かつてモトクロス世界選手権で活躍したことのあるライダーといえば、渡辺明さん(当時スズキ/1978年/世界GP125ccクラスチャンピオン)。AMAスーパークロスでは、成田亮さん(当時ホンダ/2005年に雨のアナハイムで125クラス3位入賞)、AMAモトクロスでは、同じく成田亮さん(当時スズキ/2001年に125クラス2位入賞)など。
日本のモトクロスライダーは、全日本選手権国際A級でチャンピオンになり、その後にAMAや世界GPに挑戦というのが流れでした。これには、全日本でバイクメーカーとのコネクションを築くことで、現地での日本メーカーやチームの支援に期待してのレース参戦を考えていたから。
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実質、自分の知り合いを頼り現地で生活をして、レースはメーカーの現地法人にサポートしてもらうという方式でした。しかし、日本人モトクロスライダーが世界やAMAの舞台で活躍することは本当に稀でした。
一方で、現在AMAモトクロスでプロデビューする若いライダーは、全米アマチュア大会のチャンピオン達です。その大会は、カントリー歌手のロレッタリンが所有する観光牧場内にあるモトクロスコースで行われるので、通称ロレッタリンと呼ばれており、そこで活躍したライダーは、プロデビューの前からメーカーサポートを受けて実力を磨きます。
そして、下田丈選手も小学生の頃から日本ではライバルが居なくなるほど速くなり、10歳くらいでアメリカでのレースに参戦を始めます。目標はAMAのチャンピオンだったので、キッズクラスとはいえ、その実力からすれば正しい選択だったと思います。
最初の頃は日本から家族で渡米してレースに参戦していましたが、初めから勝てていたわけではありません。
そんな下田ファミリーは、プロへの登竜門=ロレッタリンという流れを知り、モトクロスをするのに最適な南カルフォルニアに家を持ち、将来トップライダーとなる現地の少年たちと同じように暮らし、同じようにバイクを揃え、同じように練習やレースをする生活を選びました。
そして、2014年、12歳の時にキッズを集めたFIMジュニア・モトクロス・ワールドチャンピオンシップの65クラスで優勝し、世界的な注目を集めました。
ロレッタリンは年1回、8月に行われるAMA公認のアマチュア大会ですが、出場するには全米で行われる予選を勝ち抜かなくてはなりません。この予選にはアメリカ人以外も参加でき、門は広く誰でも受け入れられますが、勝ち抜いて決勝の行われるロッレタリンに出場することができるのはひと握りです。
アメリカでは、ストッククラスとモディファイクラス(チューニング)という風に、同じ車種ごとにふたつのクラスがあるのが普通で、下田ファミリーは丈くんのために、バイクをストック本番車とスペア、モディファイ本番車とスペア、ストック練習車とスペア、モディファイ練習車とスペアという形で、8台用意したそうです。
それが、アメリカのトップライダーを目指す子どもたちにとっては普通のことでした。
当然、そのバイクを整備するには専任のメカニックが必要ですし、さらに有名なレジェンドライダーのコーチもつけました。必要なものは全て揃えるとお金がかかるという話になりそうですが、それもすべて下田ファミリーと丈くんの「絶対にAMAのチャンピオンになる」という本気の覚悟を決めたことからスタートしており、感銘を受けます。
丈くんの年齢と共にロレッタリンでのクラスが65→85→125と上がっていきますが、一緒に走ってきた仲間が、成績が出なかったり、メーカーサポートに入れなくなったり、怪我をしたりして、どんどん脱落して行く厳しい世界です。
そんななかで丈くんは、エリートライダーとなりホンダ系のサポートチーム「ガイコ・ホンダ」に所属して、AMAプロデビューを迎えました。
ところがこのガイコ・ホンダが、スポンサー撤退の影響でレースから撤退。先行きが危ぶまれましたが、丈くんはAMAモトクロスで数え切れないほどのチャンピオンを生み出してきた名門チーム「プロサーキット・カワサキ」からのオファーを受けて、2021年と2022年のシーズンを走ることになりました。
そんな下田丈(しもだ じょう)選手が、2022年9月11日に奈良県にある名阪スポーツランドで行われた全日本モトクロス選手権に参戦しました。
