Art(芸術)とFuture(未来)から成る造語
ここ数年、プレミアム・スポーツカーの世界は、平穏ではなかった。ロイヤルカスタマーの存在やモデル群の持つ魅力で、困難な数年間を生き抜いている上級ブランドも少なくない。
【画像】スーパーカーもHVの時代 マクラーレン・アルトゥーラと先代のP1 296 GTBにNSXも 全124枚
マクラーレン・グループがパンデミックに揉まれながら進めたのは、プラグイン・ハイブリッド(PHEV)のスーパーカー、アルトゥーラの開発。いよいよ、ショールームへ並ぶ準備が整ったようだ。
野心的な技術を詰め込み、フロントノーズからテールエンドまで完全に新しい。
英語表記で「Artura」となるモデル名は、Art(芸術)とFuture(未来)を組み合わせた造語だという。デザインやパッケージングには、その名の由来が見事に展開されている。高い技術力によって、実際のカタチに具現化されている。
単に過去のモデルを置き換えるだけの存在ではない。
電動化技術を搭載したスーパーカーの世界へ、マクラーレンというブランドやラインナップへ惹かれてきたドライバーを誘う、極めて重要なモデルだといえる。
基礎骨格をなす、カーボンファイバー製のタブシャシーから新しく開発されている。自ら設定した目標に対し、同社ならではの技術力で応えることができれば、素晴らしいクルマになるだろうと筆者も期待してきた。
カーボン・タブシャシーにマルチリンク・サス
関係者によれば、アルトゥーラは同社にとっての新しい「章」ではなく、まったく別の「本」だと表現されている。
グレートブリテン島の中央、シェフィールドに用意されたコンポジット・テクノロジー・センターで製造される、最初のモデルだからだろう。
このセンターで設計され製造されるカーボン・タブシャシーは、剛性が高いだけでなく、非常に軽量。アルミニウム製のサスペンションとパワートレイン用サブフレームを支える、コア構造もなす。
サスペンションは前後でマルチリンク式が採用された。従来の570Sなどは、ダブルウィッシュボーン式だった。コイルスプリングとアダプティブダンパーで構成されるが、従来のように、相互リンクされたシステムは採られていない。
ブレーキには、カーボンセラミック・ディスクが標準で組まれる。ハブはアルミ製で、パワーステアリングは電動油圧システムとなるが、高効率なものだという。
V6ツインターボ+96psの駆動用モーター
アルトゥーラのキャビン後方、バルクヘッドのフロア部分に敷かれているのは、7.4kWhの容量を持つ駆動用のリチウムイオン・バッテリー。
厚みは小さなブリーフケース程度で、5つのモジュールで構成されている。その上に66Lの燃料タンクがある。
燃料タンクの後方に、新設計の3.0L広角V型6気筒ツインターボ・エンジンが位置する。軽量化だけでなく、高効率や低重心化にも配慮されたミドシップのパッケージングで、マクラーレンの目標がしっかり達成されたといっていい。
パワートレインの開発責任者、リチャード・ジャクソン氏にお話を伺った。「フラット6だとしたら、クルマの重心高が上がっていたと思います。また、5枚ではなく7枚のベアリングが必要になることで、重さも増していたでしょうね」
ドライサンプのV6エンジンはターボのレイアウトでも有利といえ、ダイレクトな吸排気の取り回しも可能になる。実際の想定より低い位置に、クランクシャフトを据えることもできたという。
駆動用モーターは、薄型のアキシャル・フラックス型と呼ばれるのもので、最高出力96psと最大トルク22.9kg-mを発揮。新設計の8速デュアルクラッチATの下流では、メカニカル・アクティブ・トルクベクタリング機能を備えたリア・デフが待ち構える。
ボディパネルは軽量なアルミ製。570S比で全長は数mm伸びているものの、全幅は縮められた。イーサネット通信を用いた車載ネットワークを採用することで、ワイヤーハーネスの重量低減も実現している。
現在唯一のライバルより100kg軽い
技術者の苦労の結果、PHEVシステムとしては130kgの重量があるものの、アルトゥーラ全体ではその50%以上を相殺。最終的な車重は1498kgで、ハイブリッドではないモデルから46kgの増加に留めた。
マクラーレンの推定では、PHEVスーパーカーとして現時点で唯一のライバルより、100kgも軽いとしている。フェラーリ296 GTBのことだ。
インテリアデザインは、人間工学を最適化させ全面的に新しい。新世代のインフォテインメント・システムも実装する。
ドライバーはアルトゥーラの低い位置に、正面を向いて座る。シートは標準のコンフォート・タイプのほか、軽量なクラブスポーツ・バケットも選べる。肘周りも頭上も、空間にはゆとりがあり快適だ。
前方視界は優秀。スイッチ類が一切ない、シンプルで丸いステアリングホイールが適切な位置に伸び、その奥にはワンピースのアルミ製シフトパドルが備わる。
モニター式のメーターパネルはステアリングコラム側に固定され、ステアリングホイールの位置を調整すると一緒に前後へ動く。その情報も、リムに隠れることなく見やすい。
メーターパネルの両端には、パワートレインとサスペンションの設定スイッチが付く。ステアリングホイールから完全に手を放したり、視線をそらすことなく、必要なモード選択が可能だ。
右の指先を伸ばすと、エレクトリックとコンフォート、スポーツ、トラック(サーキット)とうパワートレイン・モードを切り替えられる。左の指先を伸ばせば、ダンパーの減衰力を選べる。
この続きは後編にて。
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