もくじ
ー 「別次元。いや、別世界」
ー 何もかも凍ってしまう
ー いざ、アイスロードを走る
ー アイスロードの将来
ー 番外編 世界の「究極の」道
AWDの安心感、論理的に理由を説明できる? 雪上をアウディで走り、探る 画像163枚
「別次元。いや、別世界」
インストゥルメント・パネルに設置されたデジタルの外気温計は-21℃を示しており、厳しい北西風が北極海沿岸に吹き付けて、命を脅かすほどの恐ろしい寒さをもたらしている。
しかし、いまいる場所はこれ以上ないほど快適だ。
メルセデス-AMG GLE43のフットウェルめがけて吐き出されるエアコンの暖かい風を受けながら、ヒーター付きレザーシートに高く腰掛け、1年のある期間だけ通行可能になるカナダ北部のイヌヴィックとトゥクトヤクトゥクを結ぶ唯一の道路を走っている。
このことを除けば、今から走る道は端的にいって別次元。いや、別世界といってもいいかもしれない。
春の終わりから、夏、そして初秋にかけて、このあたりには広大なリバーデルタが出現し、北米大陸で最も人里離れた場所のひとつでカヤックやボートでの冒険を楽しむひとびとを引き寄せる。
しかし、冬には川は分厚い氷で覆われて、まるで曲がりくねったスケートリンクのようになり、地元のひとびとが(ほかに適当な名前が無かったので)アイスロードと呼ぶようになった凍ったハイウェイを作りだすのだ。
TVのリアリティー番組のお陰で一般にも知られるようになったこの凍結路は、ツンドラの永久凍土層と北極海の氷結部分を通って、カナダの人里離れた北部一帯にある集落を繋ぐ役割を長く果たしてきた。そして、多国籍石油企業や、ダイアモンド採掘業者、それにカナダ軍に対する重要な輸送路でもあったのだ。
陸地にあるダンプスター・ハイウェイの延長部分はイヌヴィックの外れから始まり、毎年冬にマッケンジー川を覆う氷は伝統的に183kmの道を作り出した後、トゥクトヤクトゥクの町の入口で終わる。
出発準備が整うと、この身を切るような寒さがわれわれのアイスロードを行く旅がどのようなものになるかを早くも明らかにした。
何もかも凍ってしまう
GLE43に乗りこんだ時には、ワイパーのゴムは凍り、ブレーキ・キャリパーは硬く凍結していた。そのために、これからの任務にあたって、エンジン、ギアボックスとブレーキフルードが十分に温まっているのが確認できるまでアイドリングを続ける必要があったほどだ。
この旅は、撮影車のGLE400と、万一の事態に備えた救援車両としてG500を伴ったコンボイで行くことになる。この3台のメルセデスはホテルの駐車場に停まっている大柄なピックアップ・トラックの中でも目立つ存在だ。
早めの朝食を食べながら、地元のひとたちが話を聞かせてくれた。どうやらイヌヴィックに住むひとびとにはそれぞれが語るべきアイスロードでの体験談があるようだ。
元石油採掘の作業員だったジャックは、かつて自分が働いていたインペリアル・オイルのプラントへの通勤途中に、町から32kmの地点で乗っていたシボレー・インパラが故障したときのことを話してくれた。現在68歳のジャックは、助けがくるまでに凍え死にそうになったという。
「エンジンルームの燃料配管が凍結して割れてしまい、夜中に立ち往生するハメになったんです。もう少しで凍傷になるところだったんですが、無線のお陰で何とか助かることができました」。携帯は電波状況が悪いため、ここではトランシーバーがドライバーの必需品だという。
アイスロードのスタート地点へと続くイヌヴィックの雪に覆われた道をザクザクいわせながら歩いて行くと、遊泳注意の看板に気が付いた。たった人口3000人の町だが、この看板が夏の間に町がどれほどの賑わいを見せるのかを思いださせてくれる。マッケンジー川のリバーデルタが雪解け水で満たされると、地元の航空会社が冒険を求める南からのツーリストたちをひっきりなしにこの町へと運んでくるのだ。それほど簡単に辿り着ける場所では無いにもかかわらず。
われわれはイヌヴィックへ着くまでに5回も飛行機に乗る必要があった。
いざ、アイスロードを走る
アイスロードを走るには慎重さが必要だ。ぼんやりしている暇などほとんどない。この道はほとんどが直線で、数少ないカーブも緩いものでしかないが、慎重なステアリング操作が求められる。
万一道路を外れそうになった時は、思いっきりカウンターステアをあてながら、わずかにアクセルを踏むしかない。
凍結路の幅は広く、6車線のハイウェイほどもあるのでそのための時間はたっぷりある。雪に覆われた路面はそれほど危険には見えないかも知れないが、たいていその下は分厚い氷の層で覆われている。
北極海沿岸に位置する目的地のトゥクトヤクトゥクは、クルマで辿り着くことのできる地上における最北の町のひとつだ。かつては重要な軍事拠点であり、1970年代初頭のオイルショックを経て、その後はボーフォート海における原油とガス資源探索の戦略上の要地となった。インペリアル・オイルのような巨大な石油企業が、大型の掘削施設や関連するインフラとともに、この地域に繁栄と雇用をもたらしたのだ。
