大きくカーブを描くスタイリング
ヒョンデのデザイナーは、かなり大胆なことがお好きなようだ。新しいアイオニック6は、大きくカーブを描くスタイリングが何より目を引く。リアはポルシェ911のように見えなくもない。
【画像】大胆フォルム ヒョンデ・アイオニック6 競合のBEVと比較 アリアとbZ4Xも 全141枚
現在のヒョンデが保守的な自動車メーカーだとしたら、アイオニック6のような見た目のクルマは登場しなかっただろう。各市場で成功を収め日本市場でも販売される、アイオニック5に似たデザインが与えられたのではないだろうか。
ハッチバックのルーフラインを引き伸ばし、アイオニック5 クーペとして売られていたかもしれない。実際、プラットフォームは共有している。
ヒョンデは従来の概念を破り、最先端のバッテリーEV(BEV)へ積極的に取り組むことで、欧州におけるブランド・ポジションを1段高めることに成功した。現在にとらわれず、新しいスタイリングを開発したとしても驚く事実ではない。
四角いヘッドライトが4灯並ぶ、パラメトリック・ピクセルと同社が呼ぶヘッドライトの雰囲気は、アイオニック5と近い。だが、それ以外のボディはまったくの別物だ。
ヒョンデのデザインチーフを務めるサイモン・ロースビー氏は、0.1xというテーマを掲げてこのスタイリングを導き出したという。可能な限り空力抵抗を小さくした、4シーターで4ドアのBEVサルーン創出を目指したという。
電費効率6.9km/kWh 航続距離614km
実際のところ、アイオニック6の空気抵抗を示すCd値は0.21。目標の0.1台には届かなかった。
ロースビーは、「0.21は失敗かもしれませんが、仕上がりは失敗ではありません」と話す。アイオニック6は、ヒョンデが開発した量産車で最も空気抵抗が小さいという。評価すべき結果といえる。ちなみにアイオニック5のCd値は、0.29ある。
その努力は航続距離として表れている。公式の電費効率は6.9km/kWhと優れ、航続距離はシングルモーターで614kmが主張される。アイオニック5と同じE-GMP プラットフォームと77.4kWhの駆動用バッテリー、モーターを積みながら100km以上も長い。
この航続距離は、ヒョンデがライバルに掲げるポールスター2の548kmや、テスラ・モデル3 ロングレンジの601kmより長い。目には見えない空気が、効率に大きな違いを生むようだ。
パワートレインには、229psの駆動用モーターをリア側に搭載した後輪駆動と、333psのツインモーターとなる四輪駆動の2種類が用意される。駆動用バッテリーは77.4kWhの他に、安価な58kWhも市場によっては選択できるという。
先出の614kmという航続距離は、仕様によっても変化する。シングルモーターなことに加えて、18インチ・アルミホイールとカメラを用いたデジタル・ドアミラーを指定する必要がある。
今回の試乗車は、20インチ・ホイールを履いたツインモーター。デジタル・ドアミラーは採用するが、電費効率は5.9km/kWhへ落ち、航続距離は518kmが主張される。
アイオニック5と共通要素の多いインテリア
試乗では、複合的な条件で6.4km/kWh前後の電費効率が得られており、実際に500km近くは走れるようだ。BEVのシステムは電圧800Vと高性能で、急速充電は最大233kWまで対応。残量10%から80%まで、最短18分で回復できる。
空気抵抗だけでなく、均質化傾向にあるBEVの中にあって、アイオニック6のスタイリングは他との差別化にも結びつけている。丸みを帯びたシルエットだけでなく、リアバンパーの垂直フィンの処理など、ディティールも印象的だと思う。
サイズ感は掴みにくい。アイオニック5と比べて全長は200mm以上長い4855mmで、全幅は1880mmと10mm狭い。全高は1495mmあり、約100mm低い。ホイールベースは僅かに短いが、車内空間は同等に広い。
内装は、アイオニック5と共通する部品が多いことがわかる。とはいえ、清潔感と高級感があるため、まったく不満に感じることはない。
メーター用とインフォテインメント用、2面のモニターが一体となったパネルがダッシュボード上で存在感を示す。表示は鮮明で見やすく、ソフトウエアの動作も良好。4096色から選べるという、アンビエントライトが内装パネルに仕込まれている。
加速時に車内へ響く人工音が変化する、e-ASDという機能も実装された。ヒョンデは宇宙船のような音だと主張するが、筆者はオフの方が心地良かった。
アイオニック5より引き締まったシャシー
ダッシュボードの両端には、デジタル・ドアミラー用のモニターが据えられ、後方の状況は確認しやすい。光学的なミラーの方が距離感などは掴みやすいが、モニターの位置自体に違和感はなかった。この装備で、航続距離は約1.5km伸びるそうだ。
弧を描くルーフラインのおかげでリアシート側は頭上空間が制限されるが、リアシートの背もたれを倒し気味にし、座面を低くすることで高さ方向を稼いでいる。空間自体は、ポールスター2やモデル3より余裕がある。
荷室容量は明らかになっていないものの、トランクリッドを開いて見た限り小さくはない。リアガラスも一緒に開くファストバックなら、もう少し余裕が生まれたかもしれない。恐らくCd値に影響が出るのだろう。
航続距離の強みだけでなく、ヒョンデはアイオニック6をドライバーズEVだとも主張している。モデル3より、運転が楽しいと。アイオニック5の場合、サスペンションがソフトで、浮ついた乗り心地と大きめのボディロールが数少ない弱点といえた。
今回試乗したアイオニック6は韓国仕様ではあったものの、確かにシャシーは引き締められ、乗り心地も改善されているようだった。5と比べてコシがあり、荒れた路面を通過しても落ち着きは失われにくい様子。
ステアリングホイールはレスポンスが良く、操舵には安心感が伴う。長いボディサイズやホイールベースを考えれば軽快に身をこなし、狙ったラインも辿りやすい。
長距離ドライブを楽しくこなせるBEV
ツインモーターが生み出す333psに不足はなく、0-100km/h加速は5.0秒がうたわれる。アクセルペダルの操作に合わせてスムーズにパワーが生成され、トルクも太く扱いやすい。
スポーツカーと呼べるほどではないものの、スポーティなサルーンだとは表現できる。モデル3の方が動的能力には優れるように感じたが、長距離ドライブを楽しくこなせることは間違いないだろう。とはいえ、内燃エンジンのクルマの方が魅力では上のままだ。
ヒョンデの担当者は、クロスオーバー風のアイオニック5ほど6は人気を得ないだろうと予想する。航続距離は長いものの、実用性の高い車内空間を支持するユーザーが多いと考えているためだ。
だが、価格設定次第ではうれしい誤算を生むかもしれない。アイオニック6は、BEVサルーンに求められる多くの強みを獲得している。充分な車内空間を備え、運転しやすく、装備も充実している。
ヒョンデのデザイナーは、0.1xの達成はできなかったかもしれない。しかし、その仕上がりは間違いなく輝かしいものだと思う。
ヒョンデ・アイオニック6 AWDロングレンジ(韓国仕様)のスペック
英国価格:4万8600ポンド(約816万円/予想)
全長:4855mm
全幅:1880mm
全高:1495mm
最高速度:185km/h
0-100km/h加速:5.0秒
航続距離:518km
電費:5.9km/kWh
CO2排出量:−
車両重量:−
パワートレイン:ツイン永久励磁同期モーター
バッテリー:72.6kWh(実容量)
急速充電能力:233kW
最高出力:333ps
最大トルク:61.5kg-m
ギアボックス:−
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