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エンデューロライダーとして生きる、ということ。オフロードバイクに捧げた保坂修一の青春

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エンデューロライダーとして生きる、ということ。オフロードバイクに捧げた保坂修一の青春

Off1.jpでもすでに何度も記事化しているが、保坂修一(ホサカ ヨシカズ)を改めてしっかり紹介しておきたい。すでにエンデューロファンには若手のトップライダーの代表としてその名が広く知られているが、その秘めた可能性はまだまだこんなものじゃないはずだ。

最年少記録を塗り替え、目指すはヨーロッパ
「今は、とにかく上しか見ていません」

ヨシカズは現在19歳。エンデューロに専念するために高専を中退してから、通信制の高校を卒業。現在は大阪で一人暮らしをしながら、ビバーク大阪のスタッフとして働き、レース活動をしている。

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これは僕が常々思っていることなのだが、学生を終えて、一般的な社会人になってからライダーとして飛躍的に成長するのは、かなり難しいことだと思っている。責任の大きさに比例して、怪我をした時のリスクは大きくなるし、練習時間も制限されるからだ。だから、ヨシカズが日本国内で一番になりたいだけだったら、実家に残って家族に養ってもらいながら練習した方が良かったはずだ。

ではなぜ、家を出たのか。
世界を目指しているからに他ならない。

「去年、ガミー(大神智樹)にイタリアGPに連れていってもらって、それまで漠然と国内で一番を目指していた意識が、完全に世界を向きました。同世代だけじゃなく、トップライダーの走りが日本とまるで違っていて、今の自分に足りないものが少しだけ見えてきました。

それはライディングのスキルだけじゃありません。まず実家を出て、家族に頼らずに自分の力でレース活動ができる環境を手に入れないといけないと思いました。それができないと一人で海外に行っても、何もできないと思います。

環境を整えることができれば、あとは練習して、レースで勝つだけです。今は、とにかく上しか見ていません。今年の目標はJNCC総合優勝と、JECチャンピオン。もちろん、ライバルはみんな速いし尊敬しています。簡単に達成できる目標じゃ、意味ないですしね。そしてそれが達成できたら、次はいよいよEnduro GPです。

30歳までに世界で戦える感触が掴めなかったら、一つ区切りをつけると思います。今のEnduro GPのトップライダーを見ていると、ピークの年齢がだいたい27~30くらい。だから、そこでダメなら趣味に切り替えるつもりです。

でも日本のエンデューロで活躍して海外に出ていって、そこでも活躍してファクトリーチームに入って、それで食べていくことができたら……。ロードレースやモトクロスだけでなく、エンデューロにもそういう道があるんだ、ということを僕より下の世代に見せてあげられたらいいな、と思っています」

「不安がないとは言い切れませんが、
彼の人生を応援しているし、期待もしています」

今の日本に、プロのエンデューロライダーはいない。モトクロスやトライアルでも、レースだけで食べていくのは難しい世の中だ。では、ヨシカズのような若いライダーが、人生にとって一番大切な10代後半~20代前半という時期をエンデューロだけに費やすことを、父・一洋さんはどう思っているのだろうか。

「最初は、中学で部活に入ったら(バイクは)辞めるかなって思ってたんですけど、続きましたね~(笑)。多分JNCCに出会わず、モトクロスだけだったら、中学で辞めてたんじゃないかな。

僕の仕事が牛の削蹄師なんですけど、ヨシカズには中学に入った頃からずっと手伝いをさせていて、高校を卒業する前に削蹄師の免許を取らせました。これははっきり言ってしまえば「逃げ道」です。エンデューロでダメなら、いつでも削蹄師になれる。それで食っていける。もうスキルはあるから、30歳になってからでも大丈夫です。

だから、ヨシカズが高専を中退した時も、普通の就職をしないでエンデューロに集中することを決めた時も反対しませんでした。親として不安がないとは言い切れませんが、彼の人生を応援しているし、期待もしています。

最悪、お金がなくてひとりぼっちになろうが、海外でのたれ死のうが、人様に迷惑さえかけなければ、構わないと思っています。先日ビバーク大阪さんにご挨拶に寄った時に杉村さんが「(ヨシカズは)使えるよ」と言ってくれて、安心できました。

