2026年のF1ドライバーラインアップは、今シーズンとあまり大きくは変わらないものと見られている。しかしそんな中でも、数人F1デビューの可能性がありそうなドライバーが存在する。
2024年のF1サウジアラビアGPは、ある意味転機となった。
■F2有望株ダンのマクラーレン育成離脱の理由は何なのか? 浮上するレッドブル入りの噂……“ボルトレトパターン”か
このレースでは、フェラーリのカルロス・サインツJr.が体調不良のため欠場。代役を務めたのは、まだF1参戦の経験がゼロのオリバー・ベアマンだった。ベアマンは当時まだ18歳。高校に在学中の身であったが、急遽のF1参戦ながら7位に入賞した。これで、今のF1はルーキードライバーが扱うには難しすぎるという見方を一変させた。
この見方は、F1のパドックを支配していたものだった。そのため、ウイリアムズは2023年に結果を残せなかったローガン・サージェントを残留させ、アルファタウリ/RBは、ダニエル・リカルドの代役としてデビューしたリアム・ローソンを、レギュラードライバーに起用しなかった。
リカルドは2023年シーズン後半に復帰したが、翌年は大苦戦することになった。しかしその一方で、ルーキードライバーたちはF1のチャンスを掴むと、いきなり活躍を見せた。前述のベアマンはフェラーリに乗った後、シーズン後半にはハースから2度出場。アゼルバイジャンGPでも入賞を果たした。フランコ・コラピントはシーズン中にサージェントのシートを奪い、いきなり速さを見せつけた。
2025年にはメルセデスがアンドレア・キミ・アントネッリ、ザウバーがガブリエル・ボルトレト、レーシングブルズがアイザック・ハジャーをデビューさせた。そしていずれも目を見張るような成績を残している。これら事例は、若いドライバーに対する信頼感が高まっている……そのことを示しているとも言えよう。
ただ2026年には、あまりドライバーラインアップは変わらないものと見られており、ルーキーが参入する余地はあまりないようにも見える。もしデビューできるドライバーがいるとしても、それは2025年シーズンと比べればはるかに少なくなるだろう。
本稿では、そのうちの何人かを紹介する。
アーヴィッド・リンドブラッド
アーヴィッド・リンドブラッドは、来季レーシングブルズからF1デビューするという噂が根強い。イギリス系スウェーデン人であるリンドブラッドは、鳴物入りでF2デビューを飾ったものの、大きく期待外れのランキング7番手に留まっている。しかしレッドブルのモータースポーツ・アドバイザーであるヘルムート・マルコは、リンドブラッドの才能を高く評価している。
リンドブラッドはイギリスGPのFP1でレッドブルのマシンをドライブ。もし本当にレーシングブルズからデビューするのであれば、彼は間も無くレーシングブルズのマシンもFP1で走らせることになるだろう。
なおイギリスGPのFP1でリンドブラッドが記録したタイムは、首位ルイス・ハミルトン(フェラーリ)からは1秒遅れたものの、同じマシンを駆ったマックス・フェルスタッペンからは0.5秒遅れであった。
ただフェルスタッペンは、リンドブラッドがソフトタイヤを履いていたのに対して、ミディアムタイヤでの走行だった。そういう意味では、ふたりのラップタイムは純粋に比較できるものではなかったのも事実だ。
実際にリンドブラッドをF1デビューさせるということになれば、レッドブルの首脳陣にとって難しいのは、レッドブル・レーシングとレーシングブルズの2チームに、誰をどう配置するかということだろう。現在4人いるドライバーのうち、フェルスタッペンが不変なのは間違いないが、ハジャーをレッドブルに昇格させる価値があるのか、そして角田裕毅とローソンのどちらをラインアップから外すのか……その難しい判断に迫られることになる。
来シーズンに向けては、この2チームにとっては決めなければならないことが多数ある。しかしいずれにしても、F1昇格を果たせるかどうかは、リンドブラッドがF2の残り2ラウンド、そしてF1のFP1やシミュレータなどでどんな能力を発揮できるか……にかかっている。
ポール・アーロン
アルピーヌは来季に向けて、頭を抱えていることだろう。選択肢は限られているため、若手の中からピエール・ガスリーのチームメイトを探さねばならない。成績不振に陥っているコラピントを残すのか、それともポール・アーロンをレギュラードライバーとして起用するのか……。
大方の見方では、コラピントが残留する可能性が高まっているようだ。まだまだ合格点には至らないかもしれないが、コラピントは最近になってパフォーマンスを上げつつある。しかもラテンアメリカのブランドが、アルゼンチン出身のコラピントに強い関心を寄せているという話もある。
しかしフラビオ・ブリアトーレ(エグゼクティブ・アドバイザー)がコラピントはレギュラードライバーに相応しくないと判断した場合、アーロンがその後任筆頭候補ということになる。
