ドライバー3月号(2020年1月20日発売号)からスタートした新連載「(じつは)動物カメラマン 三好秀昌の『ニッポン探訪』」。日本全国をSUVで駆けまわり、かわいい動物や最高の絶景を撮影してしまおう!という企画です。第21回は北海道の大雪山系で撮影した『ナキウサギ』。撮影テクニックやクルマのインプレッション、その地域のグルメやお土産情報など、取材ウラ話をいろいろと紹介します。
「ラリー→ナキウナギ探し」がルーティーンに
2003年に北海道・十勝管内で全日本ラリーに出た。マシンは日産 Z33フェアレディZである。ハイパワーFRマシンは北海道のフラットで高速なグラベルステージを気持ちよく駆け抜けた。
あるSS(スペシャルステージ)とSSの間のトランスポートセクションにすばらしく景色がいい場所が。地図を見ると近くに「ナキウサギ生息地」という表記もある。
「なんだ? ナキウサギって?」
ラリーが終わってそんな話を競技主催者と話をすると、「ネズミみたいなウサギだよ。昔はいたらしいけど今はいないみたいよ」とのこと。
その場所は、路面がきれいな林道から獣道(けものみち)にそれる場所の先だった。
環境保護のために生息地といわれる場所を避け、ラリーの移動区間も獣道で迂回していたわけだ。
新型フェアレディZのナンバープレートの位置がわかった…ベースには隠れ「Z」ロゴも!
しかしこの獣道は酷かった。FRのZではスタック寸前。後方では上れずにリタイアしたマシンがあったほどだ。SSではなく移動区間なのに。ドライバーたちは20年弱経った今でも事情を知らないだろうけど、恨むならナキウサギを恨んでね(笑)。
これはラリー主催者が環境対策などですごく苦労しているのがうかがえるエピソードだ。感謝! ちなみに、ここはWRCジャパンでも何度か使われたけど、そのときも獣道はグチャグチャだった。
で、オイラはこのときもその後も何度かここを訪れたが、たぶん……
「ナキウサギは引っ越してます!」
結局、姿どころか鳴き声ひとつ聞けなかった。
本来の目的はこの先の風景だ! 折しも大雪山系に初冠雪。その少し下は色とりどりの紅葉。こんな色彩が混じった景観はなかなかお目にかかれない。
ナキウサギについて調べてみると、見つけやすいのは然別(しかりべつ)湖とか大雪山系がベストらしく、次回はそっち方面に行くことにした。その後、帯広にラリーをしに行くと、締めはナキウサギ探しというのがルーティーンになる。
然別湖に向かう道はアップダウンの見え方が美しく、通るたびにクルマ旅のよさを感じさせてくれる。ここはオイラが大好きな道だ。
悪路も得意なPHEVはクルマ旅にピッタリ!
この然別から糠平(ぬかびら)のエリアはナキウサギだけではなく、ひなびた温泉と士幌(しほろ)線廃線跡と、興味を引くすばらしい遊び場が点在していた。
士幌線廃線跡で一番有名なのがタウシュベツ川橋梁(きょうりょう)だ。水に洗われ表面がボコボコの長い橋が、糠平湖の水位によって姿を現したり消えたりするところから“幻の橋”なんて呼ばれている。
長いアーチ橋はなかなか見応えがある。
以前は林道を走ってすぐ近くまで行けたが、交通事故多発とかで今は林道が閉鎖されている。歩いていくか(ヒグマ生息地域だが!)、対岸から眺めるしか方法がない。
しかし、橋梁跡はまだまだいくつもある。どれも原生林に埋もれつつ、静かにたたずんでいてすばらしい雰囲気だ。
このあたりは国道から脇に入るとほとんどがダート。それもしっかりと管理されていて路面がきれいで走りやすい。
道幅は狭く、あまりクルマが通らないだけに砂利が多いのでブレーキングには要注意だ。また、滑りやすいだけではなく、コーナーを抜けると鹿がキョトンとたたずんでいたり、夕方以降はヒグマが歩いている可能性もある。くれぐれもスピードの出し過ぎには気をつけたい。
新型デビューがアナウンスされ始めた三菱 アウトランダーPHEVではあるが、現行モデルもその完成度の高さと便利さをクルマ旅で十分に発揮する。
エンジンを回して発電するので、外部の充電スポットからだけでなく、走行中でもバッテリーチャージが可能。バッテリーの充電量にドキドキしないで、普通のガソリン車と同じ感覚で走れるのが大きなメリットだ。