一旦停車してこの先のアイスロードを確認すると、やけに大きな割れ目と突起があるのに気が付いた。それが以前吹雪の中で発生したトラック火災によるものだと分かるのに時間は掛からなかった。
火災によって氷がわずかながら水中に沈みこみ、その反動で「アイス・ウェーブ」と呼ばれる突起が生じるのだ。地元のひとたちは大丈夫だと言ったが、氷が割れてクルマもろとも水中にのみこまれてしまうんじゃないかと言う恐怖が消える事はなかった。
アイスロードを通行するひとびとの安全を確保するため、地元当局は標準仕様のシボレー・ブレイザーが牽引するトレイラーにソナーを搭載して、定期的に氷の厚みを測定している。氷の厚さによって、通行できる車両の重量が規定され、その結果が毎日道路標識に掲示されるのだ。
氷の層の上を100km/h以上ものスピードで何時間も走り続けるというのは変な気分だ。例えブレーキを床まで踏みこんだとしても停止するまでに100m以上も必要になると知りながら追い越しを掛けるのは、何だかおしりの辺りがむず痒くなるような経験だった。
アイスロードの将来
トゥクトヤクトゥクに到着すると、どうやらこの町の素晴らしい時代は過ぎ去ってしまったらしいことに気が付いた。地元のレストランは閉まっており、たった1軒しかないホテル「トゥク・イン」にも板囲いがされている。
オイル・ブームの最盛期には1万人以上の作業員を駐在させていた油田開発の多国籍企業も既に町を去っていた。まさに過去の場所だった。打ち捨てられたクルマや家、固く閉ざされた氷に囲まれた錆びた船の残骸などが残っているだけだ。
唯一目立つモダンな建物は、ニック・ブラムという気の良い警察官がいる王立カナダ騎馬警察のオフィスだった。「静かな場所ですが、時々は事件もあります」と彼は言う。「去年の夏、2頭のホッキョクグマが町に迷いこんで来ました。そのうち1頭を射殺しなければならなかったんです」
これまでは、アイスロードが溶けて使えない期間、穏やかな春も夏も、そして秋も町は孤立した状態で、この人口800人の町に必要な物資はわざわざ運び入れる必要があった。この孤立した町に住むひとびとにとって、冬は真の自由を手にできる唯一のシーズンだったのだ。
冬の訪れはマッケンジー川の凍結を意味し、親類を訪ねたり必要なものを買いに出かけたりするためにクルマが使えるようになることで、より広い世界との繋がりを感じる事ができる。そして、われわれのような旅行者にとっても冬は特別な冒険の機会になる。北極海を見物しても良いし、その上をクルマで走ることも可能だ。
それなのに、アイスロードはこの先も永遠には続かないという。ツンドラ地帯を横断する新しい陸地の上をとおる道が最近開通して、1年中使えるようになったことで、アイスロードをもはや過去のものにしてしまうかも知れないのだ。
しかし、地元のひとたちは3億ドルを掛けて造ったこの常設の全天候型道路も、政府が言う通りにはアイスロードの代わりにはならないだろうと話す。
「この辺りにはアイスロードの存続を求めるひとたちが大勢います」とブラム。「政府は新しく年中使える道が完成すれば、アイスロードのメンテナンスをするための資金を集めると言っていますが、地元では何れにせよ何らかの形でアイスロードは残るだろうと話しています。例えいくつかある探査基地専用の道路になったとしてもです。この辺りの観光業にとって、アイスロードが全線残ることの影響は大きいはずですから」
美しいサンセットに見送られながらアイスロードを再び引き返してイヌヴィックの町に夜遅く辿りつくと、2018年以降もこの道の一部を残しておく計画があることを知った。
北極圏での生活は何が起こるか予測できないところが素晴らしい。アイスロードのように。
番外編 世界の「究極の」道
FASTEST:最速
最速の道とはどのくらい速いのだろうか? そしてどのくらい速く走れるのだろうか? ドイツのアウトバーン速度無制限区間が世界最速の道の称号を得ている。しかし、ほとんどのドライバーは自分のクルマの最高速度以下で走っているということをお伝えしておこう。
LONGEST:最も長い
約3万600km、パナマで160kmほど沼地と熱帯雨林で途切れるが、パン・アメリカン・ハイウェイが世界最長の道である。この道はアラスカのプルドー・ベイからアルゼンチンのウシュアイアまでを繋いでいる。
MOST TWISTING:どこよりもツイスティ
ステルヴィオ峠ではなく、サンフランシスコのロンバード・ストリートが世界一ヘアピン・カーブの密集度が高い。たった126mの間に8つのヘアピンが存在するのだ。スピードは控えめに。
MOST DEADLY:なにより死と隣りあわせ
死の道路としても知られる全長63kmのユンガスの道では毎年約200人が命を落としている。ボリビアのラパスとコロイドを結ぶこの崖の上に設けられた道は、ドライバーに警鐘を鳴らすためのドキュメンタリー番組で数多く取り上げられてもいる。
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