ミニバンはツーボックスがほとんど
90年代以降、ミニバンが多様化したことでワンボックスカーの定義が曖昧になった。
テレビのニュース番組で、アナウンサーが「事故を起こしたワンボックスカーは……」などと説明しながら映像にはステップワゴンが映ったりすると、「ステップワゴンはワンボックスじゃなくツーボックスだよ!」とツッコミを入れたくなるマニア諸兄は多いことだろう。
世間一般的に多用される「ワンボックス」と違い、「ツーボックス」と「スリーボックス」という言葉は、今ではクルマ雑誌ぐらいでしか使われなくなったので、ミニバンタイプのクルマはすべてワンボックスとひとくくりにされるようになっている。
本来、クルマのスタイルを大まかに識別する「ボックス」とは、エンジンルーム、居住空間、荷室の3つの箱のことを意味し、ハイエースのように、ひとつの箱の中にエンジンルームと居住空間と荷室のすべてが収まっているクルマのことをワンボックスと呼ぶ。(レーシングカーや運送業界でいう〝ハコ〟はまた別の意味で使われる)
エンジンルームと、居住空間&荷室の2つの箱から構成されるハッチバックスタイルのクルマはツーボックス。
そしてセダンやクーペのように、エンジンルームと居住空間と荷室の3つの箱が完全に分割されたクルマはスリーボックスだ。典型的な例はタクシーとして使われるクラウンコンフォートで、真横から見ると見事な凸型をしているのでわかりやすい。
高級車=スリーボックスは昔の話
この定義からすると、フロント部分に独立したエンジンルームをもつアルファードやエルグランドなどは明確なツーボックスなのだが、デザイン的にひとつの箱に見えなくもないせいか、ワンボックスに分類されるがちだ。
この流れで、ステップワゴンやノア&ヴォクシーでさえワンボックスとされる場合も多い。だからといって困ることは何もないのだが、クルマのマニアとしては、ここはこだわって正しく識別したいところである。
筆者の感覚では、エスティマの登場がワンボックスの定義が曖昧になる潮目となったとみている。
初代エスティマはエンジンを床下に積むミッドシップレイアウトで、ジャンルとしては明らかにワンボックスなのだが、天才タマゴと呼ばれた丸いフォルムはFF化された2代目モデル以降も継承され、現行型も横から見ると大きなひとつのタマゴのように見える。
Aピラーとボンネットのラインがほぼ同じ曲線でつながっているので、フロントにエンジンを積むツーボックスでありながら、2代目モデル以降もワンボックスのイメージが定着した。
エスティマは日本のミニバンを代表するモデルなので、「ミニバン=ワンボックス」という認識が広まったのだろう。
だからといって問題は何もないワケだが、そもそもクルマのスタイルをボックスの数で識別するのは、じつは単なるマニアの自己満足だけにとどまらず、クルマの高級感を見極める意味も込められている。
クルマに高級感を求める場合、大きな熱やノイズを発生するエンジンが収まる箱と、荷物を積む倉庫のような箱は人が過ごすための部屋とは別々にあるべきなので、もっとも高級車に適しているのはスリーボックスのセダンやクーペといえる。ボディ剛性や静粛性の面でも有利となる要素が多い。
最近はセレブの間でも内装が超ゴージャスで広大な空間をもつミニバンが大人気で、格式のあるゴルフ場の駐車場でもミニバンが多数派を占めているようだが、セダンかクーペにこだわっている人は、きっと「スリーボックスこそが真の高級車だ」と意識しているのだろう。
ワンボックスといってもエンジンと乗員がダイレクトに同じ場所に居るワケではないし、ハイエースの上級グレードは下手な乗用車より高級感があるのも事実なので、クルマをボックスの数で分類するのは無意味とする意見も多い。
ミニバン以外のMRやRRレイアウトのクルマや、エンジンのない電気自動車の場合も分類が難しくなる。今後も「ワンボックス=ハコっぽいミニバン」というイメージの方が広く浸透していきそうだ。
(文:マリオ高野)
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