ラリーのステージに設定された山や里の景色が、赤や黄色の葉で美しく彩られた11月下旬、同21日(木)から24日(日)にかけてWRC世界ラリー選手権第13戦『フォーラムエイト・ラリージャパン2024』が開催された。愛知県と岐阜県で行われたラリーは今年、開催3年目にして初めてトップカテゴリーのチャンピオン決定の舞台となったが、アメリカのラリーメディア『DirtFish』でメディア部門責任者を務めるベテラン記者、デイビッド・エバンスの目にはどのように映ったのだろうか。
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無冠の帝王が汚名返上。苦節13年で初王者のヌービル「本当に長かった。大変な努力へのご褒美だ」
新城の北の丘陵地帯で、その老婦人は毛布を足に巻きつけ、早朝の日差しに顔を向けた。彼女は本を手に取りページをめくった。
本に落とされていた彼女の目線がページを離れる。彼女の耳はラリー1カーの特徴的なサウンドで満たされていた。つい先ほどまで手の中にあった本は一瞬にして落とされ、「フォーラムエイト・ラリージャパン」の手旗が掲げられた。揺れるフラッグ。それを持つ女性は、今まで見たこともないほどの満面の笑みで手を振った。
セバスチャン・オジエはトヨタGRヤリス・ラリー1のスピードを落とし、お返しに手を振った。この瞬間、彼女の日曜日は作られた。
私はこれまで、幸運にも世界中のラリーを取材してきたが、2024年のWRC世界ラリー選手権のシーズンフィナーレのように、ファンやファミリーを巻き込んだイベントは見たことがない。驚異的だった。木曜日の朝11時、豊田スタジアムのゲートが開くと、すでに数時間も前から並んでいた観客とファンが押し寄せたのだ。
彼らは日差しを浴びながら、ここ数年でもっとも面白く魅力的な世界選手権の一戦を、敬意と感謝の気持ちを胸に観戦した。
たしかに、トヨタがマニュファクチャラー選手権4連覇を目指していたため、勝田貴元(トヨタGRヤリス・ラリー1)は地元のファンの前で思いきりプッシュすることができなかったが、それでも地元住民や豊田市にやってきた人々が応援できるものは充分にあった。
■シーズン最終戦最終日の最終ステージで決着
日曜日の午後、トヨタはシーズンの最終ラウンドで15ポイントのビハインドを覆し、またも自動車メーカーの争いに勝利してみせたため、ひときわ大きな歓声があがった。1月にモンテカルロで開幕した2024年のWRC、その最終日は間違いなく、52年のシリーズの歴史の中でもっとも特別な日のひとつとなった。それは正気の沙汰ではなかったと言っていいだろう。
ラリーリーダーのオット・タナクが、デイ4のオープニングステージとなったSS17『額田1』でヒョンデi20 Nラリー1を激しくクラッシュさせたとき、世界は文字どおりひっくり返った。次のステージに向けてタイヤ交換をしていたティエリー・ヌービル(ヒョンデi20 Nラリー1)の電話が鳴る。彼のエンジニアからの電話だった。彼はチームメイトがクラッシュし、ラリーからリタイアすることが決まった瞬間、悲願のワールドチャンピオンとなったのだ。
それ以降、電卓が取り出され「今どうなっている?」「次はどうなる?」と激しい計算の一日が始まった。クライマックスは――? 驚くべきことに、マニュラクチャラーズタイトルを争うヒョンデとトヨタが暫定ポイント553点で並んだ状態で最終パワーステージに入ることとなった。
もし、ハリウッドがこの脚本を書いていたとしたら、ティンセルタウンでは笑い飛ばされていただろう。ありえないことだからだ。しかし、それは実際に起こった。
アンドレアス・ミケルセン(ヒョンデi20 Nラリー1)が道端の木をなぎ倒すほど攻めた走りを見せると、タイトルの行方を左右するタイムアタックは激しさを増した。新チャンピオンとなったヌービルは僚友ミケルセンを上回る最速タイムを記録したが、すぐにオジエがそれを打ち破った。この結果、もうひとつのチャンピオンシップはトヨタが手にすることとなった。
狂気の日。この秋の日曜日はとても狂った一日だった。
そして、日本は素晴らしかった。この国はまたしても素晴らしいラリーを見せてくれた。
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