フォルクスワーゲン パサートにプラグインハイブリッドのGTEが加わり、走りと環境性能の両立というフォルクスワーゲンのプラグインハイブリッドへの考え方が実車でどう感じるのか?試乗してきた。
<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
フォルクスワーゲンのプラグインハイブリッドはゴルフGTEに次ぐ2番目のモデル。走行モードには「EVで走る」「ハイブリッドで走る」「GTEで走る」という3つのモードがあり、千葉県袖ヶ浦フォレストレースウエイと周辺一般道、高速道路で試乗した。
VWマーケティング部の報告では、ゴルフGTEの導入後、ユーザーの声として「GTIのような走りだ」「走りの楽しいハイブリッドだ」という声が得られたという。パサートはグローバルで累計2300万台のヒット商品であり、次世代を見つめプラグインハイブリッドモデルを投入してきた。
2015年8代目となるパサートは欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど高い評価を得、国内にも同年導入している。そして今回のGTEは2016年6月7日から市場投入されている。今回のGTEはセダン、ヴァリアントの2モデル・4グレードの展開。全長4785mm(4775mm)、全幅1830mm、全高1470mm~1510mm、ホイールベース2790mmのDセグメントサイズだ。(ヴァリアント)
「GTE」というネーミングからもわかるように、プラグインハイブリッドであることを強調するよりGT=グランドツーリングカーであることを強調するネーミングだ。つまり、エコカーより走りを強調していると捉えていい。だから走行性能には満足度の高いものがあることを期待した。
■走行モードはシンプルに
GTEの走行モードは3つドライブモードがあり、Eモード、ハイブリッドモード、GTEモードの3つ。特徴としてできるだけEV走行しようとするモデルだ、という制御になっている。そのため、9.9kWhというPHEVモデルとしては大きめのバッテリーを搭載し、85kW/330Nmという出力のモーターを持っている。ちなみに外部充電はグローバルな常識として急速充電はできない。通常の200V充電となっている。
EV走行可能距離は51.7kmで日常の行動半径としてはEV走行だけで賄える距離だろう。しかも130km/hで走れる能力があるので、高速道路を使ってもEV車として利用できる。実際、アクセルを強めに踏み込んでもEVモードのままでエンジンはかからない。さらにアクセルを踏み込み「カチッ」と抵抗があるところまで踏み込んでやっとエンジンが稼働するといった具合だ。
ハイブリッドモードはもっとも効率のよい走行モードという定義で制御され、EV走行、エンジン走行、充電というタスクを複雑に制御している。そして、実走行においてもGTEはEV走行をできるだけしようとする制御の方向性が感じられる。その際の燃費は21.4km/Lだ。
また、走行モードとは別に、充電を優先するバッテリーチャージモードがある。操作はインフォテイメントシステムの画面からこのモードを選択することで、充電優先の設定に変更することができる。
GTEモードはエンジンとモーターのパワーをフルに使ったモードでいわばスポーツモードに匹敵するものだ。0-100km加速では7.4秒という俊足で、ゴルフGTIとほぼ同等というから、イメージできると思う。このGTEモードではゴルフRを上回る400Nmのシステム合計の出力が得られ、さらにアクセル、変速タイミング、ステアリングがそれぞれスポーティなセッティングに変わり、エコカーから豹変すると言ってもいいだろう。
■隠された魅力
搭載されるユニットは直列4気筒の1.4L TSIエンジンで、出力は115kW/156psと85kW/116psモーターが組み合わされ、欧州公表値の航続距離では1114kmが無給油、無充電で走行できる。
このパワーユニットに6速DSGが組み合わされているのがポイントだ。駆動を切り離すクラッチは2つあり、エンジンだけ、モーターだけ、その両方で走行するというケースをクラッチでコントロールしている。そしていずれの場合もDSGを経由して減速しているのが特徴だ。
EV走行時D3-D4-D5へとインジケータに表示される。これはモーターの回生力を意味するもので、ギミック表現だと思う。だから変速ショックなど一切ない。また、例えば70km/hで走行中にアクセルから足を話すと「コースティングモード」になる。これはモーターとクラッチが切り離され、惰行走行する状態だ。エンジンが稼働していた場合は、充電状況次第でアイドリング状態か、あるいはアイドルストップ状態で滑空する。
