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劇的勝利を掴んだアルピーヌ、慢心はなし「まだまだ十分じゃない……運じゃなく、速いマシンを作って勝たなければ」

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劇的勝利を掴んだアルピーヌ、慢心はなし「まだまだ十分じゃない……運じゃなく、速いマシンを作って勝たなければ」

 2021年のF1第11戦ハンガリーGPを制したのは、アルピーヌのエステバン・オコンだった。

 今シーズンはレッドブル・ホンダとメルセデスが圧倒的な強さをみせているが、同レースでは1周目にこの2チーム4台のうち3台が大きなダメージを負い、2台がリタイア。無傷で生き残ったメルセデスのルイス・ハミルトンも判断ミスを犯した。赤旗中断後の再スタートでグリッドに向かう際、彼以外の全車が路面は乾いたとしてピットに入ってドライタイヤに履き替える中、インターミディエイトタイヤのまま唯一グリッドからのスタートを選択してしまった。結果として、ハミルトンは最後方へ……猛烈な追い上げを見せるが、首位までは届かなかった。

■今のアロンソは“仲間思い”! オコン「彼についての悪い噂が間違っていたと証明できた」

 このような形で上位陣に何らかのトラブルが立て続けに起きた場合、今回のハンガリーGPのような”番狂わせ”が起きることがある。

 2020年にもそんなレースがあった。イタリアGPでは、アルファタウリ・ホンダのピエール・ガスリーが優勝し、サクヒールGPでもレーシングポイント(現在のアストンマーチン)のセルジオ・ペレスが初優勝を飾った。

 そして今年のハンガリーでは、オコンとアルピーヌにその恩恵を授かる順番が回ってきた。チームにとっては、まだ名称がロータスだった2013年以来の勝利。オコンも、つい先日までは予選Q1脱落の常連だったポジションから、一気に初優勝を手にすることになったのだから、F1は面白い。

 もちろん、今回のオコンとアルピーヌの勝利は、”運がよかった”という側面が大きいのも確かだ。しかし、そのチャンスをしっかりと掴み取るためには、チームとドライバーがすべてのことを正しく行なう必要があった。そしてオコンのチームメイトであるフェルナンド・アロンソも重要な役割を果たした。

 アルピーヌ勢は、オコン8番グリッド、アロンソ9番グリッドと、予選の時点でかなり好位置につけていた。今回は雨が降ったが、この雨がなくとも、ある程度の好成績を手にすることができただろう。逆に雨によってレースを失う可能性もあったかもしれない。

 ハンガリーGPの舞台であるハンガロリンクは、オーバーテイクが難しいコース。そのため予選でトップ10に入れば、入賞の可能性はグッと高まる。しかし雨が降ってしまえば、予想外の好結果を手にできる可能性がある一方、最初のコーナーでグラベルに捕まり、レースを終えなければならない可能性も確実に上がる。実際今回のレースでは、複数のドライバーがそういう運命を辿った。

 オコンはこの1周目の混乱をうまくくぐり抜け、1コーナーを抜けた時には2番手に浮上していた。一方アロンソは運悪く混乱の煽りを食らい、5台のマシンに先行されてしまう。それでも、スタート位置よりも上の7番手。チームは状況確認に努めた。

 1コーナーで起きた混乱の結果、レースは赤旗中断となった。そしてその間、アルピーヌのチーム内では戦略について様々な議論がなされたはずだ。しかし2番手のポジションを守ることについては、それほど重視されていなかった……アルピーヌのエクゼクティブ・ディレクターであるマルチン・ブコウスキーは、予選後に立てていた戦略から、あまり変えることはなかったと語る。

「正直なところ、大きな変更はなかった。インターミディエイトタイヤを履いてレースが再開されることは分かっていたから、その後は好きなタイヤを装着することができたんだ。しかし、それでもおそらく1ストップになるだろうことも分かっていたから、ソフトタイヤを使わないことを決めた。ここではおそらく一番使いにくいタイヤだったんだ」

「そしてタイヤを選んだ後で太陽が顔を出した。そして路面は急速に乾き始めた。我々は全員インターミディエイトタイヤを履いていたが、フォーメーションラップ中に、ドライバーはすでに路面はドライだと報告してきた。そしてストラテジストも、ドライタイヤに交換する必要があると言ったんだ」

「しかしその決断は難しいモノだ。我々は2番手であり、最前列からスタートするんだ……ポジションを優先した方がいいだろうかとね」

 再スタートのグリッドへ向かうフォーメーションラップを終えた時、結局アルピーヌは2台のマシンをピットインさせることを決めた。一方メルセデスはそうしないことを決め、ハミルトンをインターミディエイトタイヤを履いたままグリッドに向かわせた。前述の通り、グリッドに並んだのはハミルトンただ1台だった。

