V8ディーゼルからV8ガソリンへスイッチ
text:Simon Davis(サイモン・デイビス)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
思想的な分断が顕になっているアメリカだが、とかくクルマの燃料に関しては、考えが一致している。選択は1つ、ガソリン。軽油を選ぶ人は少ない。
そんな嗜好を受けて、アウディはSQ7の心臓をV8のディーゼルから、4.0LツインターボのV8ガソリンへとスイッチした。ポルシェ・カイエン・ターボからベントレー・コンチネンタルGTまで、共通して採用するユニットだ。
アメリカの人たちは歓迎するだろう。一方でアウディは、Sのエンブレムが付くエグゼクティブ・モデルのディーゼル化を進めていた。その流れにも変化があるのかもしれない。
アウディRS Q8の仕様より若干出力が落とされているものの、パワーに不足はない。最高出力507ps、最大トルク78.3kg-mが与えられている。トランスミッションは8速ATで、四輪を駆動する。
四輪操舵システムも標準装備。電圧48Vによるアクティブ・ロールコントロールと、アウディ・スポーツ・リアデフもオプションで選べる。大人7名分の空間も、ちゃんとある。
そのすべてが搭載された試乗車は、極めて滑らかなドイツの一般道で、見事な仕上がりを体感させてくれた。22インチのアルミホイールにエアサスが組み合わされ、滑らかに転がる精度の高さと、優れた乗り心地を叶えている。
車内で感じられる乱れといえば、荒れた路面を低速で通過したとき。それでも遠くの振動が、わずかに感取される程度。
常識の範囲でスピードを上げても、風切り音はほとんど立たない。ロードノイズも同様。管理の悪い英国の道では、どうだろう。
想像以上に強いV8エンジンの存在感
SQ7には、ソフトに路面を処理する、独特の味わいがある。垂直方向の入力を確実に吸収し、揺れを見事に抑え込む。あまりにも快適だから、10時間ほどの長距離ドライブも、一息でこなせそうだ。
インテリアは、上級のアウディへ期待するとおり高級感があり、空間も広々。シートもステアリングホイールも調整幅は大きく、運転席からの視界も良好。
インテリア・デザインはスマートにまとめられている。ダッシュボードやドアパネルには、カーボンファイバー製の化粧パネルがあしらわれる。適度な厳格さがあり、モノトーンにコーディネートされた車内は、近年のアウディの高級モデルに共通する特長だ。
2列目シートの空間も余裕。2列目を前方にスライドさせれば、3列目にも大人が座れるだけの空間を生み出せる。少し乗り降りはしにくいけれど。
ダッシュボード中央には2面のタッチモニターが収まる。インフォテイメント・システムの表示はシャープで、反応も良い。運転中の操作には、慣れが必要だろう。オプションで選べる、バング&オルフセン製オーディオの音質にも感心する。
SQ7は、シリアスなほどに速い。回転数を2500rpm以上に引き上げ、ターボブーストを高める。猛烈なトルクの波と、雷鳴のようなサウンドが、ドライバーを襲う。
一部のRSのエンブレムが付くアウディより、エンジンの存在感が強いことも印象的。ダイナミック・モードでアクセルペダルを踏み込むと、低音域が強調された唸りで車内が満たされる。RS6アバントや、RS7スポーツバック以上ではないだろうか。
車重を感じさせないコーナリング
SUVだという意識が、そう感じさせるようにも思える。見た目以上にダイナミックだ。一方で、ディーゼルの方がパワフルだったと感じるドライバーも、いるかもしれない。
車重は2265kgもあるが、コーナリング時の質量の制御にも感服する。ダイナミック・モードでアクティブ・アンチロールバーを引き締めれば、SQ7は速度を保ったままカーブを抜けていく。
ステアリングの反応スピードや重み付けも適正で、タイヤに掛かる負荷状況を手のひらで感じ取れる。ドライバーへ、操る自信を与えてくれる手応えだ。
軽くない車重と、大きなボディだから、高速ドライブはSQ7最大のストロングポイントではない。しかし、圧倒的なトラクションと、ニュートラルな操縦性のバランスを備え、想像以上に小気味よく運転できる。
手に汗をかいて必死に操る、という感覚は少ない。少なくとも、車線の幅が広く、視界の良い道では。
7万8190ポンド(1063万円)という英国価格も、ライバルと並べば訴求力が高い。V8エンジンを搭載したポルシェ・カイエンGTSは、約7000ポンド(95万円)高い。 BMW X5 M50iはわずかに安いものの、7列目のシートは選べない。
7シーターのBMWとなるとX7 M50iがあるが、英国価格は9万2975ポンド(1264万円)もする。メルセデスAMG GLE 53なら7シーターで、7万5060ポンド(1020万円)と並ぶ。だが、6気筒のマイルド・ハイブリッドはSQ7ほどの特別感はない。
SQ7の並外れたタレント性
アウディSQ7の並外れたタレント性に、誰しもが驚くに違いない。圧倒されるほどの動的性能を備えつつ、白眉の洗練性を備えた長距離ツアラーでもある。
気持ちを高ぶらせてくれる道に出会えば、優れたグリップ力と操縦性、パワーで、ドライバーを楽しませてくれる。
7シーターのSUVに507psは、少々過剰。しかし、7名で快適に移動できるという事実は、SQ7の存在価値をさらに高めるものだ。
ただし、ディーゼルからガソリンへスイッチしたことで、アウディSQ7の燃費は相応に悪化している。今回の試乗では平均で5.3km/Lしか走らなかった。2016年にディーゼル版を試乗した時は、8.5km/Lほど走っている。その点は、忘れずに。
アウディSQ7(欧州仕様)のスペック
価格:7万8190ポンド(1063万円)
全長:5069mm
全幅:1968mm
全高:1668mm
最高速度:249km/h(リミッター)
0-100km/h加速:4.5秒
燃費:8.2km/L
CO2排出量:276g/km
乾燥重量:2265kg
パワートレイン:V型8気筒3996ccツイン・ターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:507ps/5500rpm
最大トルク:78.3kg-m/2000-4100rpm
ギアボックス:8速オートマティック
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