運転の楽しさを小さなボディに凝縮
text:Greg Macleman(グレッグ・マクレマン)
【画像】ラリーウエポン フォード・エスコート初代から5代目まで 全50枚
photo:John Bradshaw(ジョン・ブラッドショー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
初代フォード・エスコート・ツインカムがヒットした理由はエンジンにあるが、重要な要因だったのが車重の軽さ。ツインカム・ユニットの性能を引き出してくれる。現代の基準では、110psはパワフルに聞こえないし、0-96km/h加速は9.9秒かかるけれど。
積極的にコーナーを攻めても、ボディロールは最小限。エンジンノイズがそのままバルクヘッドを突き抜け、車内で反響するように充満する。その素晴らしいサウンドに、思わず聞き惚れてしまう。
運転の楽しさを小さなボディに詰め込むとしたら、これが1つの完成形といえる。
高速エスコートの最も重要な存在として、1970年式のRS 1600を挙げる読者もいるだろう。ツインカムのパッケージに、コスワースが設計したBDAエンジンが組み合わされている。RSは、ラリー・スポーツの略だ。
このエンジンは、コルチナ1600用のクロスフロー・ケント・ユニットに、ベルト駆動の2本のカムシャフトを備えるアルミニウム製16バルブ・シリンダーヘッドを載せたもの。サーキット育ちのエンジンだった。
しかしボールの場合は、このエスコート・ツインカムの方が上らしい。高性能エスコートの起源ともいえるモデルだからだ。それにBDAエンジンを載せた、かなりレアなMk2 RS1800も所有している。
2代目エスコートが登場したのは1975年。まったく新設計というより、初代の進化版といえる内容だった。シャシー構造は近似し、ボディ寸法や、1.1Lと1.3L、1.6Lのエンジンも初代エスコートと共有。明らかな違いは、スタイリングくらい。
生産109台という希少な2代目RS 1800
1975年6月に登場したMk2エスコートRS 1800も、先代モデルに近いものだった。すでに初代RS 1600で多くの改良が施されており、2代目でホモロゲーション獲得に必要だったのは、認め印程度だった。
先代が構築した伝説によって、2代目のRS 1800もエスコートの注目を集めるきっかけとなった。「わたしは18歳からRS 1800に憧れていましたが、買うお金はありませんでした」。と振り返るボール。
フォードの工場を出たRS 1800は、109台のみ。希少な生存車両を発見できて、とても幸運だと認める。「このクルマは20年ほど、農家の納屋に乗られずに保管してありました。すべてのボディパネルがオリジナル。鈑金された過去はありません」
「わたしが購入してから、地金の状態まで剥離し、再塗装してあります。当時物のライトやスイッチなど、時間をかけて探してディテールを仕上げました」
オリジナル状態を重視しているボールのコレクションだが、このRS 1800は別格。ショーカーというより、熱い走りを楽しむために仕立ててある。
工場出荷状態のBDA 1835ccユニットは、116psを発揮していた。だがボールはエンジンをリビルドした時に手を加え、馬力を倍近くまで高めている。
ボアアップされ、排気量は2.0Lに拡大。強化部品で内部構造を組み直し、ウェーバー・キャブレターを載せることで、レブリミットは9000rpmに設定されている。
エスコートと切れない関係のRS
増えたパワーを受け止めるべく、フォード・シエラ用のタイプ9と呼ばれるトランスミッションを結合。快適なクルージングに備えて、ハイギアードな5速目も追加してある。
かといって、穏やかにクルージングを楽しめるタイプではない。BDAは、高回転まで周りたがるツインカム・ユニットだ。アクセルペダルは、エンジンに合わせて正しく踏んであげるのが正解。
2代目エスコートRS 1800が輝き出すのは、右足を深く蹴り出した時。特徴的なサウンドが、回転数の高まりとともにボリュームを上げる。ウェールズの森に、ストレートパイプからの咆哮が放たれた。
