F1サンパウロGPの決勝レース30周目、雨脚が強まったところで突如セーフティカーが出動した。まさに各車がタイヤ交換を行なうなど、戦略的にも特に重要な局面でのセーフティカー出動により、有利不利が生まれることになった。
このセーフティカーは、各車が巻き上げる水飛沫が酷くなったために出されたと思われているかもしれないが、FIAによれば別の理由があったようだ。
■F1分析|1周で10秒も速かった角田裕毅、RB”ウエット投入”絶好の判断。首位も射程圏だったのにSCで夢潰える
今年のサンパウロGPは土曜日の午後から悪天候に見舞われ、予選と決勝レースを日曜日に行なうというイレギュラーなフォーマットに急遽変更された。しかし日曜日も雨が続き、決勝レースでは各車がインターミディエイトタイヤを履いてスタートに臨んだ。
周回を重ね、車両によってはタイヤデグラデーション(性能劣化)の影響も見え始めた頃、ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)がコース脇にストップしたことでバーチャル・セーフティカーが宣言。このタイミングで多くのマシンがピットに入り、タイヤ交換を済ませた。ほとんどのマシンはインターミディエイトからインターミディエイトへと履き替えたが、RBの角田裕毅など少数のマシンがウエットタイヤに履き替えた。
この頃から雨脚は強まっており、ウエットタイヤ有利な状況。角田らが猛烈な勢いで前のマシンを追い上げていた。
そんな中、30周目にセーフティカーが出動。各車一時休戦となった。しかしアルピーヌの2台とレッドブルのマックス・フェルスタッペンはまだタイヤを交換していない状況。セーフティカーによって隊列が縮まり、レースが再開された後は大きく不利な状況に陥ることになったはずだ。
しかしセーフティカー中にタイヤ交換を行ない、コースに復帰したばかりのフランコ・コラピント(ウイリアムズ)が最終コーナーで大クラッシュ。これにより赤旗中断となった。
この赤旗中断により、ステイアウトを続けていた上位3台はポジションを落とすことなくタイヤ交換を済ませることができ、圧倒的に有利な状況となった。実際、この3台がトップ3フィニッシュを果たした。一方で角田らウエットタイヤを履いていたマシンは、雨量が多い中、追い上げるチャンスを失うこととなった。
しかしほとんどのマシンがまだインターミディエイトタイヤを履いていた段階で、セーフティカーが介入する必要があったのだろうか? これについては、広く議論が巻き起こっているところだ。
「あのレースでは、私にとっては驚きがあった。なぜもっと早くレッドフラッグが出なかったのかということだ」
そう語ったのは、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表である。
「コンディションがあまりにも危険だと感じているドライバーがたくさんいたんだ」
一方でピレリのモータースポーツ・ディレクターであるマリオ・イゾラは、ウエットタイヤとインターミディエイトタイヤの性能を比較できた時点について尋ねられた際、「視界が悪すぎると判断された時に、セーフティカーが出動した」との考えを示している。
しかしmotorsport.comがFIAのある人物から入手した情報によれば、コース上に水たまりやコース上を横切る”川”が増えたことにより、アクアプレーニング現象が起きるリスクが高まったため、レースコントロールとしてはセーフティカーを出動させなければならなかったという。
F1マシンの後方に巻き上がる水飛沫によって視界が悪くなるということは、これまで懸念事項としてよく言及されていた。しかし、今回これは懸念されていなかったという。そして計画では、強い雨が降ると予想されていた5分間だけセーフティカーが出動し、その後解除される予定だったという。
ただ結局、コラピントのクラッシュによりこのプランは台無しとなり、赤旗中断となった。その結果、ステイアウトの3人には幸運、タイヤを履き替えていたマシンにとっては不運な展開になってしまったわけだ。前述の通り、ステイアウト組は、赤旗中にポジションを落とさずにタイヤ交換を済ませることができたからだ。
勝利を逃すことになったマクラーレンのランド・ノリスは、赤旗中断中にタイヤを履き替えることができるルールについて「誰も同意しない、馬鹿げたモノ」だと評価した。しかしこうも付け加えている。
「でもそれが自分に有利になるなら、いつでも同意するだろうね」
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