フォーミュラ1 レジェンドのヘルメット
text:Kazuhide Ueno(上野和秀)
photo:RMSotheby’s Auctions
近代F1グランプリのグレーテスト・ドライバーといえば、マクラーレン・ホンダで伝説を創り上げたアイルトン・セナ。そして、フェラーリに黄金時代をもたらしたミハエル・シューマッハーであることに異論を唱える者はいないだろう。
どちらも圧倒的な速さだけではなく、超越したドライビング・テクニックからマシンの開発能力まで並々ならぬ才能を見せつけ、複数のワールド・チャンピオンシップを手にしている。
そんな2人が使ったヘルメットが、RMサザビーズ・パリ・オークションに出品された。
セナとシューマッハーの直接対決は実質2シーズン半で終えてしまったが、パリでのオークションで競うことになったのは神の悪戯だろうか。
セナのヘルメット 隠された歴史
今回出品されたセナが使用したヘルメットは意外なヒストリーを持っていた。
アメリカのヘルメット専門メーカーであるベル社は、初めてフルフェイス・タイプの「ベル・スター」を送り出したことで知られる。セナが1989年に使用していたのは4輪レース用として開発されたAFX-1のプロトタイプだった。
実はこのヘルメットは開発用のプロトタイプで、F1とインディカーで活躍したマリオ・アンドレッティが当初はテストで使用。その後、セナ用にリビルドされて、お馴染みのブラジリアン・カラーにリペイントされるという意外なヒストリーを持つ。
1つのヘルメットを使いまわすということは現在では考えられないが、まだのどかな時代だったようだ。
1990年シーズンで実際にセナが使用したもので、メモラビリアの権威であるコレクター・スタジオによるベル社の社長のサインが記された証明書が付属する。
裁判沙汰 シューマッハーのヘルメット
出品されたもう1つのヘルメットは、ミハエル・シューマッハーが2001年のマレーシアGPで優勝した際に使用していた歴史的価値の高い逸品だ。
ミハエル・シューマッハーは永らくベル社のヘルメットを使用してきたが、安全性の高いドイツのシューベルト社製ヘルメットに切り替える意向だった。
しかし2001年シーズンは既にベル社と契約を済ませていたため、開幕戦のオーストラリアGPはベル社のヘルメットで参戦するが、終了後に乗り換えることを決意する。
契約を一方的に解消したことによりベル社から告訴され、シューマッハー側が敗訴。高額な違約金を支払うことで決着がついたという。
オーストラリアGPの2週間後に開かれた第2戦マレーシアGPから、シューマッハーはシューベルト社のヘルメットに切り替える。
ここで使用されたのがシューベルトQF1で、おなじみのカラーリングにされていたのは言うまでもない。2001年当時はまだタバコ広告の規制が緩かったため「Marlboro」のロゴが誇らしげに描かれていることに時代を感じさせられる。
こうして初レースとなるマレーシアGPでシューマッハーはトップでフィニッシュを果たし、シューベルトにデビューウインをプレゼントする。その主役がこのヘルメットだったのである。
対決の結果は?
オークションを終えてみるとセナのヘルメットが5.04万ユーロ(約610万円)、シューマッハーのヘルメットが2.4万ユーロ(約291万円)という結果となった。
セナは今も伝説の人であり、その座に揺るぎはない。
一方でシューマッハーのヘルメットは、現役のピーク時には500万円以上で落札されていたが、引退後のアクシデントによって人々の記憶から薄れつつあるのかもしれない。
こうしてパリでの場外対決はセナの勝利で終えることとなった。
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