飯塚被告人の主張が通る可能はゼロだろう
「元院長が無罪主張 母子死亡の池袋暴走事故―過失運転致死傷・東京地裁」と10月8日付け時事通信。旧通産省工業技術院の飯塚幸三・元院長(当時87歳)運転のトヨタ プリウスが暴走、青信号の横断歩道を自転車で横断中の母娘を死亡させ、他の通行人ら9人に重軽傷を負わせたという重大事故の、第1回公判が東京地裁であったのだ。全メディアが大報道した。
プリウス・ミサイルを防ぐ最終手段!? 障害物なしでも加速を抑制する新機能を世界初搭載。意図しない作動もありえる!?
私は傍聴に行かなかった。「コロナ・ディスタンス」で傍聴席数は3分の1ほどに制限されている。司法記者クラブが、横並びの要点報道しかしないのに10数席を取る。被害者、遺族の方々の特別傍聴席もだいぶあるだろう。残りが傍聴券抽選となり、例によってメディアに雇われた「並び屋さん」が押し寄せるはず。私が傍聴できる可能性は非常に小さい。そのうえ、当日は雑誌原稿の締め切りで切羽詰まっていた。なので裁判所へ行かなかった。申し訳ない。
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時事通信によれば飯塚幸三被告人(※)は被害者、遺族に詫びたものの、罪状認否で「アクセルペダルを踏み続けたことはないと記憶している。車に何らかの異常が生じ、暴走した」と過失を否認。弁護人は無罪を主張したという。私は傍聴はしなかったが、裁判傍聴マニアでもあり事件数で8800件ほど傍聴してきた立場から、少し述べさせてもらいたい。 ※民事裁判は「原告vs被告」、刑事裁判は「検察官vs被告人」だ。
飯塚被告人の主張が通る可能性はゼロだと私は思う。ゼロでも、被告人がそのように主張するなら、法律手続きにのせて争うのが弁護人の仕事といえる。説得して否認を引っ込めさせたら、あとで大問題になりかねない。「この被告人、悪あがきしているだけじゃないか。なのに何期日もかけて証人を何人も呼び、結局は有罪。裁判って馬鹿ばかしいなぁ」と思うことはよくある。しかし、犯罪傾向のある人は何でも自分に都合よくねじ曲げて考えがちだ。「ねじ曲げは通らない。悪あがきは無駄だ」と思い知らせてやることも必要なのかもしれない。
弁護人はともかく、本件被告人の周囲にこうアドバイスする者がいなかったのかなと私は思う。すなわち、「これこれの理由で、あなたがアクセルを踏み間違えたとしか考えられません。どう争っても無罪はムリ、遺族らの気持ちをさらに傷つけ、国中から憎まれ、あなたの晩節を最悪にするだけです。争えば100万、200万円の弁護士費用がかかります。争わず、そのお金を寄付しましょうよ」と。アドバイスする者がいなかったか、いたけれども被告人は高齢ゆえの頑なさで耳を貸さなかったか、あるいはもしかして本当にプリウスが勝手に暴走したのか。
踏み間違い事故の裁判を私は過去に何件か傍聴してきた。うち1件、高齢女性を被告人とする裁判を『driver』本誌で以前レポートした。今回、少し加筆などしてここに再掲しよう。
70歳代女性がアクセルとブレーキを踏み間違い
元女優? 正直そう思った。大学院卒業で70歳代のその女性は、白くなった髪を、外国映画で見るような黒いネットに包み、服は柔らかい生地でドレスのよう。背すじが伸びて姿勢がよく、話し方はゆっくりと上品で知的。だが、女性がいま座っているのは「自動車運転過失致死」の裁判の被告人席なのだ。
被告人は普通乗用車を運転してスーパーの駐車場から出ようとした。一時停止して車道へ出る際、アクセルとブレーキを踏み間違えた。クルマは急加速、イッキに車道を横切り、反対側の歩道のガードレールを突き破った。その歩道を1人の女性(39歳。以下、被害女性)が歩いていた。まさか真横からガードレールを突き破ってクルマが襲いかかるとは考えもしなかったろう。被告人のクルマは被害女性を車底部に巻き込み、小学校のフェンスに突っ込んで停止した。女性は約45分後に救出されたが死亡・・・。
被害女性は身元がわかるものを持っていなかった。警察は「歯科捜査、地取り捜査」を開始。一方、被害者の両親は帰らない娘を心配して捜索願いを出した。事故から19日後、警察署の霊安室で対面したとき両親は「地獄へ落とされた」という。そんなことがあっていいものか!
