1.2リッタークラス初のインタークーラー装着車「シティ・ターボII」
かつては爆発的なパワーを導きだす夢の秘密兵器だともてはやされていた「ターボチャージャー」ですが、いまではすっかり市場に浸透してしまい、もはやカタログの巻末に掲載されているスペック表にすらその記述を見ることが少なくなりました。
CO2排出量を減らすため排気量を下げる傾向にあります。ただ、無策でいると充分なトルクが得られません。そこで、和名「過給機」からも想像できるように、ガソリンを”過剰”に”供給”するターボチャージャーを合体させて、推進力を補う方法を採用しているのです。それが昨今のダウンサイジングの傾向です。
もはや、ダウンサイジングにおいてターボチャージャーは当然組み込まれているはずの機構であり、わざわざ表記するほどでもないというわけですね。
とはいうものの、かつてターボチャージャーは、モアパワーが要求されるスポーツカーにのみ組み込まれる機構でした。ポルシェターボやBMW2002などがターボモデルとして有名であるように、ひたすら最速を狙うマシンがこぞってターボチャージャーに手を出したのです。
ただ、もっともターボチャージャーの威力を活用したモデルはどれだと問われれば、僕はホンダの「シティターボII」を紹介せずにおれません。
車名が「シティターボII」なのですから、いかにターボチャージャーに頼っていたかは想像のとおりです。
もっともベースは、軽自動車よりもコンパクトサイズのシティコミューターです。それに驚くほど強烈なターボエンジンを搭載したのが「シティターボII」というわけです。1983年のことです。
登載するエンジンは1.2リッターと小排気量でした。ですが、ターボチャージャーには吸気温度を下げるためのインタークーラーが合体されていました。ターボチャージャーの圧力(ブースト圧)は、当時としてはレーシングカー並みの「0.85kg/cm2」だったのです。
いまとなってはそれほど驚くような数字ではありませんが、最高出力は110馬力に達しており、排気量で勝るスポーツカーたちを追いかけ回したのです。
驚かされるのは、「スクランブル・ブースト」が機能することです。エンジン回転が4000rpm以下に限って、アクセルペダルを床まで踏み込むと同時に、ブ―スト圧が10%跳ね上がるのです。しかも、最大で10秒間に限ります。仮に80km/hで走行中にスクランブル・ブーストを見舞うとすると、220m駆け抜けるまで、スクランブル状態でいられることになるのです。
わずか10秒間に限定しているのは、それが耐久性の限界だからでしょう。高負荷時のフルブーストは、エンジンの異常燃焼を誘います。ガスケットにも強い負担が掛かります。ですから、常用できません。まさにスクランブル。
これはもう、コンペティションの世界ですね。「急発進」の「ブースト」。戦闘機が急発進するあの様子を想像させます。その物騒なネーミングは刺激的です。ライバルを駆逐する瞬間に、エキストラパワーを爆発させるなんてまさに競技の発想です。ターボ時代にF1を制覇したホンダらしいですね。
当時はいまほど世界の環境意識は高くありませんでした。ですから、小排気量のシティにターボが組み込まれたのはダウンサイジングの思想とは異なります。ホンダという走り好きのメーカーが、大排気量でブイブイいわせているライバルに一撃を喰らわしたかったから・・というだけでしょう。それほど当時のホンダは少年のように血気盛んで勢があったのです。
ターボチャージャーの象徴としてたけではなく、古き良きホンダを忍ばせるモデルですね。
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