お金には代えられないイスレロでの体験
「父はバハマでクルマを登録していたので、わたしが引き継ぐ時に2500ポンド以上の輸入関税を支払いました」。と当初を振り返る、ランボルギーニ・イスレロ Sを所有するマーク・ガースウェイト氏。
【画像】美しい400GTの後継 ランボルギーニ・イスレロ S ミウラと最新カウンタック、ウルスも 全99枚
これまで、トラブルは少なくなかったようだ。英国のランボルギーニ専門ガレージ、コリン・クラーク・エンジニアリング社などで、10万ポンド以上を費やしながら維持している。それでも、イスレロ Sでの体験はお金には代えられないものだったという。
素晴らしい状態が保たれてきたイスレロ Sは、1999年にブルックランズで開催されたイタリアン・カーデイというコンクールデレガンスで優勝している。今は亡き父も、マークが注ぐ愛情に満足していることだろう。
「父は、創業者のランボルギーニ氏の考えに好感を抱いていました。トラクターを作ることで、農業に関わっていたからです。レース主軸のフェラーリとは違う、ユーザーが不便を感じない最高のスポーツ・ロードカーを作ろうという考えも」
クラシックカー・オーナーは、様々なこだわりを持っていることが多い。だがマークは、これまでに出会った人々とは違う。他人が自らの愛車を運転する様子を、これほどうれしそうな表情で眺める人は決して多くない。
過小評価されてきた美しいスタイリング
イエローが眩しいイスレロ Sへ近づく。リアバンパーが意外なほど高い位置に据えられている。極めて特徴的だが、同時期のエキゾチックと比べれば穏やかな雰囲気がある。ボディカラーの影響もあって、主張も小さくないけれど。
このスタイリングは、過小評価されてきたように思う。リトラクタブル・ヘッドライトや、BMWのようにキックラインが付いたCピラー、短く四角いテールエンドなどの要素が、ロングノーズ・ショートテールのプロポーションを美しくまとめている。
丁寧に観察していくと、ディティールも上品で繊細。側面には前後に伸びる穏やかな折り目が与えられ、シャープな印象を強めている。フロントフェンダーの頂部が立ち上がり、C2コルベットのような印象もなくはない。
イスレロより10年ほど前の、ジェット戦闘機に影響を受けたジェットエイジ・デザインの趣きが残る。裏面がレザー仕上げのボンネットを開くと、極めて美しく左右対称にデザインされたV型12気筒エンジンが姿を見せた。
クッションの効いた運転席へ腰を下ろすと、大きなグラスエリアとスリムなピラー越しに素晴らしい視界が広がる。吊り下げ式の3枚のペダルは、間隔が完璧だ。
インテリアのデザインは、トラディショナルとモダンが融合している。ダッシュボードには、フェイクウッドのパネルがあしらわれ、フィアット由来のロッカースイッチが並ぶ。
魅力度でいえば、先代の400GTの方が高いかもしれない。だが、端正なスタイリングには似合っているように感じる。
低速域でも驚くほど運転しやすい
ドライバーの正面、3スポークのウッドリム・ステアリングホイールの奥には、2枚の大きなイエーガー社製メーターが配されている。時速190マイル(305km/h)まで刻まれたスピードと、1万rpmのタコメーターの間に油圧計が挟まる。
車両中央側には、補機メーターがズラリ。助手席側は、当時250ポンドのオプションだったエアコンが専有している。ラジオは、現代的なソニー製へ交換されていた。
アクセルペダルを3回傾け、ポンピングしてからキーをひねる。数秒という長めのクランキングを経て、V型12気筒が目を覚ます。タコメーターの針は1200rpmを指しているが、実際より少し高めのように思える。
右端へ力を込めると、6基並んだサイドドラフト・ウェーバー・キャブレターの吸気音とともに、神々しいエンジンサウンドが響く。4本出しのエグゾーストから、重層的な燃焼音が放たれる。
クラッチペダルのストロークは長め。幅の広いトランスミッション・トンネルから伸びるレバーは握りやすい。発進させると、イスレロ Sは低速域でも運転しやすいことに驚かされる。ステアリングホイールも、想像ほど重くない。
ロックトゥロックは4.5回転とレシオはスローだが、反応はそこまででもない。小回りも意外に利く。思い切り切り込むと、カンパニョーロ社のマグネシウム・ホイールが深く角度を付け、キラキラと煌めくセンタースピナーを運転席から眺められる。
クラシックの魅力の中心をなすV12
5速MTのシフトゲートは横方向に広く、右ハンドル車では1速と2速がドライバーから遠い。減速時は、間違って隣のゲートにレバーを導きそうになる。うっかり間違っても、いっとき息苦しそうになるものの、太いトルクですぐに挽回できる。
シフトレバーはストロークが短く、変速感はアクセルペダルの踏みごたえとのバランスが素晴らしい。慣れれば、高い回転数を保ってイスレロ Sを操れるようになる。
乗り心地は少々硬めだが、肉厚なシートが巧みに細かな揺れを吸収。コーナーではフラットにボディが保たれる。公道の速度域では、アンダーステアはほとんど感取されない。
ただし、イスレロ Sはカーブの続く山道を飛ばすタイプではない。パワーウインドウを開いて、1000rpm当たり34km/hというギア比のトップに入れて、午後の会議へ急ぐためのランボルギーニだ。
今回はそんな退屈な用事はないから、4.0L V12エンジンが生み出すパワーとサウンドを繰り返し味わえる。シンプルだけれど、この上ない喜びに浸れる。
過去に試乗したランボルギーニと同じくらい、エンジンは調子が良い。このクラシックの魅力の中心をなしている。数分も経てば現代モデルと同様に親しくなれ、右足の力加減で洗練された興奮を味わえる。
イスレロ Sの仕上がりは素晴らしい。先代の400GTや後代のハラマと比較しても、グランドツアラーとしてドライビング体験は優秀。ステアリングホイールを1時間も握れば、家族の一員として迎え入れたくなる気持ちが理解できる。
友人も幸せを感じるであろう笑顔
試乗が終わりに近づくにつれ、筆者は悲しい気持ちになってしまったが、オーナーのビルはもっと辛い心境だろう。彼は数年前にパーキンソン病と診断され、運転免許を放棄せざるを得なかった。
その後は友人へ運転を頼み、イスレロ Sと一緒の時間を叶えてきた。アクセルペダルを踏むたびに溢れる彼の笑顔に、友人も幸せを感じているのではないかと思う。
「辛い現実ではありますが、友人と過ごす時間は素晴らしいものでもあります。惜しまれるのは、次の世代へ引き継ぐことができなかったことですね」。とビルが言葉を選ぶ。
「信頼性はわたしが一番良く知っています。たとえクルマに興味があっても、経済的な負担まで息子に託すわけにはいきませんから」。恐らく遠くないうちに、このイスレロ Sは売却されるのだろう。
だが今は、息子と一緒に巡る夏の自動車旅行を計画している。もちろん、このイスレロ Sで。ビルの笑顔が絶えることは、もうしばらくはなさそうだ。 James Elliott(ジェームズ・エリオット)
※この記事のオリジナルは、2017年5月に執筆されたものです。
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