■ケロヨン号と呼びたくなるバブルカーとは?
クラシックカー/コレクターズカーのオークション業界最大手のRMサザビーズ社は、北米インディアナ州エルクハートにて2020年5月に開催するはずだった大規模オークション「THE ELKHART COLLECTION」を、予定から約半年の延期に相当する10月23ー24日に、COVID-19感染対策を厳重におこなった上での対面型と、昨今の新スタイル「リモート入札」の併催でおこなうことになった。
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2輪/4輪合わせて280台を超える自動車が集められたこのオークションは、実は詐欺の疑いで訴追され、破産宣告を受けたというさる実業家の資産売却のためにおこなわれたものだそうなのだが、主に第二次大戦後に生産されたアメリカやヨーロッパ、あるいは日本車も含む名車・希少車たちが勢ぞろいした。
なかでも注目すべきは、21世紀に入ってアメリカのクラシックカー愛好家の間でも大人気を博すようになった、欧州製のマイクロカーたちが数多く出品されたことであろう。
ドイツで発達したことから「カビネンローラー(キャビン付きスクーター)」や英語の「キャビンスクーター」あるいはボディ形状から「バブルカー」などとも呼ばれる小さなクルマたちは、2010年代のオークションでも軒並み高評価を受けてきたのだが、そのマーケット観が新型コロナ禍にある2020年でも継続しているのか、オークションレビューをひも解いてみることにしよう。
●1957 BMW「イセッタ300」
まず紹介したいのは、カビネンローラーの代名詞ともいうべきBMWイセッタである。
もともとイセッタは、イタリアで冷蔵庫や暖房機器などの製造をおこなっていた「ISO」社が、第二次大戦後に2輪スクーターを開発・生産した先に、航空機出身のエンジニアを招聘して開発したマイクロカー。
そして、1953年から生産化した「ISOイセッタ」の生産権を獲得したBMWが、大規模なモディファイののちに1955年から発売に至った。
元祖ISOイセッタが、自社製の対向ピストン式2ストローク200ccエンジンを搭載していたのに対して、BMW版イセッタはモーターサイクル「R25」用250cc単気筒4ストロークOHVを搭載。のちに300cc版も追加された。
フロントから見ると3輪車のように見えながらも、リアのディファレンシャルを廃するために後輪のトレッドを極端に狭めた四輪車である。
三輪車だと税金が安くなる英国マーケットでは、3輪モデルも販売されたが、今回「THE ELKHART COLLECTION」に出品されたBMWイセッタは300cc版の4輪モデル。
RMサザビーズ社が設定したエスティメートは3万5000ー4万5000ドルだった。
ただし23日の競売では「100% SELL THROUGH(全車売り切り)」のキャッチフレーズどおりリザーヴ(最低落札価格)が設定されていなかったことから、最高入札額に手数料を合わせた3万4720ドル。つまり約360万円が落札価格となったのだが、これはエスティメートの下限にも満たないもので、オークションの売却益を補償に充てようとする債権者にとっては少々不満の残る結果となったようだ。
これは後述のメッサーシュミットなどと比べると、イセッタ、特にBMW版は比較的販売台数が多く、結果として残存台数もこの種のカビネンローラーとしては多め。
これほどコアなジャンルであっても、やはり「周囲の仲間とは被らないクルマを持ちたい」とする好事家ごころには、いまいち刺さらないと評価されたのかもしれない。
●1958 メッサーシュミット「KR175」
マイクロカー界のもう一つのビッグネーム、BMWイセッタよりもアイコニックな存在として知られるのが「メッサーシュミット(Messerschmitt)KR」シリーズだ。
第二次世界大戦まで数多くの名機を輩出しながらも、敗戦によって翼を失った伝説的航空機メーカーが、戦後の1953年から新たなビジネスとして、まずは173ccの「KR175」から生産されることになった、前2輪/後1輪でタンデム(前後)2座のキャビンスクーターである。
メッサーシュミットがもっとも名を馳せた戦闘機を思わせる細身のボディに、こちらも戦闘機のごとくドアと一体化した樹脂製バブルキャノピー(またはソフトトップ)を特徴とした。また、汎用エンジンメーカー「ザックス(SACHS)」社製空冷2ストローク単気筒エンジンを搭載し、リアの1輪を駆動する。
加えて、4速トランスミッションにリバースギアはなく、後退の際にはエンジンをいったん停め、逆転で再始動させるというユニークな方法が採られていたのも有名なエピソードだろう。
「THE ELKHART COLLECTION」に出品されたKR175は、このモデルとしては最終期にあたる1台。ここ数年のマーケットにおける3輪メッサーシュミットの相場推移からすれば順当な3万6400ドル、つまり邦貨換算約377万円で無事落札に至った。
●1958 メッサーシュミット「KR 200」
1953年に登場したメッサーシュミットKRシリーズに1955年から設定された「KR200」は、KR175の基本構成はそのまま191ccへと増強したモデル。メッサーシュミット社製カビネンローラーとしては、もっとも大きな成功を収めた。
「THE ELKHART COLLECTION」に出品された1958年型KR200は、アメリカにおけるマイクロカー人気上昇のきっかけとなったともいわれる「ブルース・マイヤー・マイクロカー博物館(Bruce Weiner Microcar Museum)」から、数年前のオークションで放出された個体とされる。
オークションWEBカタログによると素晴らしいレストアが施され、一連のメッサーシュミットKRの開発者であるフリッツ・フェンドのサイン入り。またブラウプンクト社製ラジオやクロック、ラゲッジラック、バイザーなどの魅力的な純正オプションを満載しているとの由である。
カタログの売り文句曰く「An instant hit in any collection!(どんなコレクションにもすぐにヒット!)」というメッサーシュミットKR200は、上記の好条件が評価されたようで、6万7200ドル、邦貨換算で約700万円という、3輪メッサーシュミットとしては記録的な高額で新しいオーナーに迎えられることになったのだ。
■お安くなっても1500万円オーバーもするバブルカーとは?
