もくじ
前編
ー M3は変わってしまったのか
ー 想定する購買層を変えたM3
ー 控えめなM3、逞しいRS4
ー 机上ではそっくりな両者
ー M3 「まるで物足りない」
後編
ー M3 乗り心地は格段に向上
ー あれ、RS4は勝ってしまう?
ー エンジンだけの勝負ならM3の勝ち
ー エピローグ 戦いを終えて
M3 乗り心地は格段に向上
走りでも2台の違いはすぐに明らかになった。いや、正確に言うと、走り始める前から両者は別物だった。
スターターボタンを押すと、M3のV8エンジンはRS4よりも静かでスムーズなアイドリングを刻み始める。ブリッピングと同時に車体がわずかに揺れるが、それはまるで自らが途方もないパワーを秘めていることにいささか困惑しているような震え方である。
素晴らしいユニットであるのは分かるのだが、RS4と比べるとやはりスペシャル感が薄い。RS4は車体全体で反応し、そのサウンドはM3よりも大きく、凄みを帯びている。
相対的に大人しい印象は走り出しても変わらない。M3は路面を拍子抜けするほどスムーズに進む。
そのタイヤとサスペンションはBMWのMモデルとは思えないほどの乗り心地を提供してくれる。手慣れなら500mも走らないうちに新型M3の落ち着いた振る舞いがヘタなラグジュアリーカーを凌ぐことに気づくだろう。
それとは対照的にRS4の乗り心地はずっと引き締まっており、サスペンションはM3に比べてかなり硬い。
だがその一方で、RS4のステアリングはM3に比べてシャープかつ正確で、操舵の重みの点でもM3より優れている。M3の場合、そろそろ攻めてみるかと思って飛び込んだ最初のコーナーでいきなり戸惑いが生じてしまう。
フロントが持ちこたえるのか流れそうなのか、ノーズがクリッピングを向くのかそうではないのか、はっきりとわからないのだ。ターンイン時のレスポンスと、コーナー途中でステアリングから伝わってくるフィールの両方に曖昧な部分があって、フロントのグリップを100%信頼しきれないところがある。
その点、RS4は対極にある。
あれ、RS4は勝ってしまう?
RS4の場合、クルマが今どんな状況にあるかを常に正確に把握できる。
コーナーの手前で減速し、ターンインを終えると、荷重の変化が外側のフロントタイヤからステアリングホイールを経て掌にありありと伝わってくる。
高負荷コーナリングの途中でもミリ単位のライン・コントロールが可能だし、脱出時にどのくらいのグリップが残っているかも正確に予測できる。RS4のほうがM3よりもアンダーステアが強く、絶対的なコーナリング・スピードも低い。
限界に達するとフロントが先に流れ出すアウディ特有のキャラも健在だ。だがそれ自体はさほど大きな問題ではない。重要なのは、RS4が自らの意志をはっきりとわかりやすく、ドライバーに伝えてくれる点である。
純粋なコーナリング能力としてはM3のほうが勝っているので、ドライバーが同レベルならほんの少しだけ速くコーナーを回れるかもしれない。しかしながらRS4にはM3ほどガムシャラにならなくても、より多くの能力をシャシーから引き出す歓びがある。
今回のテストの舞台は、南スペインの狭く曲がりくねった山道であった。しかも路面は劣悪。こういう状況下では、RS4のトラクションのアドバンテージが大きくモノを言う。
テストした区間の一部では、M3はそのトラクション能力の限界を露呈してしまった。乾ききった路面で3速にホールドした状態であったにもかかわらず、トラクションコントロールの警告灯はほとんど点きっぱなしだったのだ。対するRS4は、同じセクションで警告灯が点灯するどころかいたって平穏で、なんの不安もなく突っ走ることができた。
M3にとってはさらに悪いことに、直線路ではRS4のほうがほんの少しだけ速い。2500~5500rpmぐらいの中低速域(つまりもっとも常用する回転域)でのパンチもRS4に歩がある。
さらにRS4の6段ギアボックスはM3のそれよりも操作が軽快で、クラッチも扱いやすいときている。M3はどうにも分が悪い。
エンジンだけの勝負ならM3の勝ち
M3がRS4に唯一反撃できる領域があるとすれば、レブリミット手前の2500rpmだろう。リミットはRS4が8250rpm、M3が8400rpmと大差ないが、ぎりぎりまで回したときの感覚は、やはり出色である。RS4のエンジンを「よくできたV8」とするならば、M3のそれは「歴史に残る傑作V8」と言っていい。
もちろんRS4でもレッドラインまで回せば、それなりの快感と心地いいエグゾーストノートが味わえる。だがM3では最後の1000rpmで、背筋がゾクゾクするような強烈な刺激と興奮が訪れるのだ。
しかし、たったこれだけの要素では、M3が最終的に敗北を免れることはできない。Mディビジョン謹製のエンジンは、ロードカーのボンネットに収められたV8としてはこれまでにないセンセーショナルなユニットである。
特に3速ギアで8400rpmまで回したときは心からそう思う。だが、それ以外のほとんどの要件においてRS4はM3と互角であり、RS4には明らかにM3に勝る部分が複数ある。
速さ、室内の広さ、ルックスの魅力、走行中のフィールとインフォメーションの豊富さである。トータルで見るとM3の敗北は明らかだ。
ただし両雄の勝負はこれで終わりではない。実は物語の最終章はまだ語られていないのだ。
なぜなら、われわれはBMWがすでにM3よりもハードでスポーツ指向モデルを準備していることを知っているからだ。
先代M3のCSLは、E46型M3のデビューから4年後というモデルライフの最後期に登場した。だがBMWが非公式に認めるところでは、新型M3のCSLはもっと早い段階で姿を現しそうなのである。
そしてそれはBMWのMモデルの伝統に最も忠実なバージョンになるはずだ。コンバーティブルとサルーン版も遠からずお目見えする予定だし、DSGスタイルのツインクラッチ式ギアボックスも来年にはオプションに加わる。
だが、少なくともしばらくの間、アウディRS4がこのクラスの王者であるCSLの登場に期待しよう。
エピローグ 戦いを終えて
新型M3はRS4との対決で敗北を喫した。この現実から逃れることはできない。今年最大の大番狂わせだ。
RS4は極めてデキのいいクルマだが、われわれはM3のほうがもっといいはずだと期待していた。過去のM3の戦歴を見れば、そうなって当然と思えたからだ。
初代M3の時代から常に独走を続けるM3にアウディは挑戦し続けてきた。そして、われわれが比較テストを行うたびに、M3はアウディをことごとく退けてきた。
ハンドリング、ステアリングフィール、ブレーキ、乗り心地、エンジン……。すべてにおいてM3はアウディの競合モデルより秀でていた。
2006年、先代M3の最後の進化型モデルとアウディRS4の戦いにおいてようやく実力が近づき、それでもM3が僅差で勝利した。
だとすると、V8を積んだ今度のM3が直6搭載の先代M3よりも劣るクルマだということなのだろうか。その結論は貴方自身で考えていただきたい。
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