本当にシルクと呼びたいV型12気筒
執筆:Ben Barry(ベン・バリー)
【画像】ボンドカーになったBMW Z3とZ8、750iL 現行のZ4と7シリーズも 全74枚
撮影:John Bradshaw(ジョン・ブラッドショー)
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
トゥモロー・ネバー・ダイでボンドカーを演じたE38型BMW 750iL。フロントシート背面に旅客機のような折り畳みテーブルと、バニティ・ミラーを内蔵する。時代を超越した高級感だが、フロントシートの間の小さなテレビは、20年以上の時間経過を感じさせる。
車載電話も、今となっては懐かしいアイテム。前後に1機づつある。オーナーのレエシは今も対応SIMを探し出し、1990年代の重役気分を楽しんでいるという。
多くのハイテクは、7シリーズを同時期のW140型メルセデス・ベンツSクラスより立場的に有利にさせたが、ドライバーの満足度も注目に値する。リアシートの貴兄だけが、うれしいクルマではない。
キーをひねると、V12エンジンはそよ風のような優しい声とともに目覚める。極めて滑らかで、ささやくように静かに回転する。あまりの存在感のなさに、車内ではアイドリングしているのかもわからない。
E36型M3の直6と比べるとシリンダー数は2倍あるが、シングル・オーバーヘッドカムの2バルブ。最高出力は殆ど同じだ。
本当にシルクと呼びたいエンジンは、回転域を問わずシームレス。バターのように流暢なATと協働し、流れるように走る。高回転域でのクライマックスは求められていない。
シャシーも同じくらいジェントル。強い上下の入力が加わっても、ボディが緩やかに円を描くようにいなし、落ち着きを乱さない。ダブル・ガラスと厳重な防音処理で外界の音は遮断され、車内はほぼ沈黙状態だ。
507をオマージュしたデザインのZ8
電子制御ダンパーのS EDCのボタンを押せば、ボディは明確に引き締まり、全長5.1m以上ある7シリーズを積極的に操れるようになる。スポーツカーの側面が現れるわけではないが、予想以上にタイトな操縦性と、機敏な身のこなしを味わえる。
とはいえ、立体駐車場をそこまで小気味良くは走れなさそうだ。実際にスタントした7シリーズは、エンブレムを張り直した、軽いV8エンジンを搭載する740iLだったらしい。
さらに2年後、1999年のワールド・イズ・ノット・イナフに登場したのが、E52型のBMW Z8。BMW M1以来となるパフォーマンス・モデルといえ、アストン マーティンと並ぶ活躍を披露した。
エレガントでグラマラスなボディラインを描き出したのは、デンマーク出身のデザイナー、ヘンリック・フィスカー。後にアストン マーティンでV8ヴァンテージとDB9を手掛けることになるのも、何かの運命なのだろう。
BMW Z8は、レトロ・デザインへ注目が集まっていた時代のピークといえる1台。BMWは、当初Z8をZ07コンセプトとして発表した。この名前は1950年代のスポーツカー、507をオマージュしたものだ。
その影響は顕著に表れている。水平方向に長いキドニーグリルとフロントフェンダーのエアベント、クラシカルに短いフロント・オーバーハングと長いボンネットなどは、その好例。シャープに絞られたテール部分も特徴的だと思う。
俳優のジョン・クリーズが、Qのアシスタントとして映画へ登場。ボンドのZ8には、チタン合金のボディにヘッドアップ・ディスプレイを備えると説明している。
エンジンはE39型M5と同じV8
BMW Z8は既存のプラットフォームを流用していない。アルミニウム・ボディの内側には、専用のスペースフレームが組まれている。殆どが手作業で組み立てられたという。
ただし、エンジンルーム後方に搭載されるエンジンは既存品。E39型M5用の、S92と呼ばれる自然吸気のV型8気筒だ。排気量4941ccから、400psと50.9kg-mを発揮する。
シルバーのドアを開くと、ブラックに組み合わされた鮮やかなレッドに目がくらむ。シルバーで仕上げられたスイッチ類が、アクセントを生む。
Z8の着座位置は低い。ステアリングホイールは径が大きいがリムは細身。MTのシフトノブは、手を伸ばしたそこにある。
ダッシュボードの上面は大きくカーブを描き、ドアまで続いている。メーターパネルはダッシュボードの中央。ステアリングホイールの奥には、イグニッションとヘッドライトのスイッチくらいしかない。
BMWの、伝統的なドライバー・フォーカスとは異なるコクピットといえる。独創的とも呼べる。モダンなインフォテインメント・システムは、パネルの後ろに隠せる。
5.0LのV8エンジンは豊満なパワーを滑らかに生み出し、苦もなくスピードを高める。V8らしいビートがドライバーを包む。すべての操作系には、意図的な重み付けが与えられている。
