット(正式名称:ル・マン24時間サーキット)も例外ではない。auto sport7⽉号(No.1597)掲載の『HYPERCAR Technical Watch[LMDh編]』では、カウル類がごっそりと外されたポルシェ963のリヤ側トーロッドの取り付けポイントは2点設けられる特徴的な仕様になっていた。アンチスクォート/アンチダイブジオメトリーが調整可能で、セブリングやロングビーチなどフラットではない路⾯のサーキットも多いIMSAにも参戦しているが故に、バンピーな路⾯も意識し設計されている印象を受ける。
参戦2年⽬となる今季2024年のル・マンでは、そんな開発が躍進を⽀えていた……というストーリーも⼤いにあり得るのではないだろか。外観は別物、中⾝は同じというイメージが先⾏するLMDhだが、実はその内側にこそそれぞれの“らしさ”が現れている。
●auto sport 2024年7月号(No.1597)電子版
https://www.as-books.jp/books/info.php?no=AST20240529
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みんなのコメント
バックアップされる→実践データが多くなる
多ければ、多いほど→バージョンアップに☆影響を与える(有利である
唯一=専用?…とは、限らない
始まったばかりのレギュレーション」だと
同一レギュレーション下での→参戦回数の多いチーム」が…
有利なのは、ルマンに限った話では無い
他のレースでも☆言える話だ
チーム数が多いのは=有利である