名門へ勝ちたいと考えたアマチュアドライバー
ロータスやフレイザー・ナッシュ、モーガンの小さなスポーツカーより速いマシンを、ジャイアントキラーと呼ぶのは大げさかもしれない。それでも、各ブランドがモータースポーツで一目置かれる存在だったことは間違いない。
【画像】チャップマンを驚かせた「手作り」マシン ギャモンMG TC 同時代のスポーツカーと比較 全112枚
アマチュアドライバーのピーター・ギャモン氏は、そんな名門へ勝ちたいと考えた。時代遅れになっていたMG TC ミジェットのシャシーをベースに、独自のマシンを作り上げると、1952年にそれを叶えてみせた。
ロータス・シックス(Mk VI)で負けたコーリン・チャップマン氏は、握っていたキーをギャモンへ手渡したとか。悔しさを誤魔化すために。手作りのスポーツカーが、初期のロータスへ小さくない影響を与えたことは、広くは知られていない歴史だろう。
グレートブリテン島南部、ギルフォードの洋服店に生まれたギャモンは、裕福ではなかった。彼が1951年に購入したTC ミジェットは新車ではなく、2オーナーの中古車。以前のオーナーが、レースへ何度か参戦していたクルマだった。
1945年にリリースされたTC ミジェットの後継として、TD ミジェットが1950年に登場。既に競争力は落ちていたが、ギャモンは可能性を見出したようだ。1952年シーズンに向けて、マシンの製作が始まった。
ベースはTC ミジェット アルミ・ボディは自ら成形
それが、今回ご紹介するアイボリーの1台。サイクルフェンダーが付いたシンプルなアルミニウム製ボディは、彼自身がデザインし、成形したと考えられている。ウッドフレームで組まれた、ボクシーな標準ボディより、遥かに軽量だったことはいうまでもない。
1950年代の英国では、自らマシンを仕上げるアマチュア・レーサーが少なくなかった。とはいえ、ギャモンの技術はかなり高かったといえる。
また彼は、遠くないチェシントンの街にあった、バーウェル・エンジニアリング社と繋がりがあった。そこへ務める技術者、ジョン・ルーカス氏の手で、直列4気筒1500ccのXPAGユニットは組み上げられた。アルミ製のシリンダーヘッドが特徴といえた。
これ以外にも、同社はギャモンのマシン製作を積極的にアシストした。ピアレスGTという少量生産のスポーツカー開発へ後に携わることになる、バーニー・ロジャー氏によって、TC ミジェットのシャシーはチューニングを受けた。
果たして、ギャモンMG TCは1951年末に完成。初レースは定かではないが、その年末のイベントか、1952年3月の第8回グッドウッド・メンバーズミーティングだったと考えられている。目立った戦績は残せていないが。
続く5月にも、同じメンバーズミーティングへ参戦。ここで見事に3位入賞を果たし、初めて完走しただけでなく、彼にとって初表彰台となった。
初シーズンから連勝 2年間で80回の表彰台
調子を掴んだ彼は、数週間後のシルバーストン・サーキットで開かれた、メイドストン&ミッドケント・モータークラブのイベントへエントリー。スタート直後に、トップを快走するフレイザー・ナッシュへ接近。追い越すと、大差を付けて優勝を掴んだ。
ライバルとして、新しいTD ミジェットも参戦していたが、まったく寄せ付けない速さだった。彼は興奮のあまり腕を振り回すと、着ていたシャツが破れ、旗のように風を受けたとか。
6月のシルバーストン・サーキットでのイベントでは、1.5Lエンジンのマシンが、4.5Lエンジンのアラードを猛追。優勝は叶わなかったが、2秒差での2位を勝ち取っている。
7月にも、MGカークラブのイベントで優勝。同月後半に開かれた、第10回グッドウッド・メンバーズミーティングでも優勝。ロータス・シックスを駆ったチャップマンを破るという快挙だった。
以降の1952年シーズンも、勝利は続いた。カッスルクームやスネッタートンなど、グレートブリテン島各地のサーキットで、表彰台の頂点へギャモンは登った。
翌1953年に開かれた、英国パフォーマンスカー・トロフィーでも、チャップマンへ再び勝利。シルバーストン・モータースポーツ・トロフィーなど、複数のレースでも強さを見せつけた。
かくして、彼が表彰台へ登ったのは2年間で80回。今では考えられないような記録を残している。
ロータス・シックスでも速かったギャモン
ロータスを率いるチャップマンは、ギャモンMG TCの強さが、販売に影響していると判断。1953年末に、自身のシックスを彼へ譲ったようだ。
他方、ギャモンはロータスのシャシーを高く評価していた。1954年シーズンをシックスで戦った彼は、英国パフォーマンスカー・トロフィーで連勝。10クラスに別れた英国エンパイア・トロフィーでも、総合3位を勝ち取り、シックスの存在を強く印象付けた。
ロータス・セブンの開発資金の一部が、ここから発生したことは間違いない。エンジンは、通常ならフォード製ながら、MG由来のXPAGユニットへ載せ替えられていたが。
彼の活躍の傍らで、ギャモンMG TCには走る機会が巡ってこなかった。自動車雑誌、オートスポーツの売買欄を通じて、シーズン後に450ポンドで手放されている。
ギャモン自身は、その後もモータースポーツで活躍。エルバやクーパー、ローラのマシンをドライブし、1959年に引退している。
ギャモンMG TCを購入したのが、ル・マン24時間レースへの出場経験も持つジミー・ブルーマー氏。調整を加え1955年のイベントへ参戦するが、1957年にはジョン・スウィフト氏へ譲渡された。
彼は、シルバーストンでのイベントやヒルクライム・レースへ参加。ヒーレー・シルバーストーンやACエース、トライアンフTR2より加速力は上だったと、言葉を残している。
この続きは、ギャモンMG TC(2)にて。
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