フォードがラリー選手権から引退した翌年、Mk2の最後がフォードの工場を後にした。1980年、エスコートはモータースポーツとの結びつきを、一旦閉じる。しかしラリー・スポーツ、RSというグレードは、エスコートと切り離せないものになっていた。
1980年にFFとなった3代目が登場すると、翌1981年にはRS 1600iが登場。多くの人の期待に応えた。ラリー・ホモロゲーション獲得のために開発され、販売台数は5000台に設定。需要はそれ以上で、1983年7月の生産終了までに8659台がオーナーへと渡った。
3代目エスコートRS 1600iは世界ラリー選手権のグループAに参戦。リチャード・ロングマンやアラン・カーナウなどが活躍を見せるものの、フォードの期待には届かなかった。
ハンドリングはど驚くほどタイト
Mk1やMk2の華やかなロータス製ツインカムと比べると、Mk3 1600iのエンジンは存在感が薄い。フォード製のシンプルな1597cc 4気筒CVHユニットが載っていた。刺激に欠ける内容だが、コンペティションに向けた興味深い設計が施されている。
ボッシュ製Kジェトロニック燃料インジェクションを備え、ツインコイル点火システムも採用。強化タペットと、アグレッシブなカムシャフトが組まれている。
レース仕様では、公道用のレブリミット、6500rpmをはるかに超える高回転域まで対応。最高出力は162psと驚く数字ではないものの、侮れない強さを発揮した。
サスペンションも、通常のエスコートとは別物。横方向のサポートアームが2本付き、フロントにはセパレートタイプのアンチロールバーを装備する。モータースポーツでは不可欠といえるキャスター角調整が可能で、設定次第でトルクステアを軽減できる。
一方で、公道向けに用意されたRS 1600iは、ラリー・スポーツと呼ぶには物足りない内容だ。Mk1やMk2の活発で激しい加速ぶりと比較すると、Mk3の加速は正直いって遅い。ハンドリングはど驚くほどタイトなのだけれど。
しかし、少なくともボールのMk3エスコートはコンディションが素晴らしい。ショールームに最近まで飾られていたように見える。
オリジナルのストックパーツを使用し、細心の注意を払って丁寧に組み立ててある。トランクリッドのステッカーも、完璧な姿だ。
前輪駆動の競争力アップで選ばれたターボ
ボールが所有する3代目エスコートは、過去に大きなレストアを受けていない。サスペンションはピンと張りがあり、姿勢を正している。走行中の余計なきしみ音や振動なども、一切なかった。
5台のコレクションで一番状態に優れるのは、Mk4エスコートRSターボだろう。後期型のシリーズ2で、走行距離はわずかに2万7900km。英国で1番状態の良い4代目エスコートだと思う。
「以前のオーナーは、このクルマで複数のコンクールを優勝しています。サーキット走行もされていたようですが、わたしがオーナーになってからは走っていません」。とボールが話す。
「すべてのボディパネルが新車時のままで、塗装もオリジナル。レストアを受けずに、長年大切に乗られてきました」
3代目と4代目、1980年代に生まれた2台は、少し違いがわかりにくい。Mk4は、Mk3のフェイスリフト版と考えた方が、理にかなっている。特にシリーズ1のRSターボは、見た目が近い。
ホモロゲーション・スペシャルとして誕生したエスコートRSターボは、グループAとグループNで戦うことを前提に生まれた。費用対効果の高い手段としてターボが選ばれ、エスコートの競争力を引き上げてある。
ベースのエンジンは、3代目と同じ1597ccのCVHユニット。強化タペットにボッシュ製インジェクション、ツインコイル・ディストリビューターなどを採用している。
過給器はギャレット製のT3ターボで、最高出力は133psを獲得。当時のFFモデルとしては初めてビスカス式のLSDが組まれ、トラクションを確保してある。
この続きは後編にて。
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