バイクでダメだったらいつでもウチに戻ってくればいい。削蹄師として立派にやっていける。だから自分が納得するまで、エンデューロをやってみればいいと思っています」

父の仕事の手伝いで牛を扱うヨシカズ。そのパワーは、大人顔負けだという。バイクの基礎体力作りにも役立っていることだろう。

保坂修一は、とても貴重な10~20代という時間を、エンデューロに賭けると決めたのだ。逃げ道があることは決して悪いことではないと思う。自分の人生は、誰も肩代わりをしてくれない。だからこそ、思い切りやりきってほしい。僕はこの5年間、ヨシカズを追い続けてきた一人の記者としてではなく、一人の友人として、彼のエンデューロ人生を心の底から応援している。

次のページからはヨシカズが辿ってきた15年を振り返ってみたい。貴重なキッズ時代のお写真は一洋さんからご提供いただいた。

はじまりは、草レース。そしてキッズスーパークロス、全日本へ
ヨシカズがバイクに乗り始めたのは5歳の時。初めてのバイクはPW50。本人が「乗ってみたい」と言ったことがキッカケだった。コースやイベントで乗ってるうちに子供達だけのレースがあることを知り、ヒーローズやキッズスーパークロスに出場するようになっていったという。

初レースは2006年、狸穴の草レース。「まっすぐ竹やぶに突っ込んで行ったんですよ」と父・一洋さんは笑いながら話す。

この時に与えられたゼッケン35はとても大切な思い出の数字。エンデューロIAに昇格した年、偶然与えられた35番のゼッケンに、運命を感じたという。

一洋さんは当時、XLRバハに乗っていた。ヨシカズがモトクロスを始めたので、XLRバハを売り、代わりにXR100を購入したが、結局ほとんど乗らずに手放してしまったという。

「僕がXLRバハに乗っていたのを見て、本人がバイク乗ってみたいって言うから、ウエストウッドに見に行って「どうする?」って聞くとはっきり欲しいと言わないんです。当時はあんまり自己主張の強い子じゃなかったんですよね。だから「乗る気があるなら、買ってやる。買えば乗れるんだぞ」って言ったら「じゃあ乗る」って」と一洋さん。

対してヨシカズは「自分ではもうあんまり記憶がないんですけど、確かポケバイとPW50で悩んで、PW50を選んだと思います。あの時ポケバイを選んでいたら、今の自分はないかもしれませんね」

ヨシカズがキッズスーパークロスで一緒に走っていたメンバーは、鴨田翔、富岡寿弥、瀬川開生など…。東西対決のレースでは、いまAMA SXで活躍している下田丈と一緒にレースを走ったこともある。

「当時はあまりバチバチのライバルという認識はなくて、仲がいいライダーと一緒に速くなれたらいいな、と思っていました。でもレース場のピリピリした空気は好きでしたね。実は僕は65~85で伸び悩んでいた時期があって、この頃は妹の明日那(アスナ)にすごく才能があって、保坂家のバイク活動はアスナが中心になっていたんです。僕も薄々、センス的には妹の方が上だなっていうのは気づいていました。ちょうどそんな時に、JNCCに出会ったんです」とヨシカズ。

ヨシカズには2人の妹がいて、長女のアスナと次女のヒカリ。二人とも兄の影響でエンデューロライダーになった。

「アスナは勝気な性格で、僕に対してもズバズバと厳しいことを言うので、レースで失敗した時なんかはけっこう怖い存在でした(笑)。ヒカリはとても可愛いです」とヨシカズ。

一洋さんに当時の話を聞くと「2014年に一回だけ全日本モトクロス選手権にも出たんですよ。そのときは手を骨折してしまっていて、痛み止めを飲んで、ダメならリタイヤするっていう条件付きで出場を許したんですけど、全然ダメでした。そのときはJNCCとモトクロスと両方出ていたんですけど、50→65→85とバイクが大きくなるにつれて費用的な負担が大きくなってきて、どっちかに絞ろうと思っていた時に本人が「長時間走るレースの方が、自分には合っている」と言ったんです」

JNCCデビューは、鈴蘭のキッズ&トライ
ヨシカズが初めてJNCCに出たのは2012年の鈴蘭。クラスはキッズ&トライ。当時、ヨシカズは小学6年生で、一緒に出場した妹のアスナは小学4年生だった。コンディションは雨上がりのマディ。

