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【連載】F1グランプリを読む──勝率を読む

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【連載】F1グランプリを読む──勝率を読む

ジム・クラークからルイス・ハミルトンまで、モータージャーナリスト・赤井邦彦がさまざまな年代に活躍するF1ドライバーの勝率を解説する。

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今年のF1グランプリ開幕はいつになるのだろう。FIA(国際自動車連盟)やF1の商業権を持つリバティ・メディアは6月末のフランスGPを開幕に持っていきたい意向だが、ここまで予定がずれ込むと、いますぐに開幕したとしても選手権22戦すべてをこなすのはとても無理だろう。リバティ・メディアは15~18戦の開催を希望しているが、6月から残された半年で18戦という数もとても多く思える。

そもそも予定されていたのは22レース。3月のオーストラリアに始まって11月のアブダビまで、かなりタイトなスケジュールだった。4月10日現在、オーストラリアとモナコの2戦が中止、バーレーン、ベトナム、中国、オランダ、スペイン、アゼルバイジャン、カナダの7戦が延期になっている。リバティ・メディアの提示する18戦というのは、要するに延期になっているレースの中から最大5戦を選び、6月のフランス以降の13戦に加えて開催する案だ。これが実現可能かどうかは新型コロナウイルス禍の収束にかかっている。

それにしても年間レース数22戦は、昔を知る者にとればかなり多い。1960年代は平均10戦、70年代は15戦程度で、2000年代になって一気に増えた。そして2020年、ベトナムまでもが開催国として手を挙げて、なんと22戦ものレースが行われることになった。F1グランプリの開催数が年を追って増えた理由は、F1グランプリが商業的に成立するイベントであることが証明されたからだ。

10万人を越える観客を動員し、世界のブルーチップ企業がPRの場として活用する。何百億円もの大金が動き、主催者(プロモーター)は投資額も大きいが収益も巨額だ。多くの主催者が開催を望むのは当然だろう。このシステムを構築し、巨額の金の流れを作り出したのがバーニー・エクレストン。最近、89歳にしてはじめての息子を授かったと話題になった(彼にはすでに成人した娘が3人いる)のでご存じの方もいるはず。彼はF1チームのオーナーからF1全体を統括するようになり、FOM(フォーミュラワン・マネージメント)という会社を興し、F1の商業権を握った。巨万の富を築いたのは当然である。彼は2016年にFOMの株式をリバティ・メディアに売却、現在はF1に距離を置いている。

ドライバーの勝率

ところで、レースの数が増えたことでF1グランプリに起こった変化とは何か? 最も顕著な変化は、優秀なドライバーの出場レース数と勝利数が上がったことだろう。例えば1960年代、レース数は年間10戦程度。ドライバーが10年間活躍しても生涯戦えるF1グランプリは100戦ほどだった。それが年間20戦を越えるようになると、10年走り続ければ200戦に出場できることになる。純粋に2倍のレース数だ。ドライバーは当然長く活動をしたい。それだけ栄誉と収入は増えるからだ。もうひとつドライバーの寿命が延びた理由は、これは重要な点だが、現代のクルマやレース環境(サーキット)の安全性が著しい向上を見せたことである。事故をおこして怪我で引退したり死亡したりするドライバーの数が激減した。その結果、優秀なドライバーは永くドライバー生活を送ることが可能になる。それが参戦レース数を押し上げることになり、高性能なクルマに乗ることができれば勝利数も上がることになる。それが昔の(60~70年代頃の)ドライバーとの大きな違いだ。

ここで、1960~70年代のドライバーと最近のドライバーの記録を比べてみよう。しかし、先に書いたように当時と今ではレース数が違うため、勝利の数だけで比較することはできない。そこで、採用するのが勝率である。これならレースの条件が異なってもそれぞれの時代での活躍振りが推し量れ、才能の評価はより明確にできるからだ。そこで、このやり方で時代を超えてドライバーを比較すると、60年代以降はジム・クラークの飛び抜けた才能が輝く。彼は1960年から68年に亡くなるまで、僅か8年のF1参戦に限られるのだが、その間に出場したのは僅か72戦でありながら勝利数はなんと25。実に3割5分に近い勝率だ。それも非常に少ないレース数を考えれば、ほとんど勝ちっ放しといってもいい。それが、クラークを多くの人が歴代1位のドライバーと認める理由だ。

Jim Clark, Grand Prix of GermanyPhoto by Bernard Cahier/Getty Imagesミスを殆どしないハミルトン

勝率3割を越えてクラークの記録を追うドライバーにはルイス・ハミルトンがいる。彼は250戦に出場、84勝を挙げている(2019年終了時点)。私はハミルトンのレース・スタイルがとても好きだ。冷静でとても静かなレースをする。ミスは殆どなく、クレバーでクリーン。クラークの走りに非常によく似ている。そのハミルトンンのF1デビューは2007年。今年で15年目を迎えるが、引退はまだ先だろう。となると、勝利数はさらに増えること間違いなく、勝率もクラークのそれを凌ぐことは確実だ。クラークのように参戦数こそ少ないが、そのほとんどで勝利する才能に脱帽し、ハミルトンのように15年・250戦もの長期にわたって勝ち続ける才能にひれ伏す。2人に同じ時代に戦って貰いたかったと思うのは私だけだろうか?

ところで、勝利数だけならハミルトンを凌ぐドライバーとしてミハエル・シューマッハーを忘れるわけにはいかない。19年間にわたって走り続け、91勝を挙げて2012年限りで引退した。出場レースも308戦。ダントツの記録である。しかし、勝率ではクラークとハミルトンに僅かに及ばない。

Motorsport/Formel 1: GP von Bahrain 2004Photo by Alexander Hassenstein/Bongarts/Getty Imagesもちろん数字の記録だけでドライバーの評価をすべきではないことは承知している。彼らはレースをするロボットではない。ヘルメットを脱げば普通の若者でありだれかの恋人であり家庭人である。そうした人格の上にグランプリ・ドライバーという肩書きを持つスポーツマンなのだ。レース数が増えたことで、彼らの活躍をより長く見ることが出来る我々は幸せなのかもしれない。最後に、ここに記した3人のほかにも素晴らしい記録を打ち立てたドライバーは数多くいる。ここではF1グランプリ黎明期から現代まで、勝率上位10人を紹介する。

PROFILE
赤井 邦彦(あかい・くにひこ)

1951年9月12日生まれ、自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとして『週刊朝日』『週刊SPA!』の特約記者としてF1中心に取材、執筆活動。F1を初めとするモータースポーツ関連の書籍を多数出版。1990年に事務所設立、他にも国内外の自動車メーカーのPR活動、広告コピーなどを手がける。2016年からMotorsport.com日本版の編集長。現在、単行本を執筆中。お楽しみに。

文・赤井邦彦

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