 ただブコウスキー曰く、オコンをピットインさせるのは正しいことなのかどうか、確信を持てていなかったという。でもハミルトン以外の全車がオコンと同じようにピットに入ったため、その判断が正しいことだと裏付けることになった。

「それは正しい決断だった。ルイスを除いて、誰もが同じ選択をしたからね。ルイスだけがグリッドから走り出すというのは、すこしシュールなスタートシーンだった。でもその瞬間から、このレースは我々にとって良いモノになっていると分かった」

 ハミルトンは1周を回ったところでピットインし、ドライタイヤに交換。これによってハミルトンは最後尾にまでポジションを落とすことになり、オコンが首位に立つことになった。当時のアルピーヌにとっての最大のミッションは、2番手のセバスチャン・ベッテル(アルピーヌ)をしっかりと抑え込むこと……しかしチームは、後方に沈んだハミルトンがまだ脅威となる存在であることはわかっていた。

 その懸念の通り、ハミルトンは鬼神のごとく追い上げを見せ、ポジションを次々と上げていった。そして残り17周という段階で、当時4番手を走っていたアロンソの真後ろに追いついた。

 メルセデスとアルピーヌのマシンの戦闘力差は、現時点では明らか。しかも当時のハミルトンはミディアムタイヤに交換したばかりであり、その点でもアロンソとのペース差は絶対的であった。しかしアロンソは、ハミルトンに対して激しいディフェンスを繰り広げ、そう簡単にポジションを譲らなかった。彼はここでハミルトンを抑え切ることが、チームメイトにとって大きな利益になるということを分かっていたのだ。

 アロンソは、マクラーレン時代の”因縁の”チームメイトであるハミルトンを執拗に抑え続け、ハミルトンはそれに対して苛立ちを見せた。そして、結局アロンソは10周にわたって抑え込んでみせたのだ。

 ハミルトンがアロンソを攻略した時点で、レース残りは5周。これでオコンの勝利は安泰……とも思われたが、実際アルピーヌの戦略ツールが、勝利の可能性が高いという計算結果を打ち出したのは、残り3周となった時点だった。そしてオコンはベッテルの追撃を抑え切り、トップでチェッカーフラッグを受けた。

 2021年の8月1日は、アルピーヌにとって素晴らしい1日になった。しかしチームは、これが1度限りであるということを十分に認識しており、将来成功を目指す前にはまだまだやるべきことがたくさんあるということを知っている。

「我々はこれまで、今回のようなチャンスをいくつか逃してきた。それは苦痛を伴うことだった」

 そうブコウスキーは語る。

「レースに勝つことができたかもしれない時、そして表彰台にたどり着くことができたかもしれない時もあった。でも、そうすることはできなかった。でも、今回はそれを成し遂げることができた。運の要素も当然あるが、それが全てではない。最初はラッキーだったかもしれないが、それでも、しっかりと戦い抜く必要がある」

「チームとして、スタッフ全員が行なった仕事の功績だ。しかし、チームの重要な瞬間だったとも言える。とはいえ、有頂天になりすぎないようにしなければ。普通のレース週末だったなら、レースに勝てるようなマシンをまだまだ手にできていないからね」

「そういうマシンを手にするのが、我々の目標だ。毎レースでシャンパンを味わいたいのだ。少し有利な状況になった時だけじゃなくてね。今回のことは、チームにとってはとても重要だ。でも、誤解してはいけない。目指すべきは、速いマシンを作って、今回のようなことをまた成し遂げることだ」

 ただ今シーズン、ブコウスキーの言うようなことを実現するのは難しい……早くても、2022年ということになるはずだ。今シーズンはメルセデスとレッドブルを追いかけ、最大限の力を発揮し、チャンスが訪れた時にそれを活かすことだ。彼らがハンガリーで行なったように。

「正しい戦略を完璧に行ない、ピットストップも正しい形で行なった。完璧な任務を遂行した」

 そうブコウスキーは語った。

「このコースにやってきたチームの全員を誇りに思う。そして、エンストンとヴィリーにいるチームの皆のことも、とても誇りに思っている。我々はこれまで、厳しいシーズン、厳しい瞬間を乗り越えてきたからね」

「今年も、最初から簡単なシーズンにはならなかった。そして我々は、この勝利を掴むためにここにいる。皆がやり遂げた仕事を、とても誇りに思っている。本当にチームの勝利だ」

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