77周の周回数で行われたスーパーGT第5戦鈴鹿のGT500決勝、ランキングトップで迎えた3号車Niterra MOTUL Z、そしてランキング2位の36号車au TOM'S GR Supraがそれぞれ真逆となるユニークなレース戦略を敢行した。3号車、そして36号車ともに燃リス(燃料シストリクター制限)3ランクダウンという厳しい状況の中で採用した戦略はどのようなものだったのか。その狙いを聞いた。
例年、ランキング上位のサクセスウエイト(SW)が厳しくなる夏場のレースでは、SWが軽いマシンが優勝候補に上がり、ランキング上位は消化レース、実質お休みのレースとなるのが定番ではあった。だが、近年のランキング争いは1ポイント差が貴重で、そして今年からは450kmレースが増えたことで戦略の幅が大きく広がった。コース上では抜けなくても、戦略でポジションを上げることが可能になフォーマットになったのだ。
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その中で今回、燃リスが3段階絞られた3号車Niterra MOTUL Z、36号車au TOM'S GR Supraのピットタイミングを、優勝した16号車ARTA MUGEN NSX-GTと比べてみよう。
⚫︎16号車 11周目ー44周目
⚫︎3号車 6周目ー39周目
⚫︎36号車 29周目ー54周目
一見してわかるように、3号車はピットインタイミングを早め、36号車は最初のピットストップを引っ張って、第2スティント、第3スティントを短くしているのがわかる。
燃リスが3段階絞られることで、エンジンの出力は大きく低下する。特にリスタート時、加速時のトルク低下は顕著で、ストレート速度も厳しくなる。しかしその反面、燃費は格段に良くなり、ピットでの給油時間も短く済むことができる。3号車に36号車、両者ともその特性を大いに活かした戦略を採ることになった。3号車でスタートを担当した千代勝正がその狙いを話す。
「いろいろなケースをシミュレーションして、3リスダウン+48kgのサクセスウエイトでは自力でポイントを獲得するのは正直、厳しい。混んでいるところで走るとロスが大きい。空いているところを走っていた方がいいので、引っかかることなく流れるように走り続けたかったので、みんなとは違うところでピットに入れました」(千代)
GT500でもっとも早くピットインした3号車は、ピットアウト後にクリーンエアでダウンフォースを存分に受けながら周回を重ね、他のチームが1回目のルーティンのピットを終えた30周目には3番手まで浮上。いわゆる、大幅なアンダーカット(先にピットに入り、相手よりも速いタイムで周回することでピットで順位を逆転する戦略)を成功させたのだ。
だが、3号車にとってはそこから想定外の状況に見舞われ、順位を落としていった。
「最初、25周近辺までは上手くいっていたのですけど、今回は路面温度が想定よりも高かった。最初にピットが短かった分、必然的にタイヤマネジメントをし続けないといけないレースだったのですけど、スティント後半のグリップの落ちが想定よりも厳しかった」(千代)
34周目には一気に3台にオーバーテイクを許してしまい、39周目に2回目のピットに入る際には12番手までポジションを下げてしまった。
「後でピットに入った後続勢を全部、抑えるような格好になって、その時点でこの戦略は今回は機能しなかったかな」(千代)
一方の36号車au TOM'S GR Supraは、予選最後尾の15番手スタートから、GT500でもっとも遅い29周目まで最初のピットストップを引っ張り、その時点で2番手まで順位を上げていた。ピットアウト後は14番手まで順位を下げたが、第2スティント、第3スティントを短くすることで燃料が少ない状態で、タイヤのいい状態を保ったまま走行することができ、結果として11位でフィニッシュ。その後、暫定2位の23号車MOTUL AUTECH Zの失格で36号車は10位に上がり、貴重な1ポイントを獲得した。
36号車au TOM'Sの吉武聡エンジニアが振り返る。
