ベントレーが1929年製「4 1/2 リットル“チーム・ブロワー”」を復刻させたコンティニュエーションシリーズ「ブロワー」のプロトタイプを発表。設計・製作に要した時間は4万時間
英国ベントレーは2020年12月9日(現地時間)、同社の歴史的なアイコンである1929年製「ベントレー 4 1/2 リットル“チーム・ブロワー”(Bentley 4 1/2 litre“Team Blower”)」を復刻させたコンティニュエーション(継続、持続の意)シリーズ「ブロワー(Blower)」のプロトタイプを発表。また、新ベントレー モーターズ・キャンパスの正式オープンを祝うイベントで、走行シーンを披露した。
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まずは1929年製のベントレー 4 1/2 リットル“チーム・ブロワー”とはどういうクルマだったのかを解説しよう。1919年に「ベントレー モーターズ」を設立したウォルター・オーエン(W.0.)ベントレーは、早々に3リットル(2994cc)直列4気筒OHCエンジンを完成させ、この新ユニットを搭載したベントレー1号車をオリンピアで催された英国モーターショーに出展する。以後、テストと改良を重ねた同車は、「ベントレー 3リットル(Bentley 3 litre)」として1921年に発売された。ベントレー 3リットルは、そのオーナーとなった英国紳士たちのドライブによって数々のレースで活躍。1923年開催の第1回ル・マン24時間レースでは、ベントレーのファクトリーチームから参戦したジョン・ダフ/フランク・クレモン選手組の駆るベントレー 3リットルが堂々の4位入賞を果たし、さらに翌年のル・マンでは同選手組が見事に優勝を成し遂げた。
一方で開発現場では、より高性能で高級なクルマのプロジェクトに着手。新エンジンとして6.5リットル(6597cc)直列6気筒OHCエンジンを製作し、このエンジンを搭載した「ベントレー 6 1/2 リットル(Bentley 6 1/2 litre)」を1926年に市場に放つ。さらに、スポーツモデル用に6.5リットル直6エンジンの2気筒を省いて4気筒化し、排気量を4.5リットル(4398cc)とした直列4気筒OHCエンジンを開発。この新ユニットを載せた「ベントレー 4 1/2 リットル」を1927年に発売した。そして、1928年にはベントレー 4 1/2 リットルを駆ってル・マン24時間レースに参戦。ウルフ・バーナート/バーナード・ルービン選手組の同車が総合優勝を果たした。
高性能モデルとして一気に名を馳せたベントレー 4 1/2 リットル。しかし、これだけでは決して満足しない人物がいた。ベントレー車を駆ってレースで活躍した、いわゆる“ベントレーボーイズ”の一員で、さらにベントレーの顧客と同時に投資家でもあったヘンリー・ラルフ・スタンレー“ティム”バーキン卿である。4 1/2 リットルのさらなる高性能化にあたってバーキン卿が注目したのは、英国のエンジニアであったアムハースト・ヴィリヤースの設計によるルーツ式スーパーチャージャーだった。カムシャフト前端のハウジング内でまゆ型の一対のローターが回転して空気を送る、通称ルーツブロワー(blower=送風機)タイプのスーパーチャージャーを組み込むことによって、4 1/2リットルはレース用チューニングの出力が従来の130bhpから240bhpへと大幅にアップする。当時のベントレーの会長であったウルフ・バ-ナートは、バーキン卿の要請を受け入れて生産を許可し、スーパーチャージャー付き4 1/2リットルを計55台製造。その内の4台が、バーキン卿のレースチームに提供された「ベントレー 4 1/2 リットル“チーム・ブロワー”」だった。
4 1/2 リットル“チーム・ブロワー”は、1930年のアイリッシュグランプリでレースデビューを飾り、熟成を重ねたうえで同年のル・マン24時間レースに参戦。バーキン卿もステアリングを握り、コースレコードを記録しながら、ライバルのメルセデス・ベンツSSKを駆るルドルフ・カラツィオラ選手と激しいバトルを演じる。結果的に、4 1/2 リットル“チーム・ブロワー”とSSKはリタイア。優勝したのはベントレーのファクトリーチームから参戦したウルフ・バーナート/グレン・キドストン選手組のスピードシックス(Speed Six)で、4 1/2 リットル“チーム・ブロワー”は自らを犠牲にしての援護射撃という形となった。
