見事な安定感を発揮するNT1100のハンドリング
エンジン以上にNT1100で特徴的な部分はハンドリングかも知れない。
3車ともオンロードモデル定石の前後17インチタイヤを採用しているが、NT1100は最も安定志向の強い性格だ。
【画像15点】ホンダ NT1100、ヤマハ トレーサ9GT、BMW F900XRの足まわりを写真で比較
NT1100のベースとなっているCRF1100Lアフリカツインの車体は、本格的アドベンチャーモデルらしくオフロード向けではあるが、軽快感と安定性をバランスさせた仕上がりである。
そこからNT1100ではキャスターを1度立て、トレールを5mm短縮、それに前後17インチタイヤを組み合わせているが、これが予想以上に落ち着いたハンドリングに仕上がっているのだ。
もともとヘッドパイプ位置の高いオフロード向けフレームをロードモデルに仕立て直すと、立ちが強いとか、頭から倒れていくといったような性格になりがちだが、NT1100ではそういった感覚は一切なく、弱アンダーステアのニュートラルなハンドリングだ。
これに関しては、以下のように開発陣がコメントしている。
「ロードモデルとしてディメンションを最適化し、走行テストも十分に行った結果、扱いやすく信頼感のあるハンドリングになったと自信を持っています。ヨーロッパにおける走行速度レンジは最高160km/hで想定していますが、そのレベルでも安定性を損なうようなことがないよう作り込んだつもりです。さすがにサーキット走行までは考えていませんが(笑)」
前後の重量配分は51:49でほぼイーブンだが、1名乗車の無積載状態では、若干フロント周りが重く感じる(このフロント周りの重さはNT1100の個性と言ってもいいだろう)。これは「タンデムや荷物の積載を前提に設定」しているそうで、リヤ周りの荷重が増加すれば軽快方向に振れるということだろう。
NT1100の車重はCRF1100Lアフリカツインと同等の248kgだ。これを「重い」と言うのは簡単だが、色々と装備を追加したロードモデルでありながら「1100ccのオフロードバイク」とも言えるCRF1100Lアフリカツインとほぼ同等に抑えているという見方もできる。
実際、NT1100では重量抑制のために数々の工夫を凝らしているのだ。
「車体ではシートレールの小型化やラジエターマウントの合理化、足まわりはフロントサスペンションにSFF-BPを採用したこととスイングアームの製法変更(押し出し材と鍛造材の組み合わせから、重力鋳造へ)を行っており、それらの変更は操舵系の慣性重量を最適化するのに貢献しています。エンジン関係ではエキゾーストの排気デバイスの廃止などが軽量化のために取り組んだ部分。メーターパネルやスクリーン、ヘッドライト周りのクリアランスなどにも神経を遣いました」という。
SFF-BP(セパレート・ファンクション・フォーク・ビッグ・ピストンの略で、左右にスプリング、右側のみに大径のダンパー機構を内蔵)は踏ん張り感も頼もしい。下り坂のギャップなど、細かい動きがやや苦手な感じがするが、総じて作動フィーリングは悪くない。
決して軽快ではないが安定指向の高いハンドリング、スタビリティのあるサスペンションなど、この辺りでNT1100の信頼感と汎用性は高いと感じられる。ただし、かなり攻め込んだ場合(高荷重にななればなるほど)は、フロントの重さとアンダーステア傾向は大きくなっていくようだ。
電子制御サスペンション採用のトレーサー9GTは「軽快かつ万能」
操舵周りのレスポンスやハンドリングの軽快感では、6軸IMUによる電子制御サスペンションを採用しているトレーサー9GTがダントツだ。ブレーキングのピッチングは自然な感じに抑制されるし、ワインディングでの挙動も3台中で最も滑らかだ。
そのハンドリングは多くのシチュエーションで軽快かつスタビリティのあるものだし、タンデムや積載時も大きく変わることはないであろう。もっとも、時としてトータルで重いものがバネ上でゆらゆらと動いているフィーリングはあるが、トータルではとても好印象だった。
F900XRはスポーツネイキッドのようなハンドリング、ただし足まわりは硬め
そして、この2台と毛色が違うのがF900XR。乗っている感覚としてはスポーツネイキッドに近く、モード切り替え可能な電子制御サスペンションは基本的に割と硬質な乗り味であり、ハンドリング自体は軽快でとてもスポーツライクだが、NT1100以上に細かいギャップでは吸収性が追いつかない感じがする。
ウィンドプロテクションもツアラー的ではないので、高速道路メインの長距離走行では少々体力を必要とする(シートも硬めで時に忍耐が必要)。逆にショート~ミドルレンジで、一般道やワインディングの多い走行シチュエーションだと、3車中最も軽快に走れるであろうし、性能には直接関係はないがスタイリングデザインも悪くないと思う。
NT1100は1100cc版スーパーカブ!?
