ラグジュアリーセダンをさらにクーペ化で差別化
マイバッハのラグジュアリーかつスポーティなサルーン「57S」を、コーチビルダーが2ドアクーペにカスタムしたゼナテック「クルーゼリオ」が、先ごろベルギーで開催されたオークションに出品され、話題を集めました。
【画像】これがわずか1年で3000万円以上も暴落したマイバッハの“クーペ”です(18枚)
マイバッハは元々、ダイムラー社に勤務していたエンジニアが1909年に立ち上げた高級車ブランドです。1952年にはダイムラー・ベンツ社へ50%の株式を譲渡し、後に完全買収されて活動停止。以後、半世紀ほど休眠していたものの、2002年に当時のダイムラー・クライスラー社のラグジュアリーブランドとして復活を遂げます。
現在は、メルセデス・ベンツの“サブブランド”として高級車カテゴリーを担っていますが、かつては独自モデルを投入していました。
そんなマイバッハ独自のモデルは、全長5.7mの「57」と全長6.2mの「62」が5.5リッターのV12ツインターボエンジンを搭載。後に追加されたスポーティ仕様の「57S」(Sはスペシャルの意味)は、AMG謹製の6リッターV12ツインターボエンジンを搭載していました。
そんなマイバッハの独自モデルですが、ショートホイールベース仕様はオーナー自らが、ロングホイールベース仕様はショーファー=運転手がステアリングを握ることを念頭に開発されたといわれています。
ゼナテック「クルーゼリオ」のベースモデルとなった「57S」はショートホイールベース仕様で、自らステアリングを握るオーナーに向けた最上級モデルでした。装備内容、快適性、静粛性、パワー、巨漢にあるまじき走りっぷり……と、あらゆる面が“過剰”な仕立てとなっていました。
そもそも、当時マイバッハを購入できるのは、ごく一部の富裕層に限られていました。そういう意味では、差別化を図るにはうってつけのモデルだったわけですが、富裕層の差別化に対する飽くなき探求心を満たすべく、「57S」をあえて2ドアクーペに改造したのがドイツ・バイエルン州シュヴァーベンに誕生したゼナテック(Xenatech)でした。
「クルーゼリオ」と名づけられたゼナテックの2ドアクーペ、デザインを手がけたのはダイムラー・クライスラー社がイタリアのストーラ社(現ブルーテック)と協業してお披露目したコンセプトカー「エクセレロ」を手がけたことでも知られるフレデリック・ブルクハルトでした。
“本家”ダイムラー・クライスラー社のコンセプトカーを手がけた人物が手がけただけに、「クルーゼリオ」は“マイバッハ公認のクーペ”を謳うことができたようです。
●オークション後の商談で“掘り出し物価格”にて売却
ゼナテック「クルーゼリオ」は、2ドアクーペ化に対して莫大なコストが投じられたことが写真などからも伝わってきます。
リア両側のドアが取り払われ、センターピラーを20cm後方へと移動。そこに巨大なフロントドアをプラスしています。
前後バンパーや両サイド、リアウインドウなども「57S」とは別のデザインに。クーペ化に伴い、ルーフラインも当然、独自のものになっています。
リアシートの快適装備は「57S」のままですが、低くなったルーフラインの影響でやや窮屈に感じるかもしれません。
また、リアフェンダーも20mm拡大されていますが、純正モデルのようなたたずまいをキープしているのはお見事です。
ちなみに、ハードウェアは「57S」のままですから、維持費も「57S」と同等と思えばいいだけです(高いと感じるか、安いと感じるかは人それぞれですが……)。
そんなゼナテック「クルーゼリオ」ですが、新車時の価格は67万5000ユーロ(現在の価格で約1億142万円)~と発表されていました。ターゲットとする顧客は王族、国家元首といった超富裕層であったことに異論はありません。そういえば、今は亡きリビアのムアンマル・ガダフィ大佐も「クルーゼリオ」のオーナーのひとりでした。
ゼナテックがどういうマーケットリサーチをおこなったのか定かではありませんが、彼らは「クルーゼリオ」を100台限定で生産する予定を立てていたようです。
しかし、セールスは思ったほど順調ではなく、わずか8台(11台という説も……)が生産されただけで、2011年11月にゼナテックは倒産。よって、「クルーゼリオ」を見かける機会はほとんどないはずなのですが、筆者はこれまで2台の「クルーゼリオ」を日本国内で見かけています。
* * *
2024年10月6日に開催されたボナムズのオークションに出品されたのは「クルーゼリオ」の3号車で、サウジアラビアへ納車されたものです。
当該車両、サウジアラビアで約3万kmを走行した後、2023年11月にアブダビのボナムズのオークションにて、57万5000ドル(約8776万円)で落札された記録が残っています。
そしてこの度、ベルギーで開催されたオークションにも出品された「クルーゼリオ」の3号車。予想落札価格は42万~55万ユーロ(約6871万円~8997万円)だったものの結局は流れてしまい、後日の“商談”において35万ユーロ(約5726万円)で販売されるに至りました。
米ドル換算で38万ドル弱です。わずか1年で19万ドルもの値下がりを許容したオーナーは誰なのでしょう? いくらでもいいから手放したかったのでしょうか? 今回の取引では掘り出しモノだった気がしてなりません。
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みんなのコメント
全長と全幅は、ロールスロイスファントムクーペに近しいサイズ、より伸びやかなデザインで並んで止まっているとどちらも魅力的であった。
最も私のような庶民は買えても決して似合わない類の車であり、目の保養である。