メジャーレースでの勝利はなかったものの、その速さは間違いなく当時のトップクラスで、しかもインパクトの強い走りを演じた4 1/2 リットル“チーム・ブロワー”。その4台の内の2号車(登録番号UU5872、シャシー番号HB3403、エンジン番号SM3902)は、時を経た2000年よりベントレーの所有となる。そして2019年9月、このUU5872を活用した4 1/2 リットル“チーム・ブロワー”の復刻プロジェクトがコンティニュエーションシリーズとして始動。1年3カ月余りが経過した2020年12月、ついにプロトタイプの完成にこぎつけたわけだ。また、ベントレーはこのプロトタイプを「カーゼロ(Car Zero)」と呼称。フロントグリル内には、白色で“0”の数字を刻んだ。
ブロワーを復刻するに当たり、プロジェクトチームはまずUU5872を分解し、各パーツを一覧にまとめ、細心の注意を払って3Dスキャナーで測定し、これをベースにCADによって完璧なデジタルモデルを作成する。新たなパーツは1846個(内230個はエンジンなどのアッセンブリー)にのぼり、さらにネジやインテリアトリムなどの個々のパーツを含めると、実際には数千のパーツを製作した。一方でプロジェクトチームは、オリジナルモデル製造時に使用された設計図や下書き、当時撮影された写真を徹底的に分析。また、1920年代の金型と治具、伝統的な工具に加え、最新の製造技術も鋭意取り入れる。そして、プロジェクトチームのエンジニアやテクニシャンのほか、英国内のスペシャリストやサプライヤーらがタッグを組んで開発に取り組む体制を整えた。
復刻モデルのエクステリアはグロスブラックで塗装し、インテリアはブリッジ・オブ・ウィアー社製のオックスブラッドと称する赤いレザーを採用する。シャシーは英国ダービーに居を構えるイスラエル・ニュートン&サンズ社が極厚鋼板を手作業で成形し、熱間によるリベット留めによって製作。鏡面仕上げが施されたニッケルシルバー地金製ラジエターシェルやスチールと銅板を打ち出し成形したフューエルタンクなどは、英国ビスターヘリテージに居を構えるビンテージ・カー・ラジエター・カンパニーが手がける。また、リーフスプリングとシャックルはウェストミッドランズにあるジョーンズ・スプリング社が製造を担当。ブロワーのシンボルであるヘッドライトは、シェフィールドにあるビンテージ・ヘッドランプ・レストレーション・インターナショナル社が再現した。さらに、アッシュフレームはラドローに居を構えるロマックス・コーチビルダーズ社が製作し、マリナートリムショップにて職人らが最終仕上げを実施。25mに及ぶ人工皮革のレキシン(Rexine)によって周囲を覆う。そして、内装には前述のオックスブラッドと称する赤いレザーを使用し、合わせてシートの内部にはオリジナルと同様に計10kgの天然馬毛を組み入れた。
4.5リットル直列4気筒OHCエンジンに関しては、英国ワトフォードに居を構えるNDR社などの協力を得て製造。アルミニウム製クランクケースに鋳鉄製シリンダーライナー、固定式の鋳鉄製シリンダーヘッド、4バルブ、ツインスパークイグニッション、アルミニウム製ピストンなどで構成し、肝心のスーパーチャージャーにはアムハースト・ヴィリヤース製ルーツ式Mk IV型の精巧なレプリカを組み込んだ。また、車体構造にはプレススチールフレームと半楕円形のリーフスプリング式サスペンション、そしてBentley&Draper製ダンパーの精緻なコピーを採用。さらに、Bentley-Perrot製の400mmメカニカルドラムブレーキやウォーム&セクターステアリングも忠実に再現した。
なお、カーゼロは今後、最高速での走行試験を含めた耐久性テストを順次実施する予定。ユーザー向けのブロワーは12台の限定生産となるが、すでに完売している。
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