11月23~24日、富士スピードウェイでスーパーGT GT500クラスの15台のマシンと、DTMドイツ・ツーリングカー選手権に参戦するアウディRS5 DTM、BMW M4 DTMという7台のマシンが参加し、『AUTOBACS 45th Anniversary presents SUPER GT x DTM 特別交流戦』が開催される。このレースを前に、いったいなぜGT500とDTMは規定を同じくしたのかをライトなファン向けに、簡単にまとめて3回に分けてお届けしよう。最終回は、このレースの意義をお届けする。
2009年から積み重ねられてきた両シリーズ関係者たちの努力の末、規定統一に至ったスーパーGTとDTM。その規定統一の成果を、両国のモータースポーツファン、そして世界に対して目に見えるかたちでみせることになるのが、11月23~24日に静岡県小山町の富士スピードウェイで開催される『AUTOBACS 45th Anniversary presents SUPER GT x DTM 特別交流戦』、そして10月5~6日にドイツのホッケンハイムで開催されたDTM第9戦だ。
いよいよ実現『SGT×DTM特別交流戦』。遠くて近い存在だったシリーズのこれまでとこれから(2)
■GT500勢が参戦したDTM第9戦ホッケンハイム
オートスポーツwebでもこれまで2回に渡ってお届けしたとおり、両シリーズの文化的な成り立ちの違い、レースのスタイルの違いは依然として大きい。しかし、ふだん見慣れていないメーカーのマシンの参戦は、ファンにとっては大きなインパクトがある。10月のDTM第9戦は、まずは日本からスーパーGTに参戦するレクサス、ホンダ、ニッサンのそれぞれ1台ずつがシリーズ戦にゲスト参戦するという、今までにないものとなった。
このシリーズ最終戦へのゲスト参戦は、GTアソシエイションの坂東正明代表の言葉を借りれば「DTMは前戦チャンピオンが決まったのでまだいいが、チャンピオンがかかっていたら、こうしてGT500が混ざってレースをするなんて、自分の感覚ではあり得ない」というもの。たしかに第8戦でチャンピオンがレネ・ラストに決まっていた。GT500の3台が走ることに対して余計なプレッシャーは減っていたし、逆にタイトル争いの関心がなくなった最終戦へのいいスパイスとなっていたのは間違いない。
ただ、GT500各陣営のエースたちが臨んだDTM第9戦ホッケンハイムはある意味日本勢の“敗北”に終わった。土曜のレース1でジェンソン・バトン駆るホンダNSX-GTが9位に食い込み溜飲を下げたが、レクサスLC500、ニッサンGT-Rの2台は大苦戦を強いられている。
その最大の要因となったのが、すでにオートスポーツwebでも何度もお届けしているとおり、DTMで使われているハンコックのワンメイクタイヤだ。ほぼ同じ規定で作られているとはいえ、タイヤコンペティションがあり、世界屈指の(最強と言っても過言ではないだろう)ハイグリップタイヤで争われるスーパーGTとはまったく性格が異なる。「木できているかと思うくらい硬い」と松田次生が評するタイヤを活かすには、まったく異なるセッティングが要求された。また、ホッケンハイム特有の路面コンディションも悩ましい要因となったのは間違いない。
一方、2011年から8年間にも渡ってハンコックを使い続けているDTM勢は、どうセッティングすればいいのか豊富な知識がある。逆に言えば、ワンメイクタイヤを前提として車両が作られていると言ってもいいだろう。近年、世界的な潮流としてタイヤはワンメイクのシリーズがほとんど。コンディションなどを問わずレースをすることが前提のタイヤを使いこなすことが勝利への鍵だ。また、内圧の管理が定められており、これも日本チームを大いに悩ませた。
■なぜハンコックのワンメイクか。そして特別交流戦の意義
そして今回のスーパーGT×DTM特別交流戦でも、ハンコックのワンメイクタイヤが使用される。もともと、特別交流戦の開催を目指していくなかで、ハンコックでも日本で使われているメーカーでもないタイヤメーカーのワンメイクとする案も昨シーズン中の定例記者会見のなかで坂東代表は示唆していたが、DTMマシンはシリーズ戦以外でのいかなる走行でもハンコックを装着しなければならない契約があり、それに合わせることになった。
そのため、今回の特別交流戦で最もカギを握るのはタイヤだと言っていい。別項でもお届けしたとおり、タイヤのデータを得るのに有効なセブンポストリグを試したいというメーカーもいたというが、勝負にこだわりすぎることは違うのでは……という意見を坂東代表は述べている。
「“ドリームレース”という考え方をもってやってきているのに、『リグにかけなきゃ』という考え方は理解できない」と第8戦もてぎの定例記者会見で坂東代表は語った。
