超過速度よりも、ビックリな事件。どこが?
これ、何もご存知ない方はどう読むだろう。以下は2020年11月13日付けの読売新聞だ。
首都高は速度超過80km/hが運命の分かれ目。スピード違反を罰金で解決できない職業とは?
区職員、釣りに行こうと80キロオーバーで走行「反省し区民のため職務尽くす」
東京都板橋区は12日、道交法違反(速度超過)で罰金刑を受けた同区の男性職員(47)を停職2か月の懲戒処分にした。
発表によると、職員は2019年10月26日未明、釣りをするため乗用車で神奈川県内に向かっていた際、東京都目黒区の首都高速中央環状線で、80キロの速度超過で摘発された。今年10月、東京高裁から罰金10万円の判決を言い渡されていた。
区の聞き取りに対し、男性職員は「違反を反省し、区民のために職務を尽くしたい。二度と車を運転することはない」と話しているという。(https://www.yomiuri.co.jp/national/20201112-OYT1T50316/)
※11月24日現在、該当記事は削除されている
「目黒区の中央環状線って山手トンネルじゃん。あそこの制限速度は60キロだけど、みんなけっこう飛ばすんだよ」、「80キロオーバーってのは悪質だが、罰金のスピード違反で停職2カ月の懲戒処分とは、公務員もたいへんだね」、そんな印象を受けた方が多いんじゃなかろうか。
だが、じつはこれ、非常に珍しい、びっくり仰天な事件なのである! 東京高裁のその裁判を私は傍聴し、メルマガ「裁判傍聴バカ一代(いちだい)」(https://www.mag2.com/m/0001035825.html)の第2476号「公務員の速度違反、超過80キロ、まさかの逆転罰金刑、理由は!」でレポートした。何がびっくり仰天か、ご説明しよう。
公務員は失職するはずなのだが…
控訴審の第1回公判は2020年9月23日だった。被告人は黒スーツに暗色ネクタイの中年男性だ。人定質問で職業を「地方公務員です」と答えた。勤続26年だという。上掲報道のとおり、犯罪事実は首都高速(自動車専用道路)での80キロ超過。原判決は「懲役3月、執行猶予2年」だった。
速度違反の罰則は「6月以下の懲役又は10万円以下の罰金」だ。当サイトの別記事、「首都高は速度超過80km/hが運命の分かれ目。スピード違反を罰金で解決できない職業とは?」(https://driver-web.jp/articles/detail/32115 )で詳述したとおり、超過速度が80キロを超えると懲役刑(通常は執行猶予付き)が普通なのだ。
執行猶予は、猶予期間が終わったら刑務所へ、ということではない。猶予期間をおとなしくしていれば、判決は効力を失う。もう刑務所へ行くことはなくなる。執行猶予の期間はほとんどが3年だ。次に多いのが4年。2年はかなり軽い。執行猶予2年なら普通は文句がないはず。ところが本件被告人は控訴した。なぜ?
地方公務員法第16条により、禁錮以上の刑罰を受けた事実は「欠格条項」に当たり、失職する。刑罰は重いほうから順に、死刑>懲役>禁錮>罰金>拘留及び科料とされている(刑法第9条)。懲役刑は禁錮以上に当たる。罰金刑なら失職しない。だから罰金刑を求めて控訴したのである。
執行猶予付きでも懲役刑だと大ダメージになるのは地方公務員だけじゃない。国家公務員も自衛隊員もだ。医師は医業停止になるし、不動産業者はさまざまな免許、資格を失う。起訴されて初めてそのことを知り「どうか罰金刑に!」と懇願する、そういう裁判を私はさんざん傍聴してきた。
残念ながらその懇願はとおらない。簡単に言えば、速度違反の裁判は何より超過速度を重視する。あとは普通車か二輪車か、前科はあるか、そんなところだ。検察官が懲役相当と考えて公判請求(正式な裁判への起訴)をしたなら裁判官はそれに従うのが決まりだ。「どうか罰金刑に!」という懇願が無残に蹴られる裁判を、私はさんざん傍聴してきた。
さて、2020年9月23日の第1回公判では被告人質問がおこなわれた。こんなシーンがあった。
弁護人「執行猶予付きでも懲役刑だと失職…退職金はどうなりますか?」
被告人「全部か一部…受給できません」
弁護人「もし失職したら」
被告人「手に職もないし、免許証はこの手で自主返納しました…コロナ禍で再就職は…」
弁護人「裁判所に何か言いたいことはありますか?」
被告人「(原判決のままだと)自分は失職します…一審の裁判官から更生してくださいと言われましたが、再就職が困難な中で、更生はとても…」
「更生してください」は儀礼的な接尾語みたいなものにすぎない。実質的意味はないと、私なんかはヘラヘラ笑える。しかし40代後半で失職、路頭に迷う者には、残酷な言葉に聞こえるのだ。
被告人「最後のチャンスを下さい、お願いします!」
ああ、可哀想に。2020年10月16日、無残な判決を見届けてやろうと私は出かけた。傍聴人は、被告人の関係者と思しき男性のほかに私1人だった。たかが「道路交通法違反」の控訴審判決など一般傍聴人は興味を持たないのだ。硬く緊張する被告人を証言台のところに立たせ、裁判長が控訴審の判決を言い渡した。
なななんと。失職逃れて逆転罰金刑!
裁判長「主文。原判決を破棄する…」
なにいっ! ま、まさか! 裁判長が続けた。
裁判長「…被告人を罰金10万円に処する。その罰金を完納できないときは金5000円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。以上が主文です」
なんと逆転罰金刑!!! 私は傍聴席で思いっきり変顔になった。といってもマスクを着けているので、眉をつり上げ目を見開いただけだが(笑)。いったいなぜ罰金刑に?
裁判長「深夜、交通量が少ない…前科がなく、贖罪寄付(金額不明)…失職の不利益を踏まえて検討しても、懲役刑はやむを得ない…原判決が不合理であるとまでは言えない…」
ということは、原判決後の情状を酌んで逆転判決としたわけだ。前回の被告人質問には特にそんなものはなかったように私は思うが…。裁判長はこんなふうなことを述べた。
裁判長「しかしながら本件は、罰金刑の選択が拒否されなければならないとまでは言えない。起訴休職により給与が7カ月間、大幅に減額され、一定程度の社会的制裁を受けている。交通遺児の手記を読むなど反省を深めている。板橋区の条例では(本件で失職すれば)退職手当が全部または一部が支給されない。勤続26年…。原判決に現れていないこのような不利益を考慮すれば、原判決は現時点では重すぎる結果になったというべきである」
私からすれば「えーっ!?」だ。それっぽっちのことで逆転罰金刑とは解せない。もっと大変な事情があるケースでも「どうか罰金刑に!」という懇願は蹴られてきた。なのに本件は、なぜ? 絶対おかしい。私としては2つのことが想像される。けどそこは非常にマニアックな長い話になる。今回は省略しよう。
とにかくこの事件は「罰金のスピード違反で停職2カ月の懲戒処分とは、公務員もたいへんだね」ではないのである。普通なら失職が当たり前のところ、停職2カ月ぽっちですんで超ラッキー、良かったね~! なのである。ほんとびっくりしましたよっ。
〈文=今井亮一〉
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みんなのコメント
80km超過で記念写真撮られたことがあったがその時は罰金10万円+免停90日だったと思ったけどね。
記事を書いた方は、法律には詳しいかもしれないけど道路の速度制限の理不尽さなど全く知らない方ではないでしょうか。