雹が降ってきて凹みが……思い当たる節はないんだけどドアやフェンダーに凹みやエクボができている……。でも業者に出すほどでもないし、かといって量販店に売っているリペアキットでやるのも面倒くさいし。
そこで一念発起! 市販のリペアキットを買って、筆者の愛車の凹みを自分で直せるのかやってみた。これで、下取り額もアップ!?
素人でもボディの凹みやエクボは直せるのか? デントツールでDIYリペアに挑戦!
文/高根英幸
写真/高根英幸、Adobe Stock(トップ画像=pathdoc@Adobe Stock)
■クルマにできた小さな凹み……どうする?
クルマの凹みをキレイに修理できるのはもちろん板金塗装のプロ。ただしプロの技術なだけに費用もそれなりにかかる。古いクルマにそれほどお金をかけたくないという場合にはDIYもいいだろう(goodluz@Adobe Stock)
知らない間にクルマに小さな凹みができていた……なんていうことはないだろうか。スーパーの駐車場でのドアパンチ、自転車が倒れてのヒットなど、クルマのボディは常に外敵からの攻撃を受けやすいからだ。
こうしたクルマの傷は、洗車機任せというよりは、自分の手で洗車したり、拭き上げの時に、気付くことが多いものだ。
以前ならDIYメンテでこうした凹みを直そうと思ったら、サンドペーパーで塗装を剥がし(パテや塗装の密着性を高めるため)、パテを盛ってボディと均一になるまで研ぎ、下地塗装を塗ってまた研ぎ、ボディカラーと同じ色の缶スプレーで色を塗って、クリア塗装で仕上げる、とまぁ板金職人とほぼ同じ手法で修復するしかなかった。
しかも板金塗装職人のようにキレイに直せることはまずない。塗装だって、紫外線による色褪せや塗料メーカーの生産ロットによる違いもあり、ボディと色合わせしていない純正指定の缶スプレーでは微妙に違いがあり、缶スプレーは圧力も低いので塗料の粘度が低く垂れやすいなど、むしろキレイに仕上げるのは難しいのだ。
板金塗装のプロに修理を依頼すればキレイに直してくれることは分かっている。しかし先立つモノがなかったり、すでに老朽化したクルマにお金を掛けたくないという気持ちがそれを思い止まらせるのだろう。
そんななか、ボディの凹み修復で存在感を増している職人技がある。デントリペアだ。デントとは凹みのこと。その名の通り、ボディの凹みを板金塗装ではなく、ボディの裏側から押し出して直してしまおうというもの。
塗装をするとなると色合わせやスプレーの吹き方など素人にはハードルの高いスキルが必要だ。その点、デントリペアは塗装をすることはなく、凹みだけを修復するから、件のようなボディとの色ムラや塗膜の肌の違いなどを気にする必要はない。
ネットで検索するとデントリペアのためのツールも豊富に販売されているから、それらを利用すれば凹みをある程度修復できるのではないだろうか。
そう思わせるほどデントリペアの職人たちは、ボディの凹みを簡単に押し出して元通りにしてみせてくれるのだ。もちろんプロの職人と同じ仕上がりを期待する訳ではないが、塗装しないで凹みが修復できるなら、こんな便利なモノはない。
という訳で、DIYメンテの延長としてデントリペアに挑戦してみることにしたのである。
■デントツールを購入して試してみた!
挑戦するにあたって、マイルールを設定することにした。次にいつ使うか分からない工具がわんさかある当家では、これ以上仲間を増やさないためには、ただ購入すればいいというものでもない。
工具を数万円購入するなら、デントリペアのプロに頼んだほうが確実にキレイに修復できるので意味がない。そこで予算は5000円までと決め、デントリペアに使えそうな工具をAmazonで探してみた。
購入したのはボディパネルの内側から凹みを押し出すためのデントリペアロッドと、ボディ表面に貼り付けて引っ張ることで凹みを引っ張り出すバキュームリフターという道具。
バキュームリフターという商品名だが、バキュームは真空状態で負圧を利用するものだから本来の意味からすると誤りだが、表面を引っ張って凹みを直すという意味で名付けたのだろう。グルーガンを使ってグルーでタブをボディに貼り付け、ブリッジ型のツールでタブを引っ張るものだ。
バキュームリフターという商品名のデントリペアツール。キットの内容はグルー2種類と大きさや形状がいくつも用意されたタブ、ブリッジ型のツール、剥がす際に必要なアルコール用のスプレー、ヘラ、クロスといったところ。AMAZONで1139円
さて、デントリペアロッドは届いた3本のロッドのうち、2本は短めながらしっかりしているが、一番長いロッドは細くて手で簡単に曲がってしまいそうなほど弱い。たくさんロッドが入っているデントリペアツールキットを見ても、この細いロッドは含まれているのだが、何に使うモノなのか見当がつかない。
デントリペアロッドのキットは、形状や太さが異なるロッドが3本と、ロッドを差し込む隙間を作るエアウエッジ、楔形のリペアウェッジ。価格はAMAZONで3599円
説明書も何も付いていなかったので、使い方も通販のページを見たりして調べた。なんとなく分かったので、とりあえず試してみよう。
筆者のクルマは長年の使用で3箇所に凹みがある。1つは最近、狭い場所で縦列駐車をしようとした時に擦ってできた縦にできた凹み。2つ目は助手席ドアの下側にある謎の凹み。3つ目は右フロントフェンダーにある大きめの歪みのような凹み。これはよく見ると板金修理した跡にも見えるのだが、前オーナーが施したものなので真相は分からない。