●1958 メッサーシュミット「KR 201ロードスター」
今回「THE ELKHART COLLECTION」には、メッサーシュミットKR200のロードスター版「KR201」も出品されていた。
タンデム(前後一名ずつ)に座る乗員から見ると、右側に開いて車内にアクセスする、プレクシグラス製の透明バブルトップ(ソフトトップに交換も可能らしい)を廃し、ドアもいさぎよく廃された。
そして、まるでフォーミュラカーのごとくスポーティな雰囲気を醸し出すことから、当時のメッサーシュミット社や現在に至るファンの間では「スポーツカー」と位置づけられてきたようだ。
RMサザビーズ社のWEBカタログでは「Nicely restored condition throughout(全体的に好ましくレストアされたコンディション)」と謳われるこのKR201ロードスターに設定されたエスティメートは、5万ー7万5000ドル。
スタンダードのキャビンがついた「KR200」よりも、生産数/残存数ともに非常に少ないことから、かなり高めの予想がなされていたのだが、実際の競売では手数料込みの5万3200ドル、日本円に換算すると約550万円という、希少価値とコンディションの良さを裏づける結果となった。
●1960 F.M.R.「Tg500タイガー」
1956年から航空機生産再開を許されたメッサーシュミット社は、キャビンスクーター部門をフリッツ・フェンドらに事実上譲渡し、新たに発足した「F.M.R」社に移行。「Tg500タイガー」は、F.M.R.ブランドで1958年に登場した四輪モデルだった。
本来シティコミューターとして生を受けながらも、結果としてスポーツカー的なキャラも帯びることになったメッサーシュミットKRの性格を、独ザックス社製494cc空冷2サイクル直列2気筒エンジンを搭載することにより、一段と強めた。
最高出力19.5hp/5000rpm、最大トルクは33Nmを発生し、トランスミッションは4速マニュアル。車両重量350kgで、最高速度130km/hに達したという。
KR175/200系では後退時にはエンジンをいったん停めて、逆回転で始動させてリバースしていたのだが、4輪のタイガーでは通常のリバースギアが初めて組み込まれた。
生産期間は3年ほどで、その間に作られたのは320台のみ(ほかに諸説あり)。つまり、超絶的なレア車である。
かつて3輪のメッサーシュミットKRが200ー300万円で入手できた時代には、タイガーは概ねその2倍。500万円オーバーで取り引きされていたと記憶しているのだが、2010年代以降にアメリカを中心に巻き起こり、欧州や日本にも波及した「バブルカー・バブル」を象徴するかのように、2000万円越えの販売事例が続出してきた。
ただ、新型コロナ禍以降、少々不安定となっているクラシックカーマーケット市況を鑑みてだろうか、RMサザビーズ社ではエスティメートを15万ドルー25万ドルという、かなり幅のある設定をおこなっていた。
ところが当時の競売では、リザーヴ(最低落札価格)が設定されない「100% SELL THROUGH(全車売り切り)」だったため、こちらもエスティメートを割りこむ14万5600ドル(邦貨換算約1520万円)で落札されることになったのだ。
オークションカタログでコンディションを見る限りでは、かなりのお買い得とも見受けられてしまうが、その一方でこのクルマを頂点とする「バブルカー・バブル」にも、ようやくの終息傾向が見られるようになったとも考えられよう。
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みんなのコメント
あと、こういうミリオネア向けのクラシックカー・オークション観測みたいな記事に需要ってあるんだろうか?僕にはわからない。