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チェッカー後にあふれた涙、「降りたくなかった」マシン。万感のフィナーレに滲んだ山本尚貴の“らしさ”

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チェッカー後にあふれた涙、「降りたくなかった」マシン。万感のフィナーレに滲んだ山本尚貴の“らしさ”

 表彰式後、全選手がポディウムに登壇して行われたシーズンエンドセレモニー。新王者となった坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)がドライバーを代表して挨拶、長かった2024シーズンが本当の締めくくりを迎えようかというタイミングで、場内ビジョンに突然『サプライズにご協力ください』という文字が現れた。

 司会を務めたピエール北川アナウンサーの合図に続いたのは、詰めかけた観衆からの『ナオキ』コール。すでに直前のシャンパンならぬ“炭酸水ファイト”でずぶ濡れになっていた山本尚貴(PONOS NAKAJIMA RACING)はキョトンとした表情を浮かべたが、近藤真彦JRP会長に促されると清々しい面持ちで表彰台の頂点に立った。

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 花束贈呈に現れたのは、恵里夫人。もちろんこれもサプライズだったが、少々照れくさそうな山本が恵里さんの肩を抱き寄せると、会場からは割れんばかりの大拍手が贈られた。

■後輩たちへ贈るエール

 15年に渡る国内トップフォーミュラでの戦いに幕を下ろした山本。セレモニー直後、メディアミックスゾーンに姿を見せた3度の王者を、記者たちが取り囲む。

「みんなが15年できるわけではないですし、仮に15年やれたとしても、あのようなセレモニーをしていただけるドライバーはなかなかいないと思います」

「JRPさん、今日来ていただいたファンの皆さん、来られなかったファンの皆さん、ライバルの皆さんには本当に感謝の気持ちでいっぱいです。本当に幸せなフォーミュラカードライバー人生だったので悔いはないですし、サポートしてくださった皆さんに本当にお礼が言いたいです。ありがとうございました」

 この日の山本は予選Q1Aグループで最速タイムをマーク。直後にピットに戻った際に映像カメラに向けて手を振る姿をはじめ、スターティンググリッドに次々に訪れる人々と写真撮影に臨むなど、“特別な一日”を噛み締めているようだった。

「レースが終わるまでは泣かない」。そう決めて臨んだスーパーフォーミュラ人生の最終日だったが、「何回も危ないシーンがあった」と山本は振り返る。

「ひとつひとつの動作が、『これが最後か』と思うと寂しいな、と。でも、別に自分の思い出作りのために来ているわけではないので、やっぱりプロとして最後の最後までどうやったらポールポジションが獲れるのか、優勝できるのかというのをずっと考えながら、いままでどおりできたかなと思います」

 もっとも感傷的になる瞬間は、岩佐歩夢(TEAM MUGEN)と牧野任祐(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)を従えて6位でチェッカーを受けた後に訪れていた。

「無線でメカさんをはじめ、エンジニアさんも全員が『ありがとう』と言ってくれて、それでもう全部自分のなかで崩壊しちゃって、泣きながら1周、帰ってきました。これが最後のフォーミュラカーでの1周なのかと思うと、ゆっくり走って、降りたくないなって気持ちで、余韻に浸りながら走っていました」

 ホームストレート上のパルクフェルメにマシンを止めた山本は、しばらくコクピットのなかに留まっていた。ようやくコクピットから身体を起こして立ち上がってもなお、マシンを離れることをためらう。15年を過ごしたその場所を最後の最後まで味わうと、愛機を降りその脇にしゃがみ込んだ。

「降りたくなかったですけど、自分で決めたことですし。最後、牧野選手が待ってくれて、自分のところに来てくれて……彼もチャンピオン獲れなくて悔しいはずなのに。彼とGTで一緒にチームメイトとしてやれたことは本当に幸せだなと思いましたし、彼みたいな若い選手がこれからスーパーフォーミュラを引っ張っていくはず。そんな彼と一緒にできたこと、そして最後に迎えてくれたことが、一番『キた』かなと思います」

 ミックスゾーンでは野尻智紀(TEAM MUGEN)が号泣しながら山本への想いを語ったが、そのことを記者に告げらると「やっぱり、チャンピオンを獲った者にしか分からないプレッシャーがあるなかで、どこか共感してくれている部分が、どのドライバーよりも多いのかなと思います」と山本は野尻の存在について口にした。

「僕が降りることで、彼がこの業界とスーパーフォーミュラを、チャンピオン(経験者)として引っ張っていくなかで、プレッシャーはまた一段と大きくなるかもしれないですけど、それに打ち勝てるだけの技量とメンタルがあるはずなので、彼には頑張ってもらいたいと思います」

 思えばこの週末、金曜に行われた引退記者会見も含めて、山本は何度も後輩たちを想い、彼らの活躍を願う言葉を口にしてきた。常に他者を尊重する姿勢を崩さずにレースという戦いに臨んだことが、15年という長きにわたっての活躍、そのなかで3度のタイトル獲得につながっていたのかもしれない。

 そんな山本らしく、観客を前にしたセレモニーでの挨拶も、こんなふうに結んだ。

「まだまだスーパーフォーミュラは続きますし、ここには素晴らしいドライバーがそろっています。来シーズン、僕は走りませんが、ここにいるドライバーたちがまた盛り上げてくれますので、そのドライバーたちをぜひ応援していただけたらなと思います。皆さん、来年もサーキットに来てください。15年間、本当にありがとうございました!」

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