ボディやサスペンションや内装部品はEV化しても安くならない
日本電産の永守重信会長が、とあるイベントにおいて、極論と前置きしながらも「2030年までにはクルマの価格は1/5になる」と発言したことがクルマ好きの中で話題となっています。ネットでは「だったら100万円の軽トラが20万円で買えるってことだね」といった期待半分、疑念半分といった意見も見受けられます。永守氏の発言は、EV化とモーター&バッテリーのコストダウンを前提としたポジショントーク的なものですが、本当にクルマの価格が1/5になる可能性はあるのでしょうか。
現行の車両を単純にEV化したことで価格が1/5に仮定してみましょう。モーターとバッテリーのコストが限りなくゼロに近づくと仮定しても、価格が1/5になるということはエンジンとその周辺部品のコスト(開発・生産)が8割以上を占めている必要があります。逆にいうと、ボディ、サスペンション、シート、タイヤ、ブレーキといった部品が車両価格の2割しか占めていないということを意味しています。きちんと計算せずとも、そんなことはありえず、単純にEV化するという前提では、車両価格が1/5になるという話は検討にも値しないことは理解できるはずです。
自動車マーケットの規模が1/5になる可能性ならある
では、どのような変化があれば“2030年”までにクルマの価格は1/5になり得るのでしょうか。
おそらく、100万円のクルマが20万円になるように、個々の車両価格が1/5になるとは永守会長も考えていないと思われます。インパクトがあるような発言をしただけで、本意としては「自動車メーカーの売上、自動車マーケットの規模が1/5になる」ということではないでしょうか。そう考えると合点がいく部分も出てきます。
まずは自動車が所有からシェアリングに完全に移行すると想定します。現在、クルマのラインナップというのはコンパクトカーからショーファードリブン(お抱え運転手のいるクルマ)まで様々なカテゴリーやセグメントにわかれていますが、シェアリングであれば規格品のような1種類のクルマでカバーできるという考え方もあります。
そうなるとデザインなどで個性を発揮する必要もありませんし、装備で差別化することも不要になります。ある意味で、シェアリングカーが電池や電球のような規格品になるとすれば、複数の自動車メーカーが競い合う時代が終わることを意味します。そうなるとモーターやバッテリーも同一規格で済みますから量産効果は高まり、コストダウンがスピードアップすることが期待でき、たしかに車両価格は現状より安くなるでしょう。
さらに、すべてのクルマがシェアリングに変わると想定すれば、自動車の販売台数も激減することは明らかです。規格化によって車両価格が下がり、販売台数も減るとなればたしかに自動車メーカーの売上は1/5になってしまうという仮説を検討していくだけの意味があると感じるのではないでしょうか。
自動運転で無事故になると安全装備は簡略化される
また、自動運転テクノロジーが進化して完全自動運転が実現するとステアリングホイールやペダルといった操作系は不要になりますし、事故を起こさないことを前提にできればエアバッグなどの安全装置も不要になるかもしれません。さらにいえばボディの衝突安全性能も無視できるようになりますから、そこでのコストダウンも考えられます。
まとめるとシェアリングカーの規格化による車体設計のコストダウン、同一車両の大量生産による電動化パーツのコストダウン、そして自動運転での無事故化を前提とした安全装備の簡略化といったファクターを考えると、車両価格が1/5になる未来はあり得ない話ではないような気もしてきます。とはいえ、そうした未来があと10年、2030年までにやって来るとは到底思えないのも、また事実です。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
※イメージとして使った写真は、レベル4の自動運転に対応する想定のトヨタのEVコンセプトカー「LQ」。
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