リヤシートの座面が前に倒れ込みシートバックを畳むというギミックにより、フルフラット空間が作れて魅力的だ。室内に3カ所ある100Vソケットは1500Wまで給電するので、ほとんどの家電製品をクルマの中で使え、車中泊にも最適。
ただ、快適な室内の広さを生み出しているクルマのサイズが、狭い林道などでは取りまわし的にデメリットになるのは痛しかゆしではあるが。
三菱が得意とする4WDの統合制御S-AWCは、滑りやすい雪やダート路面で素直なハンドリングを実現してくれる。
然別から糠平にかけては数多くの温泉が点在する。国道沿いのポピュラーなものから山の中の行き止まりにたたずむ秘湯までさまざまだ。ただ残念なことに、オイラがお気に入りだったところは数軒が廃業、また趣があった建物がリニューアル、と選ぶ幅が減ってしまった。
とはいえ、今も源泉の質に変わりはなく、すばらしいお湯は健在だ。
まるで忍者のように現れるナキウサギ
廃線跡、温泉と遠回りしたが、メインテーマのナキウサギ探しは東ヌプカウシヌプリ山の頂上にあるという岩場に行くことにした。
標高1252mと低い山ではあるが、超望遠レンズなどの撮影機材を抱えての山登りはオイラ的にはしんどい(だから今までは避けていたのだ)。ただ、ソニーα9と200-600mmのレンズの組み合わせはほかのセットに比べれば軽くて救いである。
この山の頂上付近に広大な岩場があるなんて、下から見ているかぎり想像もできない。
そして、ここを見たときには途方に暮れた。どうやってナキウサギを探せばいいのだ!
こうなると名前の由来の“鳴き”を待つしかない。
「ピキーッ」という甲高い声を頼りに探す。すると鳴いたあとに走り出したりもするので、何とか見つけるコツがわかってきた。
運がいいと何羽(ウサギの数え方だから羽でいいのか?)かが何カ所かで鳴き交わし始める。合唱状態はエキサイティングだが、今度は声が岩場で反響してわけがわからなくなる。
岩の隙間からの顔の出し方もモグラたたき状態で、どれにフォーカスすればいいのか迷ってしまう。
かと思えば、鳴くこともなくいつの間にか登場。それもオイラから数mの所でジーッとしているのだ。
いないかと思えば、いつの間にか登場しているという、まるで忍者のようなナキウサギだった。
撮影を終了し、ヒイヒイ言いながら今度は下山。国道をほんの少し移動すると、数台のクルマが止まって何か見ている。
「エッ? え~っ!!」
道の脇の岩場からナキウサギが顔を出しているじゃないか!
「灯台下暗し」ということわざどおりのオチだった(笑)。
「今回の機材」
カメラボディ:SONY α9
レンズ:FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS
「オススメのSUV……三菱 アウトランダーPHEV」
■Sエディション 主要諸元
(─/4WD)
全長×全幅×全高:4695mm×1800mm×1710mm
ホイールベース:2670mm
最低地上高:190mm
車両重量:1930kg
パワーユニット:直4DOHC+モーター
総排気量:2359cc
エンジン最高出力:94kW(128ps)/4500rpm
エンジン最大トルク:199Nm(20.3kgm)/4500rpm
モーター最高出力:前60kW(82ps)/後70kW(95ps)
モーター最大トルク:前137Nm(14.0kgm)/後195Nm(19.9kgm)
燃料/タンク容量:レギュラー/45L
WLTCモード燃費:16.4km/L
価格:529万4300円
〈文と写真〉
三好秀昌 Hideaki Miyoshi
●東京都生まれ、日本大学芸術学部写真学科卒業。八重洲出版のカメラマンだったが、ラリーで頭角を現し、そのうち試乗記なども執筆することに。1995年、96年にはサファリラリー グループNで2年連続優勝。そのほか、国内外で数多くのラリーに参戦。写真家としては、ケニアでの豹の撮影など、動物をおもな題材としている
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