ザ・マッカランとのコラボ「ホライズン」
「まずは、ご感想は?」 前例のないベントレーを生み出したカースティン・キャンベル氏へ、最新作に対する印象をうかがう。
【画像】ベントレー最後の「W12」 フライングスパー・スピード・エディション12 豪奢な現行モデルたち 全106枚
筆者はここまで、フライングスパー・スピード・エディション12を数時間運転してきた。グレートブリテン島中西部のクルー工場を旅立つ、W型12気筒エンジンを搭載したベントレー最後の限定モデルだが、その印象ではない。
ご存じの方もいらっしゃるかと思うが、ベントレーはスコットランドの名門ウイスキー・ブランド、ザ・マッカランとコラボレーションし、特別なシングルモルト・ウイスキーを発売した。彼女は、その繊細な味を仕上げたマスターメーカーなのだ。
最新のベントレー、「ホライズン」が誕生したのは、スコットランドのスペイ川へ面した蒸溜所。ベントレーのイメージに相応しい味わいへ至るまでに、4年という歳月を費やしたそうだ。
この「ホライズン」は、歴史あるザ・マッカランが提供してきたウイスキーの中でも、最長の開発期間を経たとか。あいにく日本での正規販売はないようだが、提供数は限られる。そのお値段は、ベントレーの名にふさわしく、1本4万ポンド(約756万円)だ。
発売されたタイミングは、ベントレーのW12エンジンの終焉と重なった。この特別なユニットも、20年以上という熟成期間を経て、現在最高の味わいにある。しかし、強化される排出ガス規制と避けがたい電動化の波に押され、現役を退くことになった。
ベントレーの成功を導いた牽引役
既に受注生産という形では、W12エンジンのベントレーはオーダーできない。だが、最後の限定仕様のためのロットは確保されている。生産終了の期日が発表されたわけではないが、数か月先というほど、遠い話ではないらしい。
21世紀初頭に、フォルクスワーゲン・グループの傘下に組み入れられ、ベントレーが再出発を果たした時に搭載が始まったのが、W型12気筒だった。現在のベントレーの成功を導いた、牽引役だといっていい。
他に例のない高性能ユニットで、最高出力より最大トルクを重視した設計にあった。12気筒でありながら体積は小さく、全長は同じ排気量のV型12気筒エンジンと比較し、25%ほど短い。極めて洗練された質感で、秀でた能力を発揮し続けてきた。
AUTOCARだから、シングルモルト・ウイスキーよりサルーンの方へ注目しよう。今回お借りしたフライングスパー・スピード・エディション12と、筆者は1日で約640kmをともにした。
最高出力は635ps。最大トルクは91.6kg-mもある。ストレスフリーで芳醇なトルクに身を委ね、心の底から満ち足りた気持ちになった。
生産数は、120台限り。特別仕様として専用のコーディネートが与えられ、W12エンジンのスケールモデルが付いてくる。恐らく、ホライズンのボトルと一緒に、ショーケースへ飾られるのだろう。
ちなみに、スピード・エディション12はフライングスパーだけでなく、SUVのベンテイガでも指定できる。2ドアクーペとカブリオレの、コンチネンタルでも。
いい意味でドラマ性はまったくない
1日に数100kmも運転する朝となれば、深呼吸してこれからの長丁場へ構えるだろう。カーナビには、正確に目的地を登録するはず。しかし、相棒がフライングスパーなら話が違う。
W12エンジンを搭載したビッグサルーンは、悠々とアスファルトを滑走すると知っている。リラックスしたままシートへ座り、数時間後、リラックスしたままシートから立ち上がれた。
ザ・マッカラン蒸溜所までのロードトリップは、最後まで平穏だった。特筆することがなかった、といっても良い。穏やかな時間が、ただ過ぎていった。
クルーにあるベントレーの工場から北へ出発したが、600kmほどは、高速道路と幹線道路。スピード違反を取り締まるカメラが路肩に点在し、気持ちを鎮めて走るしかない。
初めは朝のラッシュアワーに揉まれ、マンチェスターからはM6号線に合流。フライングスパー・スピード・エディション12は淡々と北上を続け、イングランドからスコットランドへ。道は、A74号線へ切り替わった。
早起きして、遠くまでクルマを運転するのは楽しい。午前10時をすぎるまでに、240kmも進むことができた。W12エンジンは、高速道路の速度域でも、アイドリングより少し上の回転数でこと足りる。いい意味で、ドラマ性はまったくない。
エディンバラの北からA9号線へ入り、スコットランド北部を結ぶ「モルトウイスキー街道」、A95号線へ合流する。恐らく大昔と変わらない、風光明媚な景色が周囲に広がる。低い位置から太陽が照らし、一帯を輝かせていた。
この続きは、フライングスパー・スピードでザ・マッカランへ(2)にて。
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