創設4年目にて“最終年”になることが決まり、すでに終盤3戦を無期限で延期しているワンメイク電動オフロード選手権『Extreme E(エクストリームE)』だが、シリーズに長らくレギュラー参戦するケイティ・マニングス(アンドレッティ・アルタウィキラット・エクストリームE)と、その僚友を務めるティミー・ハンセン、さらにその実弟であるケビン・ハンセン(エーオン・ネクスト・ヴェローチェ・レーシング)の兄弟が、世界初の“水素燃料電池スタックを搭載したレーシングシリーズ”として生まれ変わる『Extreme H(エクストリームH)』用車両の初テストを担当した。
南フランスのフォンジョンクーズで10月下旬に実施された今回のテストは、イギリスはロンドンで世界初公開となった新たな“ハイドロジェン・オフローダー”こと『Pioneer 25(パイオニア25)』にとっても数カ月ぶりの本格的な走行セッションとなり、競技デビューに向け準備を進める過程で、ハンセン兄弟やマニングスらがワンメイクバッテリーEVの『ODYSSEY 21(オデッセイ21)』で蓄積してきたノウハウより、貴重なフィードバックの機会を得ることとなった。
電動最終年で苦渋の決断。残る3戦を延期し「代替案を検討」来季の水素にリソース集中か/エクストリームE
先代モデルに引き続きスパーク・レーシング・テクノロジーによって設計および製造された車体に、公式燃料電池プロバイダーであるシンビオ社製の水素燃料電池技術を搭載するパイオニア25は、従来のリチウムイオンバッテリーに代わり、出力75kWの水素燃料電池スタックを主なエネルギー源とし、複合エネルギー吸収衝撃構造を備えたチューブラースペースフレームにFOX製ダンパーを備えた前後ダブルウィッシュボーンのサスペンションを持ち、従来モデルに対しジオメトリーの改善を施すと同時にセンターシートレイアウトを採用。
さらに前後各200kWのモーターは450~850Vの電圧でシステム最高出力400kw(550hp)を誇り、325kW、850V、36kWhのバッテリーを用いて重量2200kg、幅2.4mのレースカーを0~100km/h加速わずか4.5秒で走らせることが可能となる。
「このクルマのことを初めて聞いたときから、ステアリングを握る日を待ち望んでいたけれど、期待を裏切らない結果だった。クルマのハンドリングとパフォーマンスは抜群で、すでにオデッセイ21から大きく改善されている」と、最初のテストセッションを振り返ったマニングス。
「モータースポーツの様相を変える可能性のあるものを、先駆的に採用して開発していることを知るのもワクワクする。水素燃料電池を使用する世界初のチャンピオンシップを開催するのは本当にクールね。このクルマは非常に安定していて“飛行姿勢”も抜群に優れている。テストするのはとても楽しかったわ!」
■「各車輪の位置を完全に制御しているような感覚」とティミー・ハンセン
初テストの段階から、新しいセンターレイアウトのドライバーズシート位置と、より低く中央へと改良されたバッテリー搭載位置も併せて、コーナーや不均一な路面でハンドリングや走破性が著しく改善されていることを示していたパイオニア25だが、僚友の元WorldRX世界ラリークロス王者もマニングスの意見に同調する。
「先代のオデッセイ21から学んだすべての知識がパイオニア25の設計、製造に活かされている。全体的に見て、このクルマははるかに優れた設計になっていることがわかるね」と続けたティミー。
「それと、各トラックのセットアップを最適化するために、チームが使用できるツールがさらに多く用意されているのも非常に興味深いし、クルマは非常に安定している。そのため、今ではクルマの真ん中に座って、各車輪の位置を完全に制御しているような感覚になる。すべてのレースカーは、このように製造されるべきだと思うね」
そして今季はモリー・テイラーとともにタイトル戦線に加わっていた弟のケビンも「モータースポーツの未来に関し、新たな領域を試すことができてとても興味深い」と、そのファーストインプレッションを語った。
「今回がパイオニア25に乗る初めての機会だが、たった5年前に僕と兄がオデッセイ21をテストしていたのに、その5年後にこのシリーズのまったく新しい未来がやってきたなんて信じられない気持ちだ」と、シリーズ創設前に完全バッテリー式オフローダーの初期開発テストも担当していたケビン。
「彼らはエクストリームEカーから多くのことを学んでいる。シャシーが改良され、ハンドリングも向上し、重心も低くなっているのは明らかだからね」
フランスでのテストの成功は、2025年のエクストリームH公式ラウンチに繋がる多くの前向きなステップの最新の話題となり、過去12カ月の開発期間中、すでにパイオニア25は過去3シーズンのエクストリームEに匹敵するテストマイルを走破し、先月にはFIA国際自動車連盟のクラッシュテストに合格した“最初の水素レーシングカー”となっている。
「このテストセッションは、我々のパイオニア25の開発と新生エクストリームHのチャンピオンシップ全体にとって、もうひとつの重要なマイルストーンだ」と続けたのは、シリーズのテクニカルディレクターを務めるマーク・グレイン。
「ケイティ、ケビン、ティミー、そしてニクラス(・グロンホルム)などのトップレベルのドライバーからのフィードバックは、クルマのパフォーマンスと信頼性を微調整する上で非常に貴重なんだ」
「彼らの洞察力は、このクルマが速くて競争力があるだけでなく、モータースポーツにおける水素技術の潜在能力をフルに発揮できる状態であることを保証するのに役立つだろうね」
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