英国の個性的な自動車解体業者
英国にレイク・オートス(Lakes Autos)という、他とは一味違ったスクラップヤードがある。東部ベッドフォードシャー州の村、ワイボストンのA1幹線道路から見える。
【画像】「ボルボ専門」解体業者がスゴかった!【英国のレイク・オートス(Lakes Autos)の様子を写真で見る】 全15枚
周辺は風光明媚とは言い難いが、廃棄されたクルマがひしめき合うレイクスの様子は、錆びた金属ではあるものの一種の太古の森のようだ。英国では最近、このような場所はあまり見かけない。
業界の浄化を目的とした新しい規制によって、小規模な自動車解体業者の多くが閉鎖を余儀なくされ、いかがわしい業者は日陰に追いやられた。レイクスは数少ない昔ながらのスクラップヤードの1つとなったが、その事業内容は少しだけ特殊だ。ボルボ車だけを取り扱っているのだ。
約5万6000平方メートルに及ぶ敷地を見て回ると、まるで過去にタイムスリップしたような気分になる。解体されていくクルマはおそらく400台以上あり、ボルボの960、940、740、850、さらにクラシックな244 DLまである。ボルボの黄金時代を彷彿とさせる光景だ。
なぜボルボを専門に取り扱うのか?
レイクスのオーナーはバリー・コッペンさん。77歳の彼は、今はもう亡くなった2人の兄弟とともに、以前この場所にあったガソリンスタンドとガレージ、そして周囲の土地すべてを父親から受け継いだ。
コッペンさんはロンドンで生まれ、エンジニアとしての教育を受け、超音速旅客機コンコルドの初期プロトタイプやジェット戦闘機ジャギュアの開発に携わった。その後、自動車産業に足を踏み入れた。30年前に両親を亡くし、兄弟とともに父の経営していた会社に移ったが、すぐに野心が芽生えた。
「この辺りには10ほどのスクラップ工場があり、スペアパーツを売るために競ってクルマを集めていました。わたしは1つのメーカーに集中することに決め、ボルボを選びました。ボルボは頑丈で、オーナーはできる限り長く走らせたいと考えていたからです」とコッペンさん。
レイクスの眼の前には、イングランドを南北に走るA1幹線道路がある。現在は片側2車線だが、コッペンさんがスクラップヤードを始めた当時はまだ片側一車線だったそうだ。「トラックを見かけるのも10分に1台程度でしたが、わたし達が回収・販売する部品を求めるお客さんは後を絶ちませんでした」
「商売は順調でした。5年前、兄弟が病気になってからはガレージとガソリンスタンドを閉鎖して、ボルボを解体して売ることに専念したんです」
並外れた知識量、鳴り止まない電話
取材中、レイクスには何本も電話がかかってきた。
「2005年式ボルボV70のリアワイパーのモーターですね?」とコッペンさんは電話の相手に確認する。
「アームは左右どちらに付いていますか? 2000年から2004年までは左側、それ以降は右側ですが、2005年に登録された古いクルマは左側に付いていることがあります。モーターの在庫はありますよ」
電話の後、コッペンさんは、過去40年間に得たボルボの部品に関する記憶力には恵まれていると語った。「在庫部品のカタログを作る必要すらありません。何がどこにあるか正確に把握していますし、ボルボの故障とその治療法を学ぶのに何千時間も費やしてきました」
その数分後、「いろいろ試したが240が動かない」という別の電話に対して、コッペンさんはその知識を披露した。「燃料は入っていて、火花も出ているんですね? 火花の大きさが足りないのかもしれません。ヘッドライトの後ろにあるアンプをチェックしてみてください」
コッペンさんによると、レイクスが所有するボルボの平均使用年数は12年だという。しかし、筆者が見る限りではもっと古いものもたくさんある。
コッペンさんは販売のため、ライト、ドアミラー、ラジオ、トノカバーを取り外して保管している。「一番よく売れるんです。クルマにつけたままにしておくと、盗まれてしまいますからね」
ライトのストックは何列にも並んでいるが、どれもラベルは貼られていない。どのモデルに適合するかはわかっているからだという。
クルマに対する深い敬意と愛情
外に出て、スクラップを見て回る。筆者は一番古い1973年式の144を探してみようと思った。コッペンさんは30年前から所有しており、今でも部品を売っていると言う。
しかし、ねじれた金属の中を進むのは大変な作業で(コッペンさんは体調が万全ではない)、なかなか見つからない。でも心配は無用だ。素晴らしい960や940、そして時折850の残骸の中でつまずくだけで十分面白い。あそこに見えるのは480 ES? 向こうにはS80、その隣にはC70がある。
コッペンさんはクルマに大きな敬意を払っている。「昔のボルボは50万kmも楽に走れました。84万5000km走ったV70を引き取ったこともあります。ここにたどり着く理由の大半は、タイミングベルトが切れてエンジンがやられてしまうんです」
ロッペンさんは、もう若くはないんだから、という言葉など気にかけないだろう。しかし、事業を売り払って引退することは考えないのだろうか?「お客さんに必要とされているんです」
「わたしほど古いボルボに詳しい人間はほとんどいません。古いヘッドライトの山を賭けてもいい」
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