フロントフェンダーにある広く浅い歪み。シャッターの下端の写り込みが歪んでいる
リアクォーターにある縦に入った凹み。縦列駐車で何かに接触した跡らしい
助手席ドア下にある凹み。前オーナー時代のものなので、原因は不明
この3つの凹みにデントリペアロッドとバキュームリフターを使って、修復を試みた。まずロッドの方は短い2本しか使えないため、ドア下の凹みには届かない。ドア内張を一部取り外してアプローチしてみたが、短くてドア内部にロッドのハンドル部まで入ってしまう。
ドア内張の一部を取り外してみたが、ロッドが短く全体がドア内部に入り込んでしまう。もっと長いロッドがないとこの方法での修復は難しそうだ
リアクォーターに入った縦に入った凹みは、フェンダーアーチからアプローチできそうなのでトライする。樹脂製のインナーフェンダーをエアウェッジと呼ばれるポンプ付きのバッグで浮かせて、ロッドが入るスペースを確保する。
しかし凹みに先端が届いてはいるのだが、上手く凹みを押し上げる様に力が入らない。タイヤの上に太い枝をかませて、そこを支点にしても難しい。ロッド先端の角度や形状の問題なのか。
インナーフェンダーをエアウエッジで浮かせてロッドを差し込み、タイヤの上に木を噛ませて支点にしたが、今ひとつ凹みを持ち上げることはできなかった
そこで室内側からアプローチも試みてみた。筆者のクルマは左リアクォーター内側にジャッキと車載工具が入るスペースがあり、そこからアウターパネルにアプローチできそうだからだ。
ジャッキを下ろし、そのホルダーとなる樹脂製のブラケットをズラして、なんとか凹みにロッド先端が到達。しかし、やはり上手く押し出すことができない。これはかなり練習も必要なようだ。ロッド先端の動きや感触が手で分かる様にならなければ、凹みを押し出すのは難しい。
リアクォーターパネルの内側からロッドを差し込む。凹み付近に到達しているが、支点となる位置が悪いのか、ロッドの向きが悪いのか、凹みを押し出すまでには至らない
その後、ドアポケットの取り付け穴を利用すれば短いロッドでも凹みにアプローチできることを発見し、挑戦。すると何度もテコのように押し当てることで、凹みをだいぶ小さくすることに成功した。最終的には平坦になるまで直したかったのだが、ロッドが短いせいか凹みの中心を押し出すことはできなかった。
ドアポケットを取り外して、取り付け穴からデントリペアロッドを差し込んで凹みにアプローチすることに成功。何度も押し出すように力を入れたことで、ここまで凹みは小さくなった
プロは100本近くのロッドから、最適な形状や長さの1本を選び出して使用するようなので、少なくとも20本くらいのセットを購入しないと実際には使えないシーンが多そうだ。
動画投稿サイトでプロのデントリペア職人が、こうした激安ツールを使ってリペアしていく様子を紹介しているのをみたが、それはそれは鮮やかに凹みを消していった。「弘法筆を選ばず」という諺があるように、職人の腕が重要なのであって、道具の質はそれほど影響を与えないようだ(もちろんプロ用のツールのほうが使いやすいだろうし長持ちするのだろう)。
一方、バキュームリフターのほうは、引っ張っている時には凹みを持ち上げるものの、強めると剥がれてしまい、凹みを直すには至らない。2種類のグルーを使い、何度もやってみたが凹みが治る気配はなかった。最終的にタッチアップした塗料が剥がれたので、今回は諦めた。
タブを凹みの大きさに合わせて選び、先端にグルーをたっぷりと盛る。すぐに凹み部分にタブを押し付け、冷えるまで放置。ブリッジ型のツールを取り付け、ねじ込んで引っ張る。グルーが剥がれたら、この作業を繰り返す
軽自動車のようにボディ鋼板が薄いモノなら、これでも修復できるのかもしれない。ネジ式よりも一気に力が入るスライドハンマー式や手で握るレバー式のほうが直しやすい(その分、引っ張りすぎてしまう恐れもあるが)のかもしれない。
■凹みや傷は直したほうが下取りで有利なのか?
こうしたボディの凹みが下取り価格におよぼす影響は少なくない。キズや凹みは査定で減点となり、その損傷具合と数で確実に査定額が下がってしまう。
また短時間で格安な板金修理をしてくれる業者は仕上がりもそれなりで、長い目で見ると経年劣化で修復跡が目立ってしまうケースもある。正直言ってプロの査定士の目を欺くのは難しい。微妙な塗装肌の違いや僅かな歪みも見逃さないから、板金塗装で修理するならキチンとしたところで直してもらうことだ。
塗装面にダメージのない凹みであればデントリペアを利用すればダメージは残らない、これは手放す際にも大きな魅力だ。
ただし、手間やコストをかけて板金塗装の修理に出しても、修理代金分だけ査定額がアップすることはない。小さな凹みや少々のキズであれば、そのまま下取りや買取りに出したほうが金額面だけを考えれば得なので、いつまで乗るかを考えて判断するようにしたい。
今回、初チャレンジしてわかったこと。DIYでのデントリペアは、やはりいきなりではなく、十分に練習することが大事で、プロのような仕上がりを得られるまでには、相当な時間がかかると思う。筆者は、機会があればデントリペアロッドを買い足して、またチャレンジしてみたいと思う。
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良い時代になったもんです。