アフリカで必要とされた自動車整備士のキャリア
世界の紛争地域や被災地域に赴き、医療を中心とした人道支援を行う「国境なき医師団」(Medecins Sans Frontieres、以下MSF)、そのなかに日本人の自動車整備士がいます。
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MSFは「医師団」といえども、実はスタッフのおよそ半分は非医療関係者で、自動車整備士は車両を使った日々の活動を支えています。クルマが破損しかねない危険をともなう場所に医療を届けられるのも、彼らの存在があってこそでしょう。
なかでも「日本人の整備士」は、とりわけ重宝されるといいます。なぜなら、MSFが世界で使う車両のほとんどは、「ランドクルーザー」「ハイラックス」「ハイエース」といったトヨタ車だからです。
今回、そのMSFの日本人自動車整備士、川内勇希さんに話を聞きました。川内さんはトヨタ系ディーラーでの整備経験を持ち、2018年6月にMSFへ参加し、これまでパプアニューギニアとスーダンに赴いています。
――なぜMSFに参加したのでしょうか?
もともと海外で仕事がしたいと思っていて、まず「青年海外協力隊」としてアフリカのタンザニアで自動車整備学校の講師として活動し、その後、MSFへ参加しました。青年海外協力隊を終えたあとは日本の会社に就職するつもりで、内定ももらっていました。しかし、MSFで自分の職種の求人があることを知り、「ここで就職すると冒険ができない、もう1回チャレンジしてみたい」と、内定を断ってその門を叩いたのです。
というのも、アフリカにおける自動車整備の環境があまりにもひどく、大きな衝撃を受たからです。アフリカではクルマの数は増えているものの、運転手の職につく人ですら、点検整備の知識はゼロといっても過言ではありません。日本で自分が整備士として置かれていた環境がいかに恵まれていたかと感じるとともに、タンザニアで自分が教えていた自動車整備の仕事が、現地で必要とされていることがうれしかったです。
「部品の確保」が命を左右する
――MSFの派遣先では、どのような仕事をされていたのでしょうか?
最初に派遣されたパプワニューギニアでは車両の運用管理がメインで、消耗部品の調達や管理のほか、現地スタッフに日常的な点検整備を教えることも行っていました。スーダンでは整備がメインでしたが、現地で雇った運転手などのスタッフに、簡単な点検整備のノウハウを教えていく点は同じです。
――世界の道なき道を行くイメージがありますが、クルマの傷みも激しいのでしょうか?
そうですね。現地はアスファルトの道路であっても石や段差が多かったり、特に雨期には大きな水たまりや、ぬかるみが随所で発生します。このためサスペンションのブッシュ(衝撃を吸収するゴムパーツ)のへたりが早いなど、ステアリング関係への影響は特に大きいでしょう。
交換する部品は、現地調達だとフェイクパーツ(贋物)が出回っているため、フランスのMSF本部から取り寄せるケースが多いです。お金はかかりますが、こうした部品は身の安全に直結するため妥協しません。医療で使う薬でも同様で、現地の薬は極力使わないようにしています。とはいえ、現地政府の方針で海外からの部品輸入に制限がかけられるようなケースもあります。
――なぜトヨタのクルマが使われるのでしょうか?
トヨタ車というより、とりわけ「ランドクルーザー」です。私が赴いた国々では「トヨタ」イコール「ランドクルーザー」を指すほどで、MSFの活動も多くは「ランドクルーザー」を使います。
「ランドクルーザー」は壊れにくく、どこでも走れるという悪路走破性にも定評があります。アフリカでは、日本から入ってくる10年から15年落ちの車両を、200%の輸入税を払ってでも買い求める人が少なくありません。そのためトヨタのディーラーがある国も多く、MSF本部からの部品取り寄せが難しい場合に、現地調達も比較的しやすいのです。「ランドクルーザー」の信頼性は、ひとつひとつの部品の精度にあると私は考えます。だからこそ信頼できる純正部品の確保が重要なのです。
「トヨタ以外」を使ったら大変だった
――ほかに大変だったことはありますか?
スーダンに派遣された際は、人気のある「ランドクルーザー」だと盗難の恐れがあるため、似たようなクルマとしてランドローバーの「ディフェンダー」を使っていたのですが、部品の調達に苦労しました。首都にもランドローバーの部品を扱う店がなく、純正部品が手に入らないのです。代替の部品を私以外の誰かが受け取ると、それがどの部品かもわからなくなり、様々なパーツを外しては「この部品かな」と合わせていました。
――現地での暮らしはいかがでしょうか?
それほど苦労は感じませんでした。海外からのスタッフには住宅も提供され、食事スタッフがつく場合もあります。先ほどお話したスーダンなどがそうですが、海外からのスタッフにとって危険な地域は、陸路で移動せずヘリなどで現地入りするといった独自のセキュリティ基準があり、常に危険と隣り合わせというわけでもありません。
――仕事のやりがいは、どのようなところに感じますか?
「必要とされ、それに応えられること」です。現地では簡易な整備場を自分でつくったり、現地人のスタッフに「なぜオイル交換が必要か」という点から教えたりと、苦労はたくさんあります。逆にいうとその現場は、自分がしたいようにできる点も、やりがいのひとつでしょう。
※ ※ ※
スーダンでは、将来マネージャーになる素質を見込んだ現地の青年を川内さんが採用し、点検整備を教え込んだそうです。「今後きっと、全体を見られる人間になると信じられる人材です」と成長に期待を寄せており、そうした出会いも仕事のやりがいだといいます。
なお、MSFでは海外派遣スタッフ募集の説明会を定期的に開催しており、2019年8月3日(土)にMSFの日本事務局(東京都新宿区)で開催される回には、川内さんも出席します。
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