もくじ
ー 雪上でプロトタイプを体感
ー EVだからといって妥協しないスポーツ性
ー こだわりの静寂性と加速性能
ー オンオフ双方でテスト
ー タイカンの今後はいかに
雪上でプロトタイプを体感
「では何をしましょうか? 円描きドリフトもできますよ」とシャシー担当のエンジニアは興奮を隠せない声で言った。スウェーデン北部にある永遠と続く氷土に来ては、雪上でドリフトしないというのはなんとももったいない行為だろう。そして気がつけばわたしはタイカンの車内でクルクル回っているのを体感していたのだ。
「ポルシェの既存の4輪駆動車と全く同じです」とタイカンプログラムのエンジニア、クリスティアン・ヴォルフスリードは言う。前後それぞれのアクスルが組み合わさり、●●
ポルシェがわたしたちをラップランドまで呼び寄せたのも、このタイカンが電気自動車ではあるものの、その性能はれっきとしたポルシェなのであると繰り返し主張したいからのように思える。
わたしはタイカンを未だ運転しておらず、ただ誰かが運転するのを横に乗せてもらっただけだ。それだけでわたしはその日体感したことがシャシーの巧妙さのおかげであり、ドライバーのスキルによるものではないと判断できるだろうか? もちろん無理だ。
そして例え判断できたとしても、凍った湖や雪上でのハンドリングから一般の人が思い描く実用的な道路状況におけるそれを想像することは可能だろうか? それも自信はない。
もちろんわたしはハンドルを握っていないので、ステアリングフィールなどは判断しかねる。これから読んでいただくインプレッションはあくまで横に乗っていて思ったことに過ぎない。
EVだからといって妥協しないスポーツ性
タイカンはポルシェにとって非常に重要なクルマだ。それ故に、まだまだな点もあるだろう。2002年にカイエンが登場してそれまでのポルシェに対するイメージを一転させたり、大本の911が1963年に登場した時ぐらいの大きな存在感となるだろう。
最初に驚いたのはタイカンの車体が非常に小さく感じることだ。4ドアでオフロード性能を重視した「クロスツーリスモ」モデルが登場するからと、多くの人は勝手にパナメーラとマカンの間に位置すると想像していただろう。事実、わたしもその一人だ。
だがフィーリングはまるで違う。公式の寸法はまだ公表されていないが、ミッションEコンセプトから判断するに全長は5m超えのパナメーラよりも短い4.85mぐらいだろう。ホイールベースも911並ではないが非常に短い。4WSシステムが持つ機敏さがはっきりと感じ取れるぐらいにはホイールベースが短いのだ。
ドライビング性ではパナメーラよりも911に非常に近いフィーリングだ。ドライビングポジションは低く設計され、センターコンソールはドライバーの真横に来るほどの高い位置に配置されている。
ファミリーカーというよりは、乗って楽しむようなスポーツカー寄りのフィーリングを持つ。ポルシェは電気自動車とスポーツカーが相対する存在ではないと証明することに尽力しており、もしもタイカンに911の雰囲気を再現することができたら、その挑戦への達成に一歩近づいたことになるだろう。そしてカモフラージュされたプロトタイプという時点で、わたしは既にその目標が達成されていると感じた。
クリスティアンとわたしは吹雪の中へと走っていった。見る限りはホワイトアウトと化した状況になっており、曇天の中で飛行機を操縦するような不安さを持っていた。
だが彼は冬の間はこっちに住んでいるらしく、このような状況は彼にとって朝飯前だったという。雪上に微かに見えるわだちを頼りにしながら運転する様子はコウモリが持つようなソナーに導かれているようだった。
こだわりの静寂性と加速性能
もしもタイカンのボンネットの下からクロスプレーンのV型8気筒エンジンのような音が聞こえると主張したら驚くだろうか? もちろんわたしも驚くが、そんなことは絶対にないのである。
ポルシェはホンモノにこだわっており、電気自動車なので当然電気自動車のような音が聞こえる。技術者は究極の静寂性を実現するため、プロトタイプの段階からあの電気自動車が作り出す特有の高周波音を打ち消している。
ポルシェからすれば、それが「静寂による豪華さ」なのである。今後もこの表現はさまざまな記事やインタビューで遭遇することになるだろう。だがそれとは逆に、オプションとして「サウンドパック」という音重視のパッケージも提供されるとのことだ。
わたしが試乗したモデルはラインナップの中でトップのモデル。だが実際は、前日の夜に大雪が降ったため、フィアット・パンダ4×4でも雪上でスピンするだろうと推測できるぐらいだ。なのでクリスティアンが600ps超えの性能に抱いた期待は、わたしたちにとっては少々過剰なようにも思えた。
無理もない。クルマ自体はその多種多様な安全装備によって完璧に構成されているようだ。クリスティアンに静止状態からフルで加速してもらったが、あたかもアスファルトの上を走っているかのように思うぐらいの加速安定性を保っていた。
端的に言えば、ドライな路面を走る標準のボクサーは雪上を走るタイカンに負けるだろう。スポーツプラスモードでは真っ直ぐ、滑るように加速していく。すべてをオフにすれば雪上で半円を描くようになる。このような電気自動車でも、ポルシェの「オフ」は正真正銘、本当に「オフ」になるのだと知れたのは良かった。
オンオフ双方でテスト
そしてうねるようなコースへと入っていく。ポルシェはドライバーがコースから外れて不一致が起きないように、極力コースを狭く作った。エンジニアも皆、誰が何回コースアウトし、カイエンに牽引されたかを記録している。クリスティアンは冬の間は1回のみやらかしたそうだが、彼の同僚はその上をいくらしい。
速度が上がるにつれ、タイカンの走りはより優雅なものになっていく。ドライバーが言うには、モーターがパワーをアウトプットする方法や、タイカンの重心がポルシェの中でも最も低く位置されているなどから、全体で最もドリフトしやすいクルマであるとのこと。そしてそれを証明するように、雪上に描かれた巨大な円に入ると、彼は車体を円の中心に向け、ハイスピードで数ラップを周回した。
助手席に乗っただけで感想を言うのが難しいのならば、ただ凍った湖の上を走っただけだとなおさら難しいだろう。なので昼食後、わたしはタイカンのプラットフォームのプロジェクトマネージャー、ベルンド・プロプフェと一緒に公道に出ることにした。このプラットフォームはアウディのeトロンGTにも採用され、おそらくベントレーにも採用が見込まれているポルシェ主導の計画だ。
公道では何が起こるかわからない。搭載されているすべてのシステムがオンにされているが、突然ヘラジカが道に飛び出してくるかも知れない。路面は雪と氷に覆われており、とてもじゃないが遊べるような場所ではない。
そんな状況下でもスピードは緩まない。前後にも別のタイカンが走っており、タイカンの艦隊は厳しい路面状況を進んでいく。冬用タイヤは履いているものの、それは一般的なものにしか過ぎない。湖上の上であったようなアグレッシブなものもなく、わたしはただくつろぐだけであった。特筆すべき一番の瞬間はドライな路面が作り出されていたとある橋にさしかかった時だっただろうか。
2トンを超えるタイカンの車体が繰り出す加速力は、0-97km/h加速を3.5秒で達成するミッションEコンセプトのものよりも保守的なものだと感じさせた。
タイカンの今後はいかに
残念なことに、わたしが言えるのはここまでだ。平均的なサイズの大人4人が快適に乗れる室内空間だが、もしも後ろに背が高い人が乗るとすれば窮屈に感じることだろう。パナメーラの方が室内空間は広く保たれている。
タイカンの残りの要素は9月の正式発表まではお預けとなる。ただ現時点で確実に言えるのは、もしもディーゼルエンジンを搭載するデカイSUVがポルシェを名乗れるのだったら、タイカンのような4ドアのコンパクトEVクーペもポルシェを名乗れるということだ。おそらく予想するよりもはるかに小さく、車体も軽い。グリップが弱い路面では、機敏だけでなくその不条理さにも耐えうるものになっている。
多くを語れるほどの良いクルマだが、まばらな表現を用いることしか許されていない。もしもパナメーラが持つ実用性と、911の雰囲気が上手く合わさる適切な点を見つけることができれば、ポルシェは上手い仕事をしたと言えるだろう。
これは非常に大きな問いだが、わたしは依然として答えを知らない。だが現時点で示唆された点を見てみれば、端的に良い物だと言えるだろう。
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