このコースティング状態から右側の+表示のパドルシフトを引くと、その時の走行時のギヤで回生を始める。このとき5速で走行していれば、5速ギヤと同じくらいの回生ブレーキがかかる。反対に-のパドルを惰行走行時に引くと一段ギヤを落として回生する。つまり4速表示され減速感の強い回生ブレーキが働くわけだ。
だから、惰行状況から減速をどの程度欲しいのか?というドライバーの意思を反映しやすい回生減速装置と言える。アウトランダーPHEVが回生力をコントロールできるのと同じだ。それをフォルクスワーゲンではDSGのギヤに見立てているところがユニークだ。実際にはギヤダウンしているのではないから、反対にシフトアップはできない。+を長く引くと通常のDモードへ戻る。
また、コースティングしているとき、フットブレーキで減速させてもエンジンは稼働せず、単にブレーキがかかるだけで、ガソリン車やディーゼル車に搭載するコースティングとはこのあたりの制御が異なっている。
余談になるがセーリングモードというのもある。これは同様に、エンジンは停止するものの、クラッチはつながりモーターでアシストしている状態での走行をする場合を言う。この機能はVWでは採用しているモデルはない。
■安全装備も充実
安全にたいしては、予防安全、衝突安全、二次被害防止という総合的に危険回避する最新の安全思想で構成され、VWオールインセーフティに基づいたアドバンスドセーフティを備えている。例えば予防安全では全車速追従のアダプティブクルーズコントロール機能で、渋滞時の半自動運転が可能で、また、自動補正するレーンキープアシストも有効な安全運転支援装置を標準設定している。
車両情報などを含めたアクティブインフォディスプレイも新しさが満載だった。12.3インチサイズの高解像度フルデジタルメータークラスターには数種類のグラフィックが選択できる。例えば、ナビゲーション、エネルギーフローといったもので、特に地図情報は視線移動が小さく安全で楽な装備。またVWとしては初めてヘッドアップディスプレイも搭載した。
メーターではEV化、バッテリー情報、ナビ情報、そしてエネルギーフローチャートなど情報が増える今、視認性の確保も大事。情報がたくさん表示されているものの、実際の走行時メーターを見つめないとデータが分からないというケースが増えている気がするが、このパサートのメーターは初めて乗った人でもわかりやすい表示だと思った。
■GTE専用のデザイン
パサートGTEがプラグインハイブリッドであること、エコカーであることなど、外観から一目でわかるようなこれ見よがし的なデコレーションはない。ドイツでエコを意味する「ブルー」を基調に使ったGTEエンブレム、グリル上部から左右に延びるアクセントライン、そしてフロントバンパーのC字型LEDランプといったところ。
インテリアでは専用のステアリングに、アンビエントライト、シフトノブステッチにブルーを採用という程度で実に控えめなPHEV主張でもある。このあたりも日本車とは大きく考え方が異なっているポイントだ。
■フォルクスワーゲンのオンライン サービス カーネット
VWのカーネットサービスの中にEV車やPHEV車向けにe-remoteというサービスがゴルフGTEの発売のタイミングで始まっている。このパサートGTEにも搭載されているので、少し紹介しておくと、GTE専用のディスカバープロ純正ナビゲーションシステムを搭載することでVWオンラインサービス「カーネット」が利用できる。
その中でEV、PHEV専用サービスの「e-remote」はスマホ、PC、タブレットで遠隔で管理可能。例えば、リモートでの予約充電、乗車前のエアコン操作、車両状況の確認、駐車位置などが操作でき、3年間無料でe-remoteが利用できる。
さて、このパサートGTEの価格は519万9000円~599万9000円でセダンとヴァリアント=ステーションワゴンのタイプが選べる。ちなみにゴルフGTEは469万円という価格に改めている。BMWのPHEV 330eはセダン標準車で554万円、メルセデス・ベンツはセダンの350eアバンギャルドで721万円、アウディは少し小さいA3e-tronで564万円というプライスだ。
価格はプレミアムブランドとの競合となるが、決定的に違うのはアンダーステイトメント。控えめなところだろう。フォルクスワーゲンという「国民車ブランド」らしいのか、「外車」なのか?ユーザーの価値観はどこに向くのだろうか。
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