今以上に自由すぎた昭和の改造車ムーブメントを振り返る
1970年代後半から1980年代の中頃まで、独特のセンスで盛り上がった「改造車」というムーブメント。そのルーツを探ると「グラチャン」や「レーシングカー」へと辿り着くのですが、じつはもうひとつ大きな影響を与えていたのが1975年に公開された映画「トラック野郎」に登場した「デコトラ」です。シートデッキやアンドンなどド派手な装飾を施したデコレーショントラック(通称:デコトラ)は、東京パラリンピック2020の開会式にも登場するなど、日本を象徴する独自の文化として発展を遂げて来ました。
低けりゃエライで当然「違法改造」だらけ! 「ノーサス」まで誕生した「シャコタン黎明期」の衝撃
当時の改造車にデコトラ文化が与えた影響は大きく、内装のチンチラ(金華山)やボンボリ(ボンボン)、シャンデリア、水中花のシフトノブ、マーカーランプ(集会ホタル)、土足厳禁用の下駄箱、ヤンキーホーンなどはデコトラの流れを汲んでいるのです。
その時代、高校や大学に進学しない若者たちは建設業や運送業、ガソリンスタンド、自動車関連企業などで働くことが多く、トラックが身近にあったこと、そしてカスタムパーツを販売するカーショップがデコトラ用パーツを取り扱っていたことも、影響を与えた原因のひとつだと推測できます。今となっては40年以上も昔の話ですが、ここでは当時の記憶を振り返りながら懐かしのドレスアップパーツを思い出してみましょう。
懐かしのドレスアップ01/角目&ツリ目を支えた解体屋のセドグロたち
ハコスカ、ケンメリ、ローレル(ブタケツ)など、丸目4灯から「角目」や「ツリ目」と呼ばれる角型2灯ヘッドライトへのカスタムが流行しました。角目への交換から始まったカスタムですが、自己主張を競い合った結果「ツリ目」と呼ばれる角度を付けた姿へと過激さを増していったのです。
角型ヘッドライトはセドグロと呼ばれる330型セドリック/グロリア用が使われることが多く、解体屋から廃車になったセドグロのヘッドライトが消えるほどの品不足になったそうです。
懐かしのドレスアップ02/トンネルでは必ず鳴らすミュージックホーン
当時、ホーンを交換するのは初歩のカスタムとして人気がありました。電子ホーンやモーモーホーン、そしてトレンドだったのが「ミュージックホーン」と呼ばれるラッパです。お馴染の「パリラリ、パリラリ」は3連ホーン、5連ホーンはメキシコ民謡の「ラ・クカラーチャ」、6連ホーンは「ゴッドファーザー愛のテーマ」となり、そのなかでも5連のラ・クカラーチャは曲名を知らずに使っていたという不思議な現象が起きていました。当時、聞き馴染みのないメキシコ民謡が使われたのかは……いまだに謎です。
懐かしのドレスアップ03/目指したのはラブホ的インテリア!?
デコトラの影響を大きく受け、スナックやラブホテルのような内装へと過激さを増していった改造車たち。紫やワインレッドのチンチラや金華山をダッシュボードやドア、天井に貼り、室内灯にはシャンデリアや水中花、毛バリが封じ込まれたシフトノブ、そしてサッシュの内側には可愛く並ぶボンボンを取り付けるのが王道でした。
フィニッシュは、シガーライターに差し込む行燈やシャンデリアのようなサブライト付きのライター。タバコを差し込むだけで火が着けられるというスグレモノですが、遠い記憶を辿ると「スターブライト」という商品名だったような気がします。
懐かしのドレスアップ04/憧れのハイフラでスピード感を演出!
「ハイフラ」ことハイフラッシャーと呼ばれるカスタムパーツ。ウインカーの配線にバイパスさせ、コントロールユニットを操作することで、ウインカーの点滅速度を変更できるという謎アイテム(笑)。スイッチを切り替えると二拍子や三拍子にも変更できるアイテムもあり、ウインカーの点滅までも個性に変えてしまうという当時の発想力は素晴らしいものでした。ウインカーを早く点滅させることでスピード感を演出して速く走っている気分が味わえたのですが、当時を振り返ってみると「何の意味があったのだろう」と思わせるユニーク商品です。
懐かしのドレスアップ05/カーコンポとグライコで近未来感を堪能
1980年代はカーコンポ全盛の時代。とくにパイオニアの「ロンサムカーボーイ」とクラリオンの「シティコネクション」の2強となり、グラフィクイコライザー(通称:グライコ)や音楽に反応してゲージが上下するだけのパワーレベルインジケーターが宇宙船のコックピットのような近未来感を楽しませてくれました。現在のようにカーオーディとは呼ばず「カーコンポ」と呼ばれた古き良き時代、エマニエル坊やのダンスやライ・クーダーの名曲「ゴー・ホーム・ガール」が頭から離れない人には懐かしい思い出です。
【まとめ】さまざまな謎カスタムも今思えば楽しい記憶であった
当時は自分でDIYするのが当たり前の時代。簡単に取り付けられる気軽なアイテムも多く、今回ご紹介した商品のほかにも山本寛斎さんがデザインしたファイヤーガールのシートエプロン、吊り革、後付けパワーウインドウ、ナックルライン、バイバイハンド、警察無線機、フェンダースポイラー、ビタローニミラー、偽オイルクーラーなどなど思い出してもキリがありません。すでに40年以上も昔の話ですが、当時20歳だった人は、すでに還暦を迎えていることでしょう。
「昭和」という古き良き時代の情景……「改造車」は自動車産業にとっては黒歴史であるものの、当時の不良少年にとっては楽しき記憶でもあるのです。
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