このようにNT1100は多くの要素で平均点以上であり、それらがバランス良くまとまっているのだ。ただし、図抜けて優れている要素が無いわけでなない。
【エンジン&ウインドプロテクション性編】で記したように快適性は抜群だし、標準装備されるグラブバー一体型のリヤキャリア(トップケースのマウントも兼ねている)はフラットな形状で3車中最も使い勝手が良い。
すべてにおいて卒がない点はホンダらしいとこれも先に述べたことだが、テスターのひとりはそれを「GB350の1100cc版に思える」と評したが、筆者は「20倍でっかいスーパーカブ」と感じている。
あえて粗を探せば、前述したようにワインディングでペースを上げていくと、少々車体が重く感じられることと、アンダーステア傾向が強くなる点だろう。それと、CRF1100Lアフリカツインと基本的に同じ多岐にわたるモード切り替えの操作が複雑であり、スイッチボックスのインターフェイスには改善を望みたいところだ。
「NT1100は乗りやすくて非常に気に入りましたよ。もう少し制御の切り替えやスイッチの操作がシンプルで、かつMT仕様があったら、買いたいくらいです」とテストメンバーの1人、モーサイweb編集長の上野はいう。
ちなみに、NT1100にトップケースとパニアケースを装着すると約25万円/15kgのアップで合計約193万円/263kgとなる。ツーリングユースで人気のあるCB1300スーパーボルドールの場合は、約20万円/13.5kgのアップで約182万円/290kgとなるから、それぞれ価格か重さにメリットがある。
そして、3つのケースの容量の合計はNT1100が115Lで、CB1300スーパーボルドールが93LとNT1100が圧倒的だ。つまり、価格ではNT1100が約10万円高くなるが重さで30kg近く軽く、容量で20%ほど大きくなるので、CB1300スーパーボルドールから乗り換えを検討する場合、NTは有力候補になるかも知れない。
ホンダ NT1100主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列2気筒OHC4バルブ ボア・ストローク:92.0mm×81.4mm 総排気量:1082cc 最高出力:75kW(102ps)/7500rpm 最大トルク:104Nm<10.6kgm>/6250rpm 変速機:電子式6段
[寸法・重量]
全長:2240 全幅:865 全高:1360(スクリーン最上位置1525) ホイールベース:1535 シート高:820(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:248kg 燃料タンク容量:20L
[車体色]
マットイリジウムグレーメタリック、パールグレアホワイト
[価格]
168万3000円
フロントフォークはショーワ製SFF-BPで、インナーチューブ径は43mm。サスペンションストロークは150mm。リヤサスペンションはリンク式モノショックで、サスペンションストロークは150mm。リモートプリロードアジャスターを装備する。
純正装着タイヤはメッツラー・ロードテック01と、ダンロップ・GPR300の2種が設定される(試乗車はロードテック01)。
ヤマハ トレーサー9 GT主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列3気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:78.0mm×62.0mm 総排気量:888cc 最高出力:88kW<120ps>/1万rpm 最大トルク:93.0Nm<9.5kgm>/7000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2170 全幅:885 全高:1430 ホイールベース:1500 シート高:ローポジション810/ハイポジション825(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:220kg 燃料タンク容量:18L
[車体色]
ブルーイッシュホワイトメタリック2(シルバー)、ビビッドレッドソリッドK(レッド)、マットダークグレーメタリックA(マットグリーニッシュグレー)
[価格]
145万2000円
前後サスペンションはKYB製の電子制御式で、6軸IMU、ECU、HU(油圧センサー)の情報をもとに減衰力をリアルタイムで最適化する。A-1(コンフォート)、A2(スポーツ)の2種のモードが選択できる。
フロントフォークのインナーチューブ径は41mmで、ストロークは130mm。リヤサスペンションはリンク式モノショックで、ストロークは137mm。プリロード調整はマニュアルでリモートアジャスターを装備。
純正装着タイヤは専用セッティングが施されたブリヂストン・T32。
BMW F900XR主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:86mm×77mm 総排気量:894cc 最高出力:77kW<105ps>/8500rpm 最大トルク:92Nm<9.4kgm>/6500rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2150 全幅:860 全高:1320(スクリーンアップ時1420) ホイールベース:1530 シート高(スタンダード):825(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:223kg 燃料タンク容量:15.5L
[車体色]
ライトホワイト、レーシングレッド(別途2万6000円)、ブラックストームメタリック2(別途2万6000円)
[価格]
118万1000円(ベース)
141万2000円(スタンダード)
144万6000円(プレミアムライン)
フロントフォークはインナーチューブ径は43mmで、ストロークは170mm。リヤサスペンションはリンクレスのモノショックで、ストロークは172mm。
リヤは電子制御サスペンション「ダイナミックESA」がオプション装着可能、プレミアムラインでは標準装備となる。ソフトな挙動の「ロード」、スポーティな「ダイナミック」の2種のダンパーモードがあるほか、プリロード設定を1名乗車、1名+荷物、タンデムの3種から選択できる。
純正装着タイヤはモデルイヤーによって種類が幾つかあるようだが、試乗車に装着されていたのはブリヂストン・T30だった。
レポート●関谷守正/上野茂岐(キャプション) 写真●柴田直行/ホンダ 編集●上野茂岐
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