ワークスチームも参戦 スーパー耐久
まさか、「アイサイト」をモータースポーツの場で使う時代がやってくるとは?
スバルからこの話を聞いて、とても驚いた。
いったい、どういうことなのだろうか?
順を追って話を進めていこう。
まず、どのようなモータースポーツかといえば、それはスバルは今年(2022年)フル参戦している、スーパー耐久シリーズである。
スーパー耐久シリーズは、量産車をベースとした国内外のレーシングマシンがクラス別で走る国内選手権。
もともとは、アマチュアレーサーが集う場だったが、そうしたアマチュアがメキメキと腕を上げて、いまではジェントルマンドライバーと呼ばれるようなプロ顔負けの走りを見せるようになっている。
なかにはスーパーGTなどの国内トップカテゴリーで走る現役ドライバーが助っ人として参戦しているチームがあり、また現役に引退した往年の名ドライバーも楽しく走っている様子もうかがえる。
そんなスーパー耐久シリーズで2021年から異変が起きている。
大手自動車メーカー各社が、いわゆるワークスチーム体制の本気モードで参戦してきたのだ。
きっかけは、トヨタだった。トヨタ・ガズー・レーシングの取り組みの中で、ルーキーレーシング「ORCルーキー・カローラH2コンセプト」を導入した。
トヨタもカローラで参戦 「走る実験室」
水素燃料を使うカローラが登場したのは、2021シーズンの富士24時間耐久レースだった。
トヨタの資料によれば、24時間のうちコース上で走行していたのは12時間弱で、約8時間が修理や安全確認、そして約4時間が水素の充填にあてていたという。
それでも、水素を燃料として使うレーシングマシンとして、世界で初めて公式の耐久レースで完走したことが国内外で大きなニュースとなった。
トヨタとしては、カーボンニュートラルを目指す中で、エネルギーを「つくる」、「はこぶ」、「使う」という自動車を中核としたすべての産業で取り組むことが重要だと強調している。
カーボンニュートラル達成に向けては、地球温暖化の主な原因といわれている温室効果ガスの二酸化炭素の排出量について、各種の工場や輸送機器など様々な分野からの排出を抑えることが必要だ。
そのうえで、森林の伐採を少なくするなどして、自然界で吸収される二酸化炭素の増やすことで、二酸化炭素の排出量を相殺するという考え方だ。
スーパー耐久での水素を使うレーシングカーも、量産エンジンで水素を燃料として使うための「走る実験室」という位置づけだ。
そうしたトヨタの試みに対してスバルも賛同し、スーパー耐久シリーズに参戦することになった。
S耐のBRZ 「アイサイト」装着を想定?
スーパー耐久2021年シリーズ最終戦の岡山戦で、ルーキー・レーシングのドライバー「モリゾウ」ことトヨタの豊田章男社長を中心に、スバルの中村知美社長とマツダの丸本明社長が共同記者会見を開き、2022年シリーズからスバルとマツダもスーパー耐久シリーズにフル参戦することが決まったと発表した。
こうしてむかえた、2022年3月の三重県鈴鹿サーキットでのシリーズ開幕戦。
44番ピットには、ゼッケン61番のスバル「BRZ」の姿があった。
チームはスバル本社直轄で「チームSDAエンジニアリング」を名乗る。
SDAとは、スバルドライビングアカデミーのことで、スバルのエンジニアが実際にさまざまなクルマを高い次元で走行させ、運転のスキルとクルマの評価能力を高めていこうという社内プロジェクトだ。
「チームSDAエンジニアリング」には、チーム監督やピットでのメカニックなどはもちろんのこと、マシンの開発などを含めてスバルの社員総勢100人近い体制を敷く。
マシンは基本的に、量産型BRZを使い、燃料はWRC(世界ラリー選手権)公認のカーボンニュートラル燃料を使う。
マシンの車内の覗くと、安全対策のため頑丈なロールゲージが装着されているのだが、上部の一部にくぼみがある。
スバルによると「これはアイサイト装着を想定してのこと」という話だった。
目的は? 決勝レースでの使用も想定
こうして始まった、スバル・ワークスチームによるスーパー耐久シリーズへの挑戦。
量産車ベースで過酷な走行をするため、チームとしても想定外の対応をする場面も出てきた。
そうした課題を1つずつクリアしながら、参戦するST-Qクラスで常に上位フィニッシュを積み重ねてきた。
そして、第5戦のモテギ5時間耐久での練習走行で、ついにアイサイトを実装した状態でレーシングコースを走行したのだ。
スバルによると、今回実装したのは量産車で使用しているアイサイトのカメラユニットで、走行中のデータ収集をおこなったという。
筆者から「今後は決勝レースでも使う予定なのか?」と聞いたところ、「(決勝)レースでの活用はまだ分からない」としたうえで、「FCY(レース中に追い越し禁止のスロー走行となる、フルコースイエロー)でのクルーズコントロールの使用を含めて検討したい」という回答だった。
次戦(10月16日決勝の岡山戦)でも、練習走行ではアイサイトを装着した状態で走行してデータ取りを続けるとのことだ。
スバルとしては、カーボンニュートラルに向けた挑戦の中で、スバルが持つ技術にさらに磨きをかけていく。
スバルは、「2030年に死亡事故ゼロを目指す」ことと、「個性と技術革新で脱炭素社会へ貢献していく」ことを企業方針として示している。
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