エストニア出身のアーロンは、TPC(旧車テスト)で印象的な成績を残していると言われる。しかし、真偽のほどは定かではない。FP1ではアルピーヌだけではなく、ザウバーのマシンもドライブしたアーロン。ここではほぼ合格点とも言える走りを見せたのは間違いない。
昨年のF2でアーロンは、ボルトレトとハジャーの前に苦戦を強いられた。シーズン半ばにはタイトル獲得の可能性もあったが、後半には後退することになったのだった。
F2参戦1年目のドライバーたち……フォルナローリ、ブラウニング、ダン
リンドブラッドが現在F2に参戦中の誰よりも優れているという主張があるならば、今季F2で1年目ながら素晴らしい活躍を見せている3人のドライバーの存在を考えると、それを正当化するのは少々難しいように感じられる。しかしこれらの3人も、F1に向けて順風満帆というわけではない。
レオナルド・フォルナローリ、ルーク・ブラウニング、アレックス・ダンの3人のうち、F1のジュニアチームに参加していないのはフォルナローリだけだった。このことは、フォルナローリは自分の好きなように所属チームを選べるというようにも見えるが、実際にはF1チームは自分たちの傘下に若手ドライバーを抱え、そこからF1に昇格させるドライバーを選ぶという可能性が高いため、厳しい立場にあることは間違いない。
とはいえフォルナローリは、今年F2に参戦するドライバーの中では傑出した存在であると言え、非常に安定した走りを見せている。昨年は未勝利ながらF3のタイトルを獲得し、「安定しているが勝てない」という印象も付き纏ったが、今年はしっかりとレースに勝っており、悪い印象は間違いなく払拭されている。
ブラウニングもまた好調だ。フォルナローリほどの安定感はないものの、シーズンを通して何度も表彰台に上がっている。ただ奇妙なのはスプリントレースとフィーチャーレースでのポイント獲得率だ。ブラウニングはここまで161ポイントを獲得しているが、そのうち130ポイントは日曜日のフィーチャーレースで獲得したものだ。
彼の予選でのパフォーマンスは、安定している。つまりはスプリントでのリバースグリッドという性質が彼を苦しめており、なおかつタイヤを労わる彼のスタイルが長い距離のレースに合っていると言えるだろう。2026年にウイリアムズのリザーブドライバーに収まるのは、彼にとっては自然な流れだろう。
一方でダンは素晴らしいドライバーであると同時に、不安定な存在でもある。バーレーンとイモラで勝利し、シーズン序盤はチャンピオン候補のひとりと目された。しかしモナコではスタート直後に首位を守ろうとして、ヴィクトー・マルタンス(ARTグランプリ)に突っ込んでしまった。そういう”本能”を抑えなければいけないレースもあったが、一方で不運に見舞われることも少なくはなかった。
ダンはオーストリアのフィーチャーレースで、スキッドブロックの摩耗が制限値を超えたために2位を失った。またスパ・フランコルシャンでのフィーチャーレースでも、スタートセットアップ手順の違反により10秒のタイム加算ペナルティを受け、9位に後退した。これらの不注意がなければ、ランキングでもフォルナローリにもっと近づいていたことだろう。
ところが、今年10月にダンがマクラーレンとの育成ドライバー契約を突如解除したことで注目が集まっている。これがレッドブルからのアプローチを意味しているのならば、一気にF1デビューが近づくかもしれない。
2027年以降:F3王者は、ボルトレトの軌跡をたどれるか?
ラファエル・カマラは今シーズン、F3を圧倒的な強さで制した。ニコラ・ツォロフに42ポイント差をつけ、チャンピオンとなったのだ。彼は次のフェラーリの候補となるかもしれない。
カマラが来年、F2を参戦初年度で制することができるかどうかは、どのチームに加入できるかということにかかっている。しかしもしこれが叶えば、ボルトレートに匹敵する活躍を見せることができるだろう。フェラーリのサポートがあれば、その可能性はグッと高まる。
カマラは今季、特に予選で驚異的な速さを発揮した。開幕から3ラウンド連続でポールポジションを獲得し、その後さらに2回のポールポジションを積み重ねたのだ。
ただF3の予選でこれほどの好成績を収めることは、諸刃の剣とも言える。土曜日のスプリントレースではリバースグリッドとなるが、それがF2では上位10台なのに対し、F3では上位12台に拡大するからだ。実際カマラは、スプリントレースで追い上げるのに苦労した。
しかしF2ではそれほど問題にはならないだろう。彼がそのF2でもボルトレトやフォルナローリと同じような進歩を見せることができれば、来季のF1ドライバー昇格市場で話題のひとりとなるはずだ。
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