「お互いが言いだしたらきりがない。DTM側はプッシュ・トゥ・パスやDRSも使わない。ではそちらは空力はどうなの?(GT500の方が空力開発されている)と突っつきあいになってしまう。シリーズ戦であれば考えなければならないが、でもこれは、あくまでドリームレースを作り上げようというもの」
「まずは一緒にレースをすること。今回“ドリームレース”と名がついているが、まずは本当に実現できる、夢は叶うということが第一歩。戦いの場を求めることは来年以降。そのかたちを作り上げることがひとつだと思っている」
富士での開催だけにスーパーGT勢が日本で使っているそのままのタイヤを使えば……という考え方もあるが、その場合、DTM勢とは数秒のタイム差がついてしまう。そんなレースに、たとえドリームレースとは言えドイツメーカーが費用をかけて日本までマシンを送るだろうか。GT500にウエイトを載せるなりの考え方もあるかもしれないが、それはそれで危険性も増すし、いったいどれほど積めばいいのかの計算も難しいし、それが合っていたとしても不平不満はなくならないだろう。
坂東代表の言うとおり、勝敗も楽しみではあるし、参加する側や応援する側からすれば釈然としない部分もあるかもしれないが、まずは一緒に夢のレースを見せよう、そして見ようというスタンスをぜひ持っていただければと思う。坂東代表は、ホッケンハイムでもGTA定例記者会見でも「これがスタートライン」という言葉を口にしている。まず規定はひとつになった。ではお互いが交流するためにはどうすればいいのか……? という第一歩が今回のレースなのだ。
■スーパーGTとDTMの新たな歴史を作るレース
そんなスーパーGT×DTM特別交流戦。今回は土日それぞれ20分間1回の公式予選が行われ、決勝は55分+1周。四輪タイヤ交換をともなうピットストップが義務づけとなる。スタートはDTMはスタンディングだが、今回はローリング。ただし、DTMのセーフティカー明けに用いられる“インディスタイル”の方式となる。2列の隊列を組み、車間は1車身開いてはいけないため、かなり接近した状態でスタートする。これはかなり見ごたえがあるはずだ。
そして今回参加するチーム/ドライバーも豪華だ。BMW勢は、チームRBMの3台が参戦する。エースのマルコ・ウィットマン、そして不屈の闘志をもつ男、アレックス・ザナルディの走りは見逃せない。さらに小林可夢偉がBMWを駆りどんな走りをみせてくれるのか。
アウディ勢は、二度のDTMチャンピオンであるレネ・ラストをはじめマイク・ロッケンフェラー、そして日本でもおなじみのロイック・デュバルが参戦する。富士を走った経験が多いデュバルは、このレースを最も楽しみにしていたドライバーのひとりだ。
そして、DTMでは今季からプライベートチームの参戦がスタートしており、WRTが参戦しているが、このWRTとGT300クラスの名門Hitotsuyama Racingのコラボレーションチーム『WRT Hitotsuyama Team Audi Sport』がブノワ・トレルイエを擁し参戦する。日本のチームが混成とはいえ、DTMマシンを走らせるのは歴史的なことだろう。
というのは、日本ではあくまでGT500でも、メーカーはチームに対しマシンを供給し、チーム単位での参戦というスタイルがとられているが、DTMというレースに参戦する車両はあくまで“メーカーワークスとして走らせるべきマシン”だったからだ。
過去に、日本でもDTMマシンを持ち込みGT500に参戦したいという意向をもったチームもあった。ただ、その際ドイツ側から提示された年間の予算は、GT300なら5年以上は活動できるほどの金額だった。決して車両はGT300に比べてそこまで高額ではない。あくまでドイツメーカーとしては“ワークス”として走らせるべきマシンだから、その分ピット内外の設備をはじめ、エンジニア派遣など、ワークスとしてふさわしい体制を整えなければならないからだった。
しかし、DTMもメルセデスAMGの撤退を経て、さらなる予算削減やプライベートチームでも活動できる土壌を整えようとしている流れにある。それに乗ったのがWRTであり、DTMマシン=クラス1マシンが「プライベートチームでも走らせられるマシン」となったからこそだ。
日独双方の歴史を経て、迎えるスーパーGT×DTM特別交流戦。「今までの日本のモータースポーツの歴史を考えてきたとき、このレースは『歴史を変える』ではない。『歴史を作って』いかないといけない。ここからスタートしなければいけない」と坂東代表は語った。
「このレースを開催することでモータースポーツの産業を発展させ、経済力をつけ、文化にしていかなければいけない。そのためにはドライバー、マニュファクチャラーをはじめ、関係者が一体となって、今年はその新たな一歩を示した一年にしなければならない」
11月21日、いよいよその両者のマシンがそろい、富士スピードウェイを走りはじめる。
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