下田選手が今季フル参戦するAMAは、通常のアウトドアで行われるモトクロスが年間12戦、スタジアムにモトクロスコースを造設して行われるスーパークロスが16戦の2シリーズ制。スーパークロスは大都市で行われ、毎戦何万人ものファンが観戦する人気レースです。
下田選手は昨年、日本人で初めてAMAスーパークロスで優勝し、今年はAMAモトクロスの250クラスで5回のヒート優勝、2回の総合優勝、ランキング2位を獲得などの快挙を連発。プロクラスで世界の頂点を争う日本人ライダーとして、モトクロスファンを熱狂させています。
昨年は日本のコロナ入国制限に阻まれ、全日本選手権には参戦できなかった下田選手ですが、今年はアメリカのシーズン終了直後の名阪大会に参戦してくれました。
ちなみに下田選手は三重県鈴鹿市出身なので、名阪スポーツランドは地元といえるコース。その経緯もあって、4600人の観客が集まりました。
ロードレースカテゴリでは、日本人で世界チャンピオンとなった人が何人もいますが、モトクロスでは1978年の渡辺明さん以来。しかし下田選手は、その頂点への階段を着実に登っています。
そんな下田選手が今回、全日本に参戦した理由は、日本のファンの前で走りたかったからだそう。ファンサービスのために来日し、その言葉どおり走っていない時はずっと、ピットを訪れたファンにサインをしたり、写真を撮ったりと、ファンとの交流を楽しんでいました。
イケメンで可愛い笑顔、すらりとしたスタイル、そしてマシンを巧みにそして激しく操るそのギャップに、メロメロな女性ファンも多いようです。
今回、レースが行われたのは名阪スポーツランド。
モトクロスコース以外にも、カートコースや4輪のドリフトコースもある、天理市と伊賀市との中間くらいに位置する、サーキットです。
AMAではカワサキ「KX250」に乗る下田選手ですが、今回の全日本では同じくカワサキの「KX450」に乗り、国内最高峰のIA1(アイエーワン)クラスに出場しました。
マシンやメカニックを用意してくれたのは、カワサキレーシングチーム。バイクはアメリカで販売されるKX450ファクトリーエディションをベースに、グレードの高い前後サスペンションなどでチューンされたもので、チームカワサキR&Dのテントに入りました。
レースの結果はヒート1では、スタートで勢い良く飛び出した下田選手が、1周目から2位以下を引き離し、2位を45秒以上引き離した終盤、レース残り4分というところで3連ジャンプ着地後、ハイサイドで転倒。すぐに再スタートをして、トップをキープしたままゴールし手優勝。
ヒート2では、下田選手はスタートの混戦のなか、1周目の4コーナーでコースアウトして最後尾へ。転倒はなかったのですぐに追い上げ体制に入り、1周目は8位まで回復。
トップを走る選手を3秒以上速いライップタイムで追い上げて、5周目にはトップへ浮上。結局、コースアウトをしたことは大した影響もなく、最終的には8位までを周回遅れにして、2位と41秒の差をつけて優勝というレベルの違いを見せつける結果となりました。
来年は1月から始まるAMAスーパークロスで、250クラスチャンピオンを狙う下田選手。ファンとしては待ち遠しい限りですが、今年はもうひとつ大事なレースがあります。
それは「モトクロス オブ ネーションズ(=MXON)」というモトクロスの国対抗レースで、9月24日、25日に行われます。
モトクロスに限らず通常のレースは個人競技ですが、MXONは国を代表する3名のライダーで争う団体戦。このMXONには毎年、世界中からトップライダーが集まり、真の世界一を決めるレースと呼ぶファンも多い大会です。
今年の日本代表は大倉由揮選手(97番)、鳥谷部亮太選手(99番)、下田丈選手(98番)の3名。会場は今シーズン下田選手が優勝している、アメリカ ミシガン州のレッドバッドです。
32か国がエントリーしているこの世界一決定戦の大舞台で、遂に下田選手がトップを走る時が来たと期待がつのります。
皆さん、日本代表チームと下田選手を応援して下さい。
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クラスを間違えて出場したのかと思うくらいレベルが違います。