コロナ禍でマスクやトイレットペーパーの需要の増加で輸送に追われ、さらにはステイホーム時間の増加で通信販売の輸送も急増したトラック業界。ただでさえ過酷な日常なのに、2020-2021年シーズンは豪雪ともいえる積雪が相次いだ。
そんな状況で日々奮闘するトラックドライバーの皆さんに「大雪で大変だったエピソード」を聞いてみた。3月頃までは本州でもまだまだ降雪が続く日本列島。トラックドライバーの皆さんにエールを送るとともに、一般ドライバーにもぜひ理解を深めてほしい。
量販店で買えるタイヤと違うの!? 純正タイヤがじつはひと味違うという事実
文、写真/フルロード編集部
【画像ギャラリー】いつもありがとうございます!! トラックドライバーに聞いた大雪エピソード
■年々深刻度を増す大雪による交通障害
今シーズンも「大雪による立ち往生」が相次いだ
毎年のように耳にする「大雪で立ち往生」のニュースだが、今年はホワイトアウトによる重大事故も発生。大雪による交通障害は深刻度を増している。
中でも日本の物流を支えるトラックは、雪が降っているからといって簡単に休むわけにはいかず、ひとたび「大雪で立ち往生」に巻き込まれれば、荷物とともにトラックの中でじっと我慢の子になるしかない。
国土交通省では、運送業者の中には大雪でも予定通り荷物を運ぶよう荷主から強い要望を受けたケースもあり、このほど関係省庁と業界団体の連絡体制を構築し、大雪が予想される「緊急発表」の際は、業界団体を通じて荷主側に運送の中止や経路変更など協力を呼び掛けることにした。
さらに大型車の冬用タイヤとチェーンの注意事項に関するパンフレットを作成し、雪道走行に際しての注意を促している。しかし、それだけで「大雪で立ち往生」がなくなるとも思えない。
もちろんトラックドライバーも、そんな事態に陥らないために、事前に気象情報や道路情報を収集し、仲間からも有力な情報を入手し、さらには会社に指示を仰ぐなどの対応を取ってはいる。
それでも大雪の魔の手から逃れることはできず、トラックドライバーなら誰しも一度や二度大雪に泣かされた経験があるようだ。そんな雪にまつわるエピソードをトラックドライバーに語ってもらった。(トラックマガジン「フルロード」編集部)
■大雪で丸々1日の「延着」
走れるルートを求めて必死で情報を集める
トラックドライバーにとって大雪の思い出は「延着」の苦い思い出と重なる。延着とは、予定の時刻や期日より遅れて着くこと。トラックドライバーなら何としても避けたい事態だ。
そこで懸命に回避策を模索するのだが、人智の及ばない不可抗力もある。その最たるものが大雪だ。まずは当時長距離トラックに乗っていたヒデさんのエピソードから紹介しよう。
「皆さんは最大でどれぐらい『延着』したことがありますか? 私は丸1日遅れっていうのがあります。京都府の福知山市で荷物を積んで、千葉県八街市に翌日の9時着という仕事でした。
その日、日本列島を記録的な大寒波が襲い、全国的に大雪。滋賀県で荷物を降ろして積地の京都まで回送するのに8時間(通常なら3時間)。急いで荷物を積んで、「さぁ出発!」というところで高速が全滅! 雪に強い北陸道までが一部通行止めで、関東へ抜ける主要国道は大渋滞。
必死で情報を集めて、北陸道の武生ICから上越JCTで切り替えて、上信越道から長野道を抜けて関東に入るというルートが生きていたので早速目指しました。国道27号線から8号線をしばらく走ったところで超ノロノロ運転、全く動きません。
確か6時間ぐらいは渋滞に揉まれていましたね。渋滞の先頭では重トレ(重量物トレーラ)がスタックしていました。
その先は空いて高速にも乗ることができたんですが、あまりスピードは出せず、現地に着いたのが翌日の23時。もちろんそんな時間に人が居るわけもなく、出発の翌々日の朝一で降ろして丸1日の延着、というのが最長記録です。
他の運転手とも連絡を取り合っていたのですが、自分の選択したルートはかなり早かったようでした。悪天候ばっかりはどうしようもないですから、さすがにお客さんも同情してくれましたよ」。
■雪に不慣れなドライバーの場合
雪に不慣れなドライバーに坂道は最大の難関となる
もう一人、トラックドライバーのエピソードをご紹介しよう。雪に不慣れな首都圏のドライバー、みゆさんの話である。
「私が海コン(海上コンテナトレーラ)をやっていた頃のことです。天気予報では降水(降雪)確率は低く、順番取りのために夜中に出発し、向かっていた先は栃木県の北部。
途中から白いものがチラチラと降り始めてきたのを「そんな予報じゃないし、どうせ積もらないだろう」と気にも留めずに走行を続けていたのですが、北へ北へと向かううちに雪は段々とひどくなります。
主要国道は路面にまでは積もっていなかったのに、早朝の県道では交通量も少なく、路面に積雪、そして凍結もしているような状態!
