創設3年目を迎えたワンメイク電動オフロード選手権『エクストリームE』の第1戦“デザートXPrix”が、3月10~12日にサウジアラビアの戦略的スマートシティ“NEOM(ネオム)”で開幕。週末ダブルヘッダー化を含む新たなフォーマット採用や、新規チーム参戦などフレッシュな装いとなったシリーズ初日は、ペナルティに沈んだ初代王者ロズベルグXレーシング(RXR)を降し、モリー・テイラーとケビン・ハンセンのヴェローチェ・レーシングが初優勝を達成。続く2日目も、怪我で療養中の“帝王”カルロス・サインツの代役を務めたマティアス・エクストロームと、ライア・サンズのアクシオナ・サインツXEチームが勝利し、ともにシリーズ初制覇を成し遂げた。
車重約1.7tに迫ろうかという鋼管パイプフレームのワンメイクシャシーに、出力400kW(約540PS)のモーターを搭載した専用オフロードEV『オデッセイ21』で争われる同シリーズは、世界の気候変動や環境保全に対する啓蒙、そして男女の機会平等を理念に掲げる新基軸のモータースポーツとして産声を挙げた。
ヘイキ・コバライネン、ジェンソン・バトン率いるJBXEからエクストリームE電撃参戦。X44のローブは勇退
この2年は新型コロナウイルス(COVID-19)に翻弄されつつも、砂漠、氷河、熱帯雨林地帯などでイベントを開催。現地では各参戦チームやドライバーが“レガシィ・プログラム”と呼ばれる地域の課題解決策に取り組むなど、異色の電動カテゴリーとして認知されている。
FIAのインターナショナル戦にも指定された選手権の3年目は、その競技規則にも変更が施され、勝負は土日にまたがるダブルヘッダー戦に。それぞれプラクティスを経て参戦10チームがQ1、Q2で各2ヒートを実施し、獲得ポイント上位5台がグランドファイナルへ、下位5台は総合順位を決める“レデンプション・レース"に回るフォーマットに変更された。
■土曜トップチェッカーのRXRにペナルティ。ヴェローチェが初優勝
そんな初の試みとなった土曜予選は、上位3チームがいきなり獲得ポイントで並ぶ白熱の展開となり、最終的にはコース上に設定された“コンチネンタル・トラクション・チャレンジ”と呼ばれる区間最速タイムを記録した順で決まることに。
結果、アクシオナ・サインツXEを最上位に、練習走行で最速だったヴェローチェ、昨季王者のX44ビーダ・カーボン・レーシング、北米の雄No.99 GMCハマーEVチップ・ガナッシ・レーシング、そしてQ1の4位から挽回で滑り込んだRXRがファイナル進出となった。
男女ドライバーがスイッチゾーンで交代を義務付けられる決勝では、まず好発進を決めたアクシオナ・サインツXEのエクストロームに対し、直後のコーナーでインサイドを守ったRXRのヨハン・クリストファーソンが先行。さらにその背後から、アウトサイドで車速を乗せたヴェローチェ・レーシングのハンセンが2番手に浮上するなど、WorldRX世界ラリー選手権経験者たちがスタートから激しい攻防を繰り広げる。
一方、4番手で上位3台を追ったX44のフレイザー・マッコーネルは、技術的問題からコース上でマシンストップ。今季セバスチャン・ローブに代わって起用されたデビュー戦で、無念のリタイアを喫することに。
団子状態でスイッチゾーンに飛び込んだ上位3台は、RXRのミカエラ-アーリン・コチュリンスキーが首位を維持し、ヴェローチェのテイラー、アクシオナ・サインツXEのサンズの順でチェッカー。しかしRXRの車両は「黄旗区間での速度超過」を取られ、最終的に136秒のタイムペナルティにより3位に後退。初年度はそのRXRでチャンピオンを獲得しているテイラーが、ヴェローチェ・レーシングにシリーズ初優勝をもたらした。
「チームの全員が最初から物事にクリックし、開発し、改善していると思う。(昨季最終戦の)ウルグアイから非常に良いレベルでスタートすることができた。今回もすべての側面から最高のものを引き出すことに非常に長けていたわ」と、わずかな参戦休止期間を経て移籍後初勝利の喜びを語ったテイラー。
その僚友を務めるハンセンも「いい感じだね! サウジアラビアに戻ってきて、この新しいチーム、モリー、そして僕のキャリアを変えるようなアクシデントに見舞われた国で、シリーズ初勝利を収めるのは素晴らしいこと」だと、昨季開幕は大クラッシュによる救急搬送で戦線離脱を余儀なくされていたハンセン。
■日曜ファイナルはアクシオナ・サインツXEがシリーズ初制覇
明けた日曜も予選から上位3チームの顔触れは変わらず。ここで“リベンジ”を期したのはエクストロームで、順当にグランドファイナルに駒を進めると、今度はスタートでケビンとヨハンの両ライバルを出し抜くことに成功。その後方ではケビンがピットレーン・リミッターの誤作動でポジションを失うなど、目まぐるしく順位が入れ替わる。
スイッチゾーンを経ても快適なリードを維持したスペイン出身のサンズは、ヴェローチェとRXRを寄せ付けず。現場に駆けつけたチームオーナー、サインツのサポートも得て待望のシリーズ初勝利を手にした。
「自分自身にとっても、チームにとっても本当に幸せ! アドバンテージを持ってマシンを与えてくれたマティアスに感謝したい。この勝利は、とくにカルロス・サインツのために。私たちが行ってきたすべての仕事に本当に値する。彼の信頼に応えようと、モチベーションとさらに向上する意欲を持って取り組んできた成果よ」と、完勝の喜びを語ったサンズ。
一方のエクストロームも、チームとの初戦で大仕事を成し遂げたことに「戦略を練り、できる限りのことを実行した。それが実ったことをうれしく思う」と安堵の表情を見せた。
「集団内で別のクルマの後ろにいて、すべてのダストに対処しなければならないよりも、前でレースをしてハッキリと前方が見通せる方が簡単さ。本当に隅々まで楽しめたよ。カルロスとは過去2年間ダカールラリーのチームメイトだったが、チームに加入して以来、彼は本当に気にかけてくれたんだ。彼は僕に父親として多くのことを教えてくれたし、偉大な人物にこの勝利を彼に捧げることができて本当にうれしく思うよ」
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