「タイヤに対して一番有利な戦略、最初は重いけど、最後は短くできるよという戦略です。SC(セーフティカー)とかを何も考えなかった場合、自分たちのクルマがパフォーマンスを100パーセント出せる戦略が今回の36号車の戦略だったというだけです。ただ、SCが入ったら終わりなので、どれだけ我慢できるか、心臓に悪いレースでした(苦笑)」
吉武エンジニアが話すように、最初の長い第1スティントで他車がピットインを終えた後でセーフティカーが入ってしまったら、完全に勝負権を失う可能性が高い戦略でもある。
一方、3号車の早めのピット戦略は、SCが入ったら順位がジャンプアップする可能性が高いが、その分、SCが入らなかった場合、その後のピット戦略のウインドウ(戦略の幅)が極端に狭くなる。2回目のピットインまで燃料がほぼ空になるまで燃費走行をしながら周回数を稼がなければならない。そして、ピットインのたびに燃料を満タンに積むことでタイヤへのダメージが常に大きくなる。今回、3号車に取ってはSCが入らなかったことに加え、路面コンディションが50度を越える展開になったことでタイヤの保ちがネックになり、13位フィニッシュ(その後、12位に順位を上げる)。
3号車の島田次郎監督が振り返る。
「前半では行けそうな気がしたのですが……タイヤがもうちょっと耐えてくれると思っていたのですけど、ちょっとセカンドスティントがキツかったですね。燃料の関係があるので、1回入れたらもう何があってもなくなるまで周回を稼いで走るしかない。セカンドスティントの終盤で1分54~55秒でペースダウンが止まってくれればよかったのですけど、1分57秒台まで落ちてしまった。そこでのタイムラグが9ラップくらい続いてしまった。そこで想定よりも30秒近くロスしてしまいました」
一方の36号車にとっても、11番手まで順位を上げて戦略が上手くいったとはいえ、完全には喜べない事情があった。
「途中までは成功していたかもしれないですけど、ちょっとピットストップでロスがあって……それがなければ10位とか9位でポイントは獲れていたと思うので(11位フィニッシュながら、その後10位に繰り上げ)。ピットで前に出る作戦だったのですけど、そのピットでミスがあった……仕方がないですね」(トムス吉武エンジニア)
3号車、36号車ともに最後まで想定通りとはいかなかったが、チャンピオンシップを争う上位2チームとあって、最終的に選択した戦略は真逆だったものの、お互いの戦略、そして考え方もかなり近いところが興味深い。
「36号車もウチと似たような条件で、選択肢としてはタイヤを割と均等に使える戦略ですよね。36号車は均等に割って、フルタンクにせずに後半に軽くて、フレッシュなタイヤの方に振っていました。普通に計算するとそれが(チェッカーまで)一番早いんですよ。タイヤのグリップが落ちる前にピットに入って換えて、タンクも後半はフルタンクにしないで走れますからね」と、相手の36号車を分析する3号車島田監督。
一方の36号車吉武エンジニアにとっても、3号車の戦略は選択肢のひとつだった。
「最初に考えたのはあの3号車の戦略です。最初に入ってSCリスクも少ないですし、GT300のトラフィックの前にコースに戻れるので、そこでのロスもない。結構有利な部分が多いのですけど、でもトータルで考えて、タイヤのタレを考えたら1周1秒~2秒は落ちる。やっぱり満タン2回はキツいと思います。ですので、SCリスクはありますけど、引っ張るしかないかなと。たまたま今回は上手く行きましたけど、SCが出ていたら3号車の勝ちなので、どっちがいいとは言えないですね」(吉武エンジニア)
今シーズンのスーパーGTも残り3戦、450kmレースは第7戦のオートポリスの残り1戦になり、そのオートポリス戦はハーフウエイトになるため状況は変わるが、GT500のランキングトップのチームがさまざまな策を練ってユニークな戦略を採る姿は、レースの魅力のひとつ。
実際、36号車は今回の戦略で貴重な1ポイントを獲得して、トップとの差を縮めたが、3号車にとっても、貴重なデータ収集の場にもなり、何より今回のチャレンジグスピリッツは今後のタイトル争いにもポジティブに作用するに違いない。2台とも、ナイストライのレース内容だった。
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みんなのコメント
サクセスウェイトとか、名前変えても、
ハンデには変わりない。