ポルシェ911は当然の選択肢
人生は短い。時々立ち止まって周囲を見渡さないと、大切なものを見逃してしまう。俳優のマシュー・ブロデリック氏が主演を演じた1986年の映画、「フェリスはある朝突然に」の冒頭のような始まりだが、それを実感されている読者もいらっしゃるだろう。
【画像】1度は乗りたい2+2 ポルシェ911 ルノー・アルピーヌ フェラーリ・モンディアル ロータス・エクセル 現代版モデルも 全146枚
この映画が撮影された頃、暮らしのなかにコンピューターは入り込んでいなかった。巨万の富を得ることになるビル・ゲイツ氏は、5.25インチのフロッピーディスクを1枚手にし、タイム誌の表紙を飾っていた。
それでも新しい産業が生み出され、技術的な変化は始まっていた。コンピューターが導入された金融市場は、出来高取引の小さな利益を求めて躍動していた。人々は良く働き、よく遊び、多くのモノを求めた。
携帯電話は巨大なステータス・シンボルで、ウェッジシェイプのスポーツカーは実用性を増していった。1世代前のスーパーカーの領域まで、性能は迫ろうとしていた。
1980年代半ば、忙しい金融マンが日常的に乗れるスポーツカーを求めるなら、ポルシェ911が当然の選択肢だった。既に20年の進化を経ていたシュツットガルト生まれのモデルは、徐々に価格も上昇していたが、ライバルが及ばない魅力を放っていた。
有能な走りをメディアは高く評価し、ル・マン24時間レースでも活躍。ポルシェは揺るがない名声を掴んでいた。
2+2のアルピーヌとモンディアル
1984年には、一層高性能な911 カレラ3.2が登場。930 ターボに似せたスポーツ・エクイップメント仕様が設定され、話題をさらった。
英国が金融改革を実施した1986年当時の価格は、3万2849ポンド。金融トレーダーが得ていたボーナスの範囲に収まる金額だった。
他方、その頃のルノーはF1で名声を掴んでいた。1977年に投入されたEF1 V型6気筒ターボエンジンは大成功を導き、市販車ラインナップの殆どにもターボが設定されるほどのマーケティング効果を生んでいた。
1984年、ルノー・アルピーヌ A310の後継として登場したのが、リアエンジンのアルピーヌ GTA V6ターボ。シルエットは先代譲りながら、最新デザインへアップデートされ、現代的な2+2スーパーカーに対するルノーの大胆な回答といえた。
当時の英国価格は2万3635ポンド。ポルシェより約9000ポンドも安い設定は、魅力の1つでもあった。
それに先駆けて、フェラーリは308の姉妹モデルとして、ミドシップの4シータークーペ、モンディアルを1980年に発売。マラネロの熱いDNAは新オーナーのフィアットによって揉まれ、パッケージングが練られ、幅広い層へ向けた訴求力を得ていた。
ピニンファリーナによるスタイリングは端正で、落ち着いていた。V型12気筒エンジンのFRモデル、400iのひと回り小さい後継車的なイメージは拭えなかったものの、40年前でもフェラーリは成功者の象徴の1台だった。
英国価格は3万7950ポンド。数年に及ぶ納車待ちのリストができた。
スーパーカーと並んでも見劣りしない存在感
グレートブリテン島では、ロータスを創業したコーリン・チャップマン氏が思い描いたロードカーの究極形、エクセルが1982年に誕生。エスプリの実用版として、1974年の2代目エリートを発展させた、フロントエンジンで2+2のグランドツアラーだった。
F1で得た名声を公道用モデルへ展開し、収益性の高いビジネスモデルを構築するという、ロータスの期待を背負っていた。英国価格は1万7980ポンドとお手頃で、ダイナミックな走りが自動車評論家の称賛を集めた。
プロポーションは低くワイドで、スタイリングはウェッジシェイプ。価格帯が遥か上のスーパーカーと並んでも、見劣りしない存在感があった。
これら4台で、最も大きな衝撃をもたらしたのは1984年の911 カレラ3.2かもしれない。使い込まれたボディシェルに従来的なトーションバー・サスペンションが組まれていたが、8割の部品が新しいと主張された3.2L水平対向6気筒エンジンが載っていた。
内部構造だけでなく、マニフォールドなども新設計。最高出力233ps、最大トルク28.8kg-mを発揮し、滑らかで粘り強い走りを実現していた。ブレーキも大径化され、フラッグシップの911 ターボに迫る能力すら秘めていたといえる。
911 カレラ3.2のエンジン制御を司ったのは、ボッシュ・モトロニック2と呼ばれる電子システム。鋭いレスポンスと、優れた燃費が両立できていた。圧縮比は10.3:1で、1980年式911 Sの8.6:1から大幅に高められていた。
1980年代のドライバーズカーとして最高の1台
オプションに用意されたのが、スポーツ・エクイップメント(SE)・パッケージ。鍛造のフックス・アルミホイールに、ハイグリップなピレリP7タイヤが組まれた。前後のサイズは205/55と225/50で、現代水準では細身だが、印象的なスタンスを生んでいた。
今回ご登場願ったガーズ・レッドの911 カレラ3.2 SEは、1989年式。5速マニュアルのトランスミッションは後期型のG50ユニットで、現オーナーのチャールズ・ポーター氏は「往年の金融トレーダーの夢のクルマ」だと表現する。
インテリアはアイボリー・レザーで、シートにはレッドのパイピングがあしらわれている。「これまで、911を欲しいと考えたことはありませんでした。このクルマを偶然見かけ、1度の試乗で心が奪われたんです」。と打ち明ける。
1980年代のドライバーズカーとして最高の1台を運転することは、現在でも非常に特別な体験になる。素晴らしい報酬を今でも与えてくれる。
スポーツシートは身体にフィットし、ダッシュボードの望ましい位置にメーターが並ぶ。ボンネットは低く傾斜し、両脇にヘッドライトへ続く峰が伸びる。素晴らしくドラマチックで、人間工学的には不充分な車載機能の操作系を忘れられる。
ステアリングホイールやペダルには、適度な重さが伴う。ダンパーは滑らかに動き、しっかり衝撃を吸収。フラット6エンジンは、低回転域で迫力のある低音を鳴らす。発進直後から、ソリッドなボディシェルとの統一感がわかる。
この続きは中編にて。
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