いったいなぜ、被告人はアクセルとブレーキを踏み間違えたのか。高齢でボケていたのか。ふだんから危なっかしい運転だったのか。法廷では誰もがそこを突っ込んだ。弁護人はまず、情状証人(被告人の夫)にこう尋ねた。
弁護人「事故の前に被告人運転のクルマに乗ったとき、どうでしたか?」
夫「むしろ、あのう、安全運転しすぎというぐらい・・・」
弁「被告人は免許を取って何年になりますか?」
夫「52年ぐらいと思います」
検察官(若い女性検事)はこう尋ねた。
検察官「踏み違えの原因について被告人は何か言ってましたか?」
夫「自分でもほんとどうして踏み間違えたのかわからない、でもやってしまったと泣きながら・・・」
そして被告人質問が始まった。弁護人からの質問は省略しよう。検察官はこう尋ねた。
検「事故の原因はペダルの踏み違えですね。これまで同じようなことは?」
被「ありませんっ」
検「ではなぜこのとき」
被告人は苦しそうに答えた。
被「私にも・・・どうして、どうして、どうして・・・」
検「考えごとをしてたんですか?」
被「いいえ」
検「焦ってたんですか?」
被「いいえ」
判決は禁錮3年、執行猶予5年
てんかんも脳梗塞もなく、当日は買い物の前に昼寝をしており、ふだんは安全過ぎるくらいの安全運転なのだそうだ。考えごとをしていたわけでもなく、焦っていたわけでもなく、なぜ踏み違えたのか、どう考えてもわからないという。
被告人質問が終わると、被害女性の両親が証言台の前へ進み出て意見陳述をした。被害女性は高校生のとき1年間、カナダへ留学。慶應大学の法学部へ通いながらインドネシア語などを学び、国際交流の関係の仕事を明るく前向きにしていた。母親は最後にこう述べた。
母親「○○(被害女性の名)は私たちの宝でした。そんな宝が消えてしまった今も、○○の明るい笑い声や話し声が聞こえてきて、私たちはこれからずーっと無念さを抱えて生きていかねばならない。被告人を許せるものではありません」
父親はこう述べた。
父親「こんな人間性のかけらも感じられない被告人は、厳罰に処してもらいたい。刑務所の中でゆっくり考えてもらいたい。罪の重さを考えているとはとても思えない。ただただ被告人が憎いです!」
私の隣、傍聴席の最前列中央付近で、喪服の男性が何度も大きくうなづいた。遺影を抱えていた。被害者の兄弟なのだ。遺影はカラーで、明るくはつらつとした感じの女性が微笑んでいた。
遺族の怒りは激烈だった。例えば、被告人はお通夜へ夫と弁護士(裁判では弁護人)と行き香典を出したというのだが、どういう行き違いなのか、遺族は「香典も持たずにきた」と怒った。被告人は謝罪を述べたというのだが、遺族は「謝罪は一切聞いてない」と怒った。また、被告人は保険とは別に200万円を用意したそうで、それは多くの事件と比べて非常に高額なのだが、遺族は「罪を軽くするためのパフォーマンスだ」と怒った。
傍聴していて私は痛切に感じた。「宝」である娘の命を突然に、かつまったく理不尽に奪われて、怒りとか悲しみとかいう言葉では到底表現しきれない無念さを、どうすればいいのか。壊れそうになる心を、被告人へ向けるしかない。被告人のあらゆる言動を憎むことで、かろうじて支えている。そういうふうなものが私には感じられ、涙が出そうだった。最後に、被告人に陳述の機会が与えられた。被告人は、うなだれて静かに述べた。
被「ございません・・・」
被害女性の父親がじーっとにらんでいた。私は傍聴席から叫びたかった。約2トンものクルマをぐわっと加速させるアクセルと、強力なブレーキ、つまり正反対の結果をもたらすペダルを足もとの暗がりに2つ並べ、ときに過失もある人間に、ひっきりなしに踏み変えさせようとする。それなのに、誤ってアクセルを踏んでしまった場合に自動的に加速をキャンセルする機能がない。この事故のほんとうの原因はそこにあるのではないか!
3週間後、判決が言い渡された。
裁判官「主文。被告人を禁錮3年に処する。この裁判が確定した日から5年間、その刑の執行を猶予する」
交通事故は犯罪傾向のない善良な市民が過失で起こす。ゆえに死亡事故でも執行猶予が相場なのだ。遺族は怒りと憎しみをさらに深めるかもしれない。しかし、たとえ被告人を死刑に処しても、同様の事故は延々と起こり続けるだろう。悔しくて残念でならない、私は傍聴席でそう思った。
※これを傍聴したのは2011年。
〈文=今井亮一〉
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みんなのコメント
このジジィといい
権力者に守られた
身分制度がいまだにある証拠やん
逮捕しない警察も
罰金だけの甘チャン判決の裁判官も
保身第一のクソ外道