私が乗っていたクルマ(シングルといわれているトラクタヘッド)はスタッドレスどころか溝も減り始めている夏用タイヤのまま。
それまで雪道らしい雪道の走行経験がなく、一人でのチェーン装着にも自信はありませんでしたが、目指す現場は急勾配な坂の上! これは時間がかかってもチェーンを巻くしかありません。
幸い坂の手前は片側二車線の広めの道路で、左側の一車線には同じくチェーンを巻くトラックが数台停まっており、少し心強い。
チェーンを巻く準備を始めると、近くに停めていたタンクローリの運転手さんが近づいてきたので「もしかして手伝ってくれるのかな?」と淡い期待をしていると、「このコンテナ、何を積んでいるの?」。
世間話をしている余裕はないのにと思いながらも「坂の上の○○に積み込みに行くので今は空車です」と答えた私は、予想外の話の展開に驚かされることに!
「空車のトレーラじゃ、チェーン巻いたってあの坂は上がれねぇよ。事故を起こすくらいなら、日が出るまでここで待機していたほうが良い」。
大雪に備えてトラックドライバーも「自衛」が肝心だ
そう言われてしまっては無理に動くわけにもいかず、会社(まだ寝てたらしい社長の携帯)に連絡。状況を説明すると、焦る私とは逆に「春までそこに居るか?」と呑気な様子……。それでも荷主には連絡を入れておくからと許可をもらい、坂の手前で待機することに……。
数時間後に状況は好転し、雪は止み気温も上がってきました。社長から「今から迎えに行く」という電話があり、「横浜から迎えにくるのか?」と思っていたら、現れたのは積み込み先の方! しかもスコップ持参で……。
「少し遠回りになるけど裏側の道のほうが緩い坂だし、今ならチェーンなくても上がれると思う。会社から電話してもらうより、誘導したほうが早いので」と、指定時間を過ぎてしまっていることを怒るどころか、雪に埋もれていた(?)私を心配してくれていた様子。
迂回をして無事に到着してみたら、いつもは数台いるコンテナは私の他に1台だけ(雪が降る前に着いていたらしい)。予定外の雪のために他のクルマもたどり着けていなかったようで、延着しているのにナゼか「よく来たね」と誉められ、菓子パンと牛乳の差し入れまでいただいてしまいました(笑)。
こんなイイ現場はたまたまなのでしょうが、数cm程度の雪で大騒ぎをしていては豪雪地域で活躍している方々に笑われてしまいそうですね」。
■大雪の本場・北海道のドライバーから
除雪体制が整っているかどうかも大きなカギだ
では、その豪雪地域で運転しているトラックドライバーはどうだろう? 北海道で主にバルクトレーラに乗っているかんちゃんの話である。
「こちら北海道、特に道北地区は、除雪体制が整っていて、しかも対応がプロフェッショナルです。大雪で立往生なんていうのは、ここ何年も聞いたことがないです。
トラックが大雪で動けなくなる前に除雪が始まりますし、運転手さん達も慣れているので、『この降り方はヤバイな』と思ったら、各除雪センターや道路情報に電話で連絡します。
それよりも、気温が下がりすぎて燃料が凍ってしまい、動かなくなっているトラックとかはたまに見かけますよ。本州の友人のトラックドライバーからは『かんちゃんのとこはロシアだね!』とよく言われます」。
同じく北海道で大型トラックに乗っている菊地さんからはこんな話が……。
「北海道の冬はいつどこで遭難するかわかりませんから、私は必ず数日分の食料をトラックに積んであります。女子ドライバーたちは季節に関係なくお菓子を山盛りに常備しているのが常識らしく、雪に閉じ込められてもそれで二~三日は生きられると言っています。
北海道では本州のように大勢が同じ場所で立ち往生することはあまりありません。車両の密度が単独で取り残される程度なんですよね。ですから雪がひどく降ることがわかっていながらも行かなければならない時には、個人レベルで用意をするわけです。
皆さん雪慣れしているので、ちゃんと食料を持ち歩いているんです。ですから、よくニュースなどで立ち往生の際の美談として伝えられる積み荷を周りに配るというシチュエーションは聞いたことがありません。万が一そんな事態になれば、恐らく会社が積み荷を買い取る形で振る舞うでしょうね。
そもそも北海道の高速道路で何日も立ち往生することは絶対にありません。除雪体制が整っているので、主要な道路は長くても24時間以内には復旧します。それができないほどの大雪では、死人が出る規模の災害になります」。
* * *
幸いにしてスマホなどの普及で情報手段は確保できているが、近頃の異常気象で「大雪」はいつどこで激甚化するかわからない。
実際、「大雪で立ち往生」に備えて食料や携帯トイレを車内に持ち込むトラックドライバーが増えており、冬用タイヤの使用管理の徹底、タイヤチェーンの常時携行なども常識化しつつある。
行政やトラック業界も「大雪で立ち往生」問題に対応し始めているが、まずはトラックドライバーが「自衛」に動き出したことは心強い限り。日本の物流は彼らに支えられているのだ。
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