「当時キッズ&トライは今みたく短いコースじゃなくて、ゲレンデを一番上まで使ったんです。ヨシカズもアスナも、ちゃんと一番上まで登ったんですよ」と一洋さんは誇らしげに語る。

「初めての鈴蘭で、頂上から見た景色がめちゃくちゃ綺麗で、そこから本格的にクロスカントリーをやりたいって思ったんです。あと前夜祭で家族や仲間と一緒にやるバーベキューが何よりも楽しみでしたね」とはヨシカズの談。今はIAライダー、COMP-AAライダーのヨシカズだが、スタートは僕らサンデーライダーと同じ、「楽しい前夜祭と最高の景色」からなのだ。

そんなヨシカズが本格的にその頭角を現すキッカケとなったレースが、2015年のAAGP。雨の爺ヶ岳だった。マシンはYZ250FX。この時はFUN-Cクラスだったが、台数が多すぎてFUN-Cだけ別にスタートが作られた。なんとFUN-Cだけで162台。ところが、ヨシカズがスタートしてすぐの1コーナーで転倒し、それをキッカケに大渋滞が発生したのだという。

「1周目は100番手以下で返ってきたんですけど、そっから100台抜いて優勝しちゃいましたね。あいつはキッズで初めて優勝した時もすごいマディだったし、昔から雨だとリザルトがいいんですよ。上手くもないし速くもないんですけど、子供の頃から「マディの方が速いよな」って言い続けていたら、本当にマディに強くなってました」と一洋さん。

翌2016年は、飛躍の年となった。爺ヶ岳、鈴蘭、ほうのきとFUN-Bクラスで3連続優勝。さらにほうのきではFUN-BながらFUN総合でも優勝を果たし、次の栗子国際ではFUN-Aに昇格して、そこでもいきなり優勝してしまった。

そして、翌年からはいきなりCOMP-Aでのエントリーが許された。

このあたりから、僕は土曜日の前夜祭で保坂家にお邪魔するようになって(当時中学生のアスナに折り紙を教わりながら)、いろんな話を聞いているうちに、ヨシカズの将来に大きな期待を寄せるようになっていた。

その大きな期待が確信に変わったのは、2017年の夏のJNCC8耐G。宇津野泰地と組んで総合優勝を飾った時だった。そして翌2018年には渡邉誉、佐々木一晃をメンバーに加え、平均年齢18.5歳という若いチームが、日本人チーム最高成績の総合3位を獲得した。

そしてヨシカズは今年、COMP-AAクラスで走っている。彼こそが、JNCC始まって以来初めてのキッズ&トライからCOMP-AAまで駆け上がった最初の一人なのだ。

ビバーク大阪との出会い
そして独り立ち

そして2019年、ヨシカズはマシンを長年親しんだヤマハYZから、GASGASにチェンジした。キッカケはJEC全日本エンデューロ選手権の日高2デイズで好成績を残すために、ナンバーが付くレーサーを探していた時、GASGASから声がかかり、試乗して決めたという。

2020年、ヨシカズにとって大きな転機が訪れた。

「なんでイタリアに行ったか、ですか。実は将来のことで色々と悩んでいた時に、ちょっとJECで頑張る意味を見失ってしまっていた時期がありまして、ちょうどその時にガミー(大神智樹)がEnduro GPに出るって聞いたので、付いていきたいって手を挙げました。本当は走れたら最高だったのですが、僕にはそんな環境はなかったので、まず見に行きたい。世界のレベルを自分の目でしっかりと見てみたいと思ったんです」

大神智樹が「世界に通用するエンデューロライダーを育てる」を目標に活動しているGAMMy with Young Gunsで、イタリアGPを見に行ったのだ。

「スピードもテクニックも明らかに違う。自分と同年代もそうだし、日本のトップと世界のトップの差を痛感しましたね。じゃあ果たして日本でチャンピオンを獲ったとして、それでエンデューロが速いって言えるのかな、と。せっかくやるからには世界を目指したいって、気持ちがシフトしたんです。「俺はこのレース(Enduro GP)に出て、活躍するために、いま頑張ってるんだ」という考えになりました。そのためには日本では余裕を持って勝てるくらいじゃないとダメなんです」

そしてイタリアから帰ってきて3ヶ月後、ヨシカズは家を出た。

「ガミーに「まずは自立しろ」と言われました。親に頼らず、自分の力だけでレースできる環境を作れ、と。なのでお世話になっていたビバーク大阪の杉村さんにお願いして、お店のスタッフとして雇ってもらい、常にバイクに触れていられる環境に身をおきました。分解整備の免許は持っていないので、スタッフ兼テストライダーみたいな感じです」

実はヨシカズは中学を卒業した後、5年制の高専に通って整備士の勉強をしていたが、バイクに集中するため2年で中退していた。その後、通信制の高校に通い、卒業している。

「一人暮らしを始めたら、しみじみと親の大切さがわかりました。毎日、母親に感謝しながら家事をしています。19歳で仕事しながらレースしているエンデューロライダーって日本にはなかなかいないと思うので、自分より下の世代に、こんなライダーもいるんだっていう一つの事例になれたらいいな、と思っています」

ヨシカズはいま、整備力とライディングを磨くことに集中できる最高な環境にいる。練習は基本的に週2~3日のペース、ウッズ下市やプラザ阪下に通っているという。

2021年、2つの開幕戦
JNCCとJECの両立と、その目標

ヨシカズは今年、JECとJNCCどちらもフル参戦を表明している。そして新生GASGASとしてまず開幕を迎えたのはJNCCだった。

コースはプラザ阪下。優勝は馬場大貴。ヨシカズは一時的に3番手まで順位をあげるも、5位でフィニッシュ。上にも下にも、モトクロスIAがひしめく。

「ニューマシンは開幕までになんとか20時間くらいは乗ったんですけど、走り込むって言うよりかは、セッティングを出した感じです。コンスタントに細かいところを詰めながら、分析して乗ってました。9年前に初めてキッズ&トライに出た時には、まさか自分がCOMP-AAに出ることになるなんて、想像もしていませんでしたね。

本当にJNCCに育ててもらったと思っています。星野さんにも小さい頃からずっと目をかけてもらっていましたし、少しでも恩返しができれば嬉しいです。学さん、健二さん、馬場さん、小林さん。この人たちをどう超えるか。目標は今年の9月に誕生日を迎える前、10代のうちになんとか一回総合優勝して、僕より下の世代にそれを見せてあげたいです」

そして第2戦の広島。久しぶりの4stマシンEC250Fで出場し、自己最高位の総合4位に。それでも本人的には悔いの残るレースだったという。

そしてJECも開幕。まずはマディの広島だった。

キッズの頃からマディに強いヨシカズだが、IAのトップ陣に囲まれては、もはやそのアドバンテージは、無いに等しい。

「まさかリアのブレーキパッドを2回も変えるとは思いませんでした。みるみる間に削れていって、2~3周に一回交換しないとダメでしたね。フロントも最後にはなくなって、後半はブレーキパッドを温存しながら走らなければいけませんでした。絶対何かあると思って予備パーツをたくさん持って行ってよかったです」

優勝は大ベテランの鈴木健二。飯塚翼が2位でヨシカズは3位。妹のアスナも高校最後の年ということで本格的にJEC参戦しており、ウィメンズクラスで優勝。

「今でもマディは好きですよ。でも今回はとにかくツバッチ(飯塚翼)が速かった。トモ(酢崎友哉)もIBでダントツで勝ってるし、成田のライダーはマディに強いですよね。あそこは乾いてても常に滑るコースですから。やられたなぁ、という気分です。今年はなんとか頑張ってチャンピオンを獲って、前橋くんの最年少記録を塗り替えたいと思っています」

実はこの開幕戦、昨年のチャンピオン・釘村忠がマシントラブルでリタイヤしている。全7戦のうち1戦がノーポイントというのは、想像以上にデカイ。さらに鈴木健二は日高でトレールマシンでのエントリーを余儀無くされる。

ただし、今年から採用された新しいポイント制度によって、1位が25pt、2位が20pt、3位が16ptと、順位によるポイント差が拡大しているため、決して油断はできない(昨年までは1位が25pt、2位が22pt、3位が20pt)。しかしこれは、もしかするとヨシカズや飯塚のような若手にもチャンピオン獲得のチャンスが巡ってくるのでは無いか、と僕個人的には白熱するチャンピオン争いに期待してしまう。

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みんなのコメント

1件
  • 私はエンデューロに出場したことはありません。
    しかし、ロードレースよりもモトクロスよりも、
    エンデューロが人生に一番近いと思う。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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