ステアリングホイールはリニアで手応えも好感触。クラッチやブレーキペダルの重み付けも丁度いい。6速MTのシフトレバーもスムーズに動く。
リラックスしたグランドツアラー
シャシーはソフト寄りの設定ながら、Z3よりダンピングは強め。不規則な入力が連続して加わっても、姿勢制御が落ち着かなくなることはない。
穏やかなアンダーステア傾向があり、操縦性には軽快に感じさせるバランスがある。アクセルペダルでのライン調整も難しくない。
理由は不明だが、Z8にはLSDが備わらない。400psのFRスポーツカーなのに。新車当時、自動車メディアはアイデンティティがまとまっていない、と批判することもあった。
ハイパワーなスポーツカーというより、リラックスしたグランドツアラーだったのだろう。LSDだけでなく、Mのエンブレムが貼られることもなかった。能力の80%くらいまでを楽しむ、ロードスターだといえる。
アルプスの峠を攻め込んだり、サーキットの走行会でタイムを削るタイプではない。それを理解していれば、Z8へ強く好意を抱いてしまう。市場での注目も高いままだ。
BMWは1999年から2003年までの間に、Z8を5703台生産した。さらに、50年間分のスペアパーツも。
新車当時の英国価格は、8万6650ポンド。同時期のポルシェ911より3万ポンドほど高かった。現在での取引価格は、最低でも15万ポンド(2280万円)以上。20万ポンド(3040万円)くらい用意しないと、良い例は手に入らない。
BMWにとって永遠に刻まれるべき歴史
劇中では、ヘリコプターから吊り下げられた丸鋸でZ8は半分に切られてしまう。だが、実際の撮影ではダックス・コブラのシャシーに、BMWが提供したボディを載せていた。Z8の本物は、撮影スケジュールに間に合わなかったのだった。
それを知っていれば、2つに切られるシーンもさほど痛々しくは感じられない、かもしれない。だが、切られてしまったのはZ8だけではない。英国諜報部によるBMWのボンドカーとしての登用も、そこで終わりとなった。
2002年、ダイ・アナザー・デイでピアース・ブロスナンがドライブしたのは、アストン マーティン・ヴァンキッシュ。古くからのファンは、安堵したことだろう。
ジェームズ・ボンドがBMWに乗るシーンは、20世紀で見納めとなった。だが1990年代の007出演は、BMWにとって永遠に刻まれるべき歴史になったことは間違いない。
ボンドカーになったBMW 3台のスペック
BMW Z3(1995~2002年/英国仕様)のスペック
英国価格:1万9500ポンド(新車時)/3000ポンド(45万円)以上(現在)
生産台数:27万9273台(ロードスター総計)
全長:4025mm
全幅:1692mm
全高:1288mm
最高速度:196km/h
0-97km/h加速:10.5秒
燃費:11.5km/L
CO2排出量:−
車両重量:1315kg
パワートレイン:直列4気筒1895cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:140ps/6000rpm
最大トルク:18.3kg-m/4300rpm
ギアボックス:5速マニュアル/4速オートマティック
BMW 750iL(1995~2001年/英国仕様)のスペック
英国価格:7万5425ポンド(新車時)/1万2500ポンド(190万円)以上(現在)
生産台数:34万242台(E38型総計)
全長:5124mm
全幅:1862mm
全高:1425mm
最高速度:249km/h(リミッター)
0-97km/h加速:6.5秒
燃費:7.0km/L
CO2排出量:−
車両重量:2048kg
パワートレイン:V型12気筒5379cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:326ps/5000rpm
最大トルク:49.8kg-m/3900rpm
ギアボックス:5速オートマティック
BMW Z8(1999~2003年/欧州仕様)のスペック
英国価格:8万6650ポンド(新車時)/15万ポンド(2280万円)以上(現在)
生産台数:5703台
全長:4400mm
全幅:1830mm
全高:1317mm
最高速度:249km/h(リミッター)
0-97km/h加速:4.7秒
燃費:4.7km/L
CO2排出量:−
車両重量:1585kg
パワートレイン:V型8気筒4941cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:400ps/6600rpm
最大トルク:50.9kg-m/3800rpm
ギアボックス:6速マニュアル
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