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日本初の「公道レース」はいかにして実現できたのか? レースの裏側で見たものとは

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日本初の「公道レース」はいかにして実現できたのか? レースの裏側で見たものとは

「消滅可能性都市に、可能性を見出そうと思った」

 日本で初めての市街地公道レースとなる「A1市街地グランプリ GOTSU2020」が、2020年9月20日に成功のうちに幕を閉じた。

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 舞台となったのは島根県江津市……「東京から一番遠いまち」として教科書にその名前が登場するものの、知名度は決して高いとは言えない。取材へ向かうために切符の手配を依頼した都内の駅窓口では「この行先は一体何とお読みすればいいのでしょうか?」と尋ねられたほどだ。

 これを機会に覚えておいてほしい。「ゴウツ」と呼ぶ。

 確かに江津は遠い。東京駅から新幹線に乗り一路西へと向かい、岡山駅で在来線の特急列車に乗り換え日本海側へ。島根県にある終点の出雲市駅でさらに別の特急へと乗り換え、揺られること約1時間……その総行程は8時間あまりである。

 江津市の人口は約2万3000人ほど。なぜそんな街で日本最初の公道レースを開催することになったのか? それについて実行委員会事務局の森下幸生さんは以前、次のように語っていた。

「消滅可能性都市に、可能性を見出そうと思ったんです。元気で新しいことにチャレンジする街というのが、メインの考え方。それを日本全国に向けてPRしたいなと思いました」

「儲かるかどうかだったら、誰もやらないかもしれません。でもやりたいですよね。日本での公道レースは、これが初ですから。誰かがパイオニアにならなければいけないんです」

 そして7年もの準備期間を経て、レースは実際に行なわれた。結果からいえば、大成功だったと言えるだろう。新型コロナウイルスの影響で、コースやイベントの規模は大幅に縮小せざるを得ず、コースが変更されるに従い道路使用許可も出し直さなければならなかった。日本での公道レースは、まだ誰もやったことのないこと。ゆえに前例がなく、道標もない……つまり準備がどこまで整っているのか、実際には誰にもわからなかったのだ。

 ただ森下氏をはじめとした実行委員会の人々は、入念に準備を重ね、前例のないことを前に進めていった。それを後押ししたのは、江津の住民の声だったという。

「地域の人たちは、最初から本当に応援してくれていました。高齢の方も含め、市民の方々は『面白そうだな』と言っていただいていました」

 そして運営に携わるボランティアスタッフも、260人が集まった。警察からレース当日の道路使用許可が下りたのは、午前9時から午後3時までの6時間だけ。この間にコースを仕切るための衝撃吸収バリアを設置し、走行スケジュールをこなし、そして衝撃吸収バリアや側道の構造物を養生していたスポンジを取り外さねばならなかった。

 しかしこれも、当初のスケジュールよりも格段に早く進行した。これには、コースの視察に訪れていたJAFのカート審査委員グループの鎌田新リーダーも驚きを隠さなかった。

「この短時間で、アッという間にコースができてしまった。この様子なら、いろんなところでやれるんじゃないかという気がします」、そう鎌田さんは語る。

「地元の同意を得るには、相当時間がかかったようです。でも日本で初めての公道レースということを、しっかりPRしていくべきだと思います。モータースポーツの認知を広げていくためには、それが重要です。そして同じような形で、日本の色々なところでやって欲しいと思います」

「成功することはすごく大事です。警察の方、関係者の方々には、最大限の感謝と敬意を表したいと思います。こういう規模のレースを繰り返しやってニュースになれば、今後に良い影響になると思います。いきなりF1のような大きなイベントをやって、事故でも起きてしまえば大変ですから」

 JAFはコースの準備が整った段階で、最終的にその安全性をチェック。問題なしと認定され、臨時の「JAFカートコースライセンス」が発給された。

 鎌田さんはモータースポーツに携わり、55年になるという。そしてようやく日本で公道レースが開催できるようになったことについて、感慨深げに次のように語った。

「55年この仕事をやってきて、ようやく日本のレースもここまできたかという想いがあります。住民の皆さんには、ぜひ楽しんでもらいたいと思います」

 実際、サーキット周辺の住民、そして招待された地元の小学生たちは、カートの走行を楽しんだ。コースが狭く、そして観戦ポイントから近いところを疾走する……想像以上のスピード感を味わえるのだ。

 軒先に椅子を置いたり、日傘を差して日除けをしたり、ベランダで家族揃って……皆、思い思いの形で走行を楽しんでいた。おそらくほとんどの人たちは、モータースポーツを初めて目にしたはずだ。しかし熱心に声をかけ、拍手を贈り、そして笑顔でその走りを見守った。コース設営によって道路が封鎖されたため、影響を受けた住民もいたはずだ。ある程度の不満の声も寄せられると予想されていた。しかし市役所には1件の苦情も寄せられず、警察も運営に満足していたという。

 今回のイベントが成功したことで、ひとつの実績が生まれた。そしてこれが前例となり、今後公道レースを開催する上での”道標”となるだろう。彼らはパイオニアになったのだ。

 では今後、A1市街地グランプリはどうなっていくのだろうか? 主催者であるA1市街地レースクラブの上口剛秀代表は、次のように語った。

「新しい未来へ向けたベースは作れた」

「一番大切なのは、知らないことに出会えたということだと思います。モータースポーツを知らない人にも、今回は大勢見ていただいた。マーシャルも、ボランティアも、沿道のおじいちゃんやおばあちゃんも、そして小学生も、みなさん笑顔で手を振ってくれていました」

 上口代表はドライバーのひとりとしても今回のレースに参戦しており、バイザー越しに沿道の光景を目にした。

「ゴールした時、涙が止まりませんでした。何かを成し遂げた時にしか感じられないモノなんだと思います。触れたことのないことに触れるというワクワク感が、みなさんにとって大切なのではないかと思います」

 とはいえ、”感動した”と言うだけのためにレースを開催したわけではない。今後、ビジネスにしていかねばならないのだ。これについて上口代表は次のように構想を語る。

「今回成功したことで、モータースポーツを市街地でできるという文化的な素地ができたのではないかと思います。これが重要です。新しい未来へ向けたベースを作れた。新たな技術の展示会をやったとしても、そもそも興味を持っている人しか来ません。でもここは、モータースポーツに興味のない人ばかりが集まったんですよ。そこを、電気自動車とか自動運転といった技術のマーケティングの場として使っていただく。小さくとも、走る実験室になるんです」

「そして今回は、江津という街の名前を日本中に知らせることができた。当初は、江津と読める人が少なかったので、あえて”GOTSU”とローマ字表記にしました。そして100万人近い人が、その地名をツイッターで目にしていただいた。公道レースを日本で初めて開催するという勇気と、元気がある街だと、全国に知ってもらえたのです」

「そういう意味では、町おこしにぴったりかもしれない。でも横浜や大阪でやっていただいたら、企業にもメリットがあると思いますし、人が集まるイベントが実現できるかもしれません」

 では2回目の開催はあるのか? それは再び江津なのか? あるいは別の街なのか?

「江津からは、またやりたいという声をいただいています。ぜひ、日本中から声を上げていただきたいです。コロナ次第というところもありますが、もしかしたら来年は1年間空けるかもしれません。そして2年後には年間3~4戦ができればと思っています。それまでにどんなレギュレーションにするのかを考え、まずは候補地でデモ走行をやることから実現したいと思います」

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  • 先ずは第一歩。将来的にマカオやマン